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7.N事件(令和6年(不)第50号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、(1)組合員1名に対し、業務中の事故を理由として、自宅待機命令を発し、それを複数回繰り返し続けたこと、(2)同組合員に対し、関係者と連絡を取ることを禁じていること、(3)団体交渉において、誠実交渉義務違反を繰り返したこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が組合員に対し、自宅待機を計5回命じたことについて
ア まず、不利益性についてみる。
会社が自宅待機中の賃金として支払ったのは、平均賃金の約6割であったのだから、組合員が経済的な不利益を被ったことは明らかである。
イ 次に、組合員であるが故になされたものであったかについてみる。
(ア)最初の自宅待機命令について
a まず、当時の労使関係についてみると、団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえない。
b 次に、会社が自宅待機を命じたことの合理性についてみる。
(a)まず、組合員の乗務中に事故がどの程度発生したのかをみると、1年弱の間に4回事故が発生しており、会社が、組合員について事故の発生頻度が高いと判断したことには理由がある。
また、組合員の運転の状況をみると、月に17回、その翌月には8回、乗務中に時速120kmを超える速度で走行したことが認められ、そのような状況をみると、旅客自動車運送事業者である会社が、組合員について継続して乗務させることを問題視するのは当然のことである。
しかも、自宅待機を命じられる直前の状況をみてみると、組合員は、事故直後であっても時速120kmを超える速度での走行を繰り返したり、高速度での蛇行運転を行っていたのだから、会社が組合員を継続して乗務させることはできないと判断したのは当然のことである。
(b)次に、就業規則との関係についてみる。
上記(a)で記載した組合員の行動をみると、会社が、組合員について、就業規則に違反する行為があったと判断し、自宅待機を命じたことには合理的な理由があったとみるのが相当である。
c 以上のことからすると、組合員が自宅待機を命じられた当時、組合と会社の労使関係は、団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえず、また、会社が自宅待機を命じたことには合理的な理由があるのだから、自宅待機は、組合員が組合員であるが故になされたものとは認められない。
(イ)次に、2回目以降の自宅待機命令についてみる。
a 2回目以降の自宅待機命令は、合理的な理由でなされた最初の自宅待機命令を、就業規則に則って延長したものにすぎないようにもみえる。
b もっとも、理由もなく徒に自宅待機を延長し続けたといった事情が認められる場合には、組合員であるが故に、自宅待機命令を延長したとみる余地もあるので、以下、このような事情が認められるかについて検討する。
自宅待機命令後の経緯をみると、自宅待機の期間満了までに弁明の機会を設けられなかったため、会社は、自宅待機を延長したとみるのが相当である。そうであれば、会社が、理由もなく徒に自宅待機を延長し続けたとの事情は認めらないのだから、組合員であるが故に、延長されたとみることはできない。
c したがって、2回目以降の自宅待機命令は、組合員が組合員であるが故になされたものとは認められない。
(ウ)以上のとおり、自宅待機命令は、いずれも、組合員であるが故になされたものとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、会社が、組合員に対し、自宅待機を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。したがって、この点に関する組合の申立ては棄却する。
(2)会社が、組合員に対し、会社への立ち入りや関係者と連絡を取ることを禁止したことについて
使用者が、従業員に非違行為があるとして懲戒処分を決定するまで当該従業員に自宅待機を命じる場合においては、当該自宅待機命令に付随して、一定程度、当該従業員に対して行動の制限を課すことも許容されるというべきである。もっとも、自宅待機命令に付随して課せられる制限として不合理であると認められる場合には、支配介入に当たり得るので、以下、この点について検討する。
組合は、自宅待機命令書の「遵守事項」において、組合員に対し、会社への立入り禁止、従業員への接触禁止を命じる旨等を記載していることは支配介入である旨主張する。
しかし、会社への立入り禁止は、自宅待機命令に付随して課せられる当然の制限である。
また、従業員への接触禁止については、自宅待機命令書の記載からすると、会社の業務に関する事項に限定して従業員と接触することを禁止しているにすぎないから、かかる制限が不合理な制限であるとはいえない。
その他、自宅待機命令に付随して課される制限として不合理な制限を組合員に課したと認めるに足る事実の疎明はない。
以上のとおりであるから、会社が、組合員に対し、会社の立ち入りや関係者と連絡を取ることを禁止したことは、組合に対する支配介入には当たらない。したがって、この点に関する組合の申立ては棄却する。
(3)団交における会社の対応について
ア 使用者は、誠意をもって団交に当たらなければならず、組合の要求や主張を真摯に受け止め、その具体性や追及の程度に応じた回答や反論を行う義務があり、これを果たさず、実質的な協議に応じなければ、不誠実団交に当たるというべきである。
以下、組合が主張する会社の対応が、不誠実団交に該当するか否かを検討する。
(ア)組合が「共済会」について質問したのに対し、会社は、「共済会という名の労働組合」であると言い張り、組合がその違法性を追及しても、会社は自らの言い分を繰り返すのみで、不誠実な対応に終始した、との主張について
この点について、組合は、共済会という名前の労働組合であると会社が回答したこと自体を問題視するように解される。しかしながら、使用者は、労働組合の見解に沿った回答をする義務まではないのだから、組合の見解とは異なる見解を会社が回答したからといって、その回答の内容が違法なものであるかにかかわらず、組合の追及の程度に応じた回答があれば、会社の対応が不誠実団交に当たるとはいえない。
そして、団交におけるやり取りをみると、会社は、組合からの追及の程度に応じて、自らの見解を回答しているとみるのが相当である。
したがって、この点に関する組合主張は採用できない。
(イ)雇用半年後の有給休暇は10日であるのに雇用契約書では5日と記載されていた件について、会社が、実害がないとして社員の損害賠償はしない旨回答した、との組合主張について
この点について、組合は、会社が損害賠償はしない旨回答したことをもって、不誠実団交に当たる旨主張していると解される。しかしながら、そもそも、使用者には、労働組合からの要求を受け入れたり、それに対し譲歩をしたりするまでの義務はない。したがって、会社が、社員の損害賠償はしない旨回答したからといって、そのことのみをもって、不誠実団交には当たらない。
また、団交における有給休暇の件に関する会社の対応は、組合の追及の程度に応じて自らの見解を述べていることから、不誠実団交に当たるとはいえない。
したがって、この点に関する組合主張は採用できない。
(ウ)団交中であるにもかかわらず、会社が組合員に直接処分を通告したことについて、会社は団交権を無視する発言を繰り返した、との組合主張について
使用者と労働組合との間で、組合員の労働条件に関する団交が行われている最中であったとしても、労働条件の変更に係る事前協議を定めた労働協約が存するなどの特段の事情がない限り、使用者は、組合員の労働条件を変更したり、処分を行うのに当たり、労働組合と事前に協議しなければならない義務はない。そして、会社と組合との間で、事前協議約款が締結されていたとの主張も疎明もないのであるから、会社が組合員に対して自宅待機を命じるに当たり、事前に組合と協議しなければならない義務はない。また、会社が組合員に対して自宅待機を命じるに当たり、組合を通さなければならない義務もない。
これを前提として、団交における会社の発言をみると、会社は、組合が主張するような発言をしていることは認められるが、これは、組合からの質問に対し、組合の追及の程度に応じて会社の見解を説明したものとみるべきであって、団交権を無視する発言とはいえない。
したがって、この点に関する組合の主張は採用できない。
(エ)会社が事実と異なる発言をした、との組合主張について
組合の指摘する会社発言が、事実と異なるものであったと認めるに足る事実の疎明はなく、会社発言が組合に対する不誠実な応答であるとは認められない。
したがって、この点に関する組合の主張は採用できない。
イ 以上のとおり、組合の主張はいずれも採用できないのであるから、団交における会社の対応は、不誠実団交には当たらない。
したがって、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却