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9.H事件(令和5年(不)第62号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、(1)組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しない旨を通知したこと、(2)組合からの団体交渉申入れに応じなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことについて
ア 会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
(ア)会社においては、社員が65歳を超えて契約を更新される可能性も一定存在していたといえ、会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことが、身分上及び経済上の不利益性を有することは、明らかである。
(イ)次に、会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことは、組合員であるが故になされたものであるかについてみる。
a 65歳以降の雇用契約の更新基準については、具体的に定めたものが会社に存在しないことが認められ、会社の恣意により、組合の組合員のみを組合員であるが故に不利益に取り扱う可能性がないとはいえない。
b 会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えた時期において、組合に対して嫌悪を抱いていたとか、組合と会社の間が緊張関係にあったなどの事実は認められない。
c 組合の主張する他の従業員との不均衡の事例は、いずれも事実が判然とせず、他の従業員と比較して不均衡があったと認めることは困難である。
d 組合の執行委員長が事故を起こした事実、苦情を受けた事実及び業務指示を拒否して譴責の懲戒処分を受けた事実を考慮し、会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しなかったことには、合理的な理由があったといえる。
(ウ)以上のとおりであるので、会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。
イ また、会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことは、組合員であるが故に行われたといえず、組合を排除し、組合活動を妨害する目的で行われたと認めるに足る事実の疎明もないことから、支配介入にも該当しない。
ウ 以上のとおりであるから、会社が、組合の執行委員長に対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことに関する組合の申立てを棄却する。
(2)会社が、組合からの団交申入れに応じなかったことについて
ア 労働組合法第27条第2項は、不当労働行為救済申立てが「行為の日(継続する行為にあつてはその終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。」と規定している。
イ 本件においては、組合の申入れに係る会社の行為は、救済申立ての日の1年前の日より以前に行為として完了しているとみることができる。
ウ 以上のとおりであるから、組合の申入れに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過しているといえ、その余を判断するまでもなく、この点に関する組合の申立てを却下する。
3 命令内容
(1)雇用契約を更新しない旨を通知したことに係る申立ての棄却
(2)その他の申立ての却下