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4.E1/E2事件(令和6年(不)第37号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、申立人が、企業内労働組合であるE2組合の組合員でもある、組合員1名の申立人組合への加入をE1社に通知したところ、E2組合が、労働協約に基づき、E1社からの承認を得た上で、当該組合員を勤務時間中に複数回呼び出し、尋問や申立人組合からの脱退勧奨を行ったこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)E2組合がA組合員に対して行った行為は、E1社による、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、申立人組合に対する支配介入に当たるかについて
ア まず、E2組合の面談における行為が、E1社による行為といえるかについてみる。
イ E1社とE2組合の法人格は異なるから、E2組合の行為が直ちにE1社の行為であるとはいえない。これに対し、申立人組合は、面談におけるE2組合の行為は、E1社の申立人組合に対する反組合的意思に基づいて行われた行為であるとし、その根拠として、(a)E1社がE2組合に本件労働組合加入通知書を手交したこと、(b)E2組合に対し業務時間中の組合活動を承認したこと、(c)当時のE2組合執行委員長は人事部所属であったこと、(d)申立人組合が団体交渉において要求した後もE1社が何ら対応しなかったことを挙げるので、以下検討する。
(ア)まず、申立人組合根拠(a)についてみる。
E1社は、E2組合に本件労働組合加入通知書を手交したことが認められるが、これをもって、E2組合の行為が、E1社による行為であるという申立人組合の主張を認めることはできない。
(イ)次に、申立人組合根拠(b)についてみる。
E2組合がE1社に提出した申請書の記載内容や、E1社が、本件労働協約に基づき申請を承認したことからすれば、E1社は、E2組合が自らの組合員に対して別組合に加入した事実に関するヒアリングを実施するため、就業時間内に組合活動を行う旨の申請に対して、本件労働協約に基づき承認をしたものであるから、当該申請を承認したことを根拠に、E2組合の行為が、E1社による行為だとする申立人組合の主張を認めることはできない。
(ウ)さらに、申立人組合根拠(c)についてみる。
E2組合執行委員長は、令和5年8月の時点において、「グローバル人材開発本部・人事部」の所属であることが認められる。しかし、E1社においては、外部出向者は全員「グローバル人材開発本部・人事部」所属となっていたことが認められるのであるから、執行委員長の所属を根拠として、E2組合の行為が、E1社による行為といえるという申立人組合の主張を認めることはできない。
(エ)最後に、申立人組合根拠(d)についてみる。
申立人組合が本件抗議書にて、E2組合が勤務時間中にA組合員を呼び出し、尋問や脱退勧奨を行ったこと等について謝罪を求めたこと、団交において、申立人組合が、E2組合による脱退勧奨をE1社から注意するよう要求したこと、E1社は、これに対し、E1社としては、E2組合による脱退勧奨が行われたとは認識していない旨、脱退勧奨との誤解を招くような行動を今後行わないようにと伝達したが、再度伝達する旨の回答を行うなど自らの意見を表明したことが認められる。しかし、団交における申立人組合の要求に従った対応をE1社がとっていなかったとしても、このことをもって、E2組合の行為が、E1社による行為だという申立人組合の主張を採用することはできない。
ウ これらのことからすれば、面談におけるE2組合の行為がE1社の申立人組合に対する反組合的意思によって行われたE1社による行為であるという申立人組合の主張を認めることはできない。よってその余を判断するまでもなく、この点に係る申立人組合の申立ては棄却する。
(2)E2組合はA組合員の労働組合法上の使用者に当たるか。当たるとすれば、E2組合がA組合員に対して行った行為は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、申立人組合に対する支配介入に当たるかについて
ア E2組合がA組合員の直接の雇用主でないことに争いはない。ただし、労働組合法第7条の「使用者」とは、労働契約上の雇用主だけには限らず、労働者の基本的な労働条件に関して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者については、「使用者」に当たると解するのが相当であるので、A組合員が加入していた労働組合であるE2組合がこのような意味で労働組合法上の使用者に該当するといえるかについてみる。
イ 申立人組合は、A組合員の同意なく、E2組合がA組合員との勤務時間中の面談という組合活動をE1社に申請し、その詳細な活動時間もE1社管理職である工場長とE2組合との調整後に決定された旨、このことから、A組合員はE2組合による面談の呼出しを拒否することはできないので、A組合員はE2組合の指揮命令下にあり、この状況におけるE2組合は、「雇用主と部分的に同一視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあったと主張する。
しかしながら、就業時間中の面談に際し、本件労働協約に基づくE1社の承認を得た上で、A組合員の直属の上司である工場長と実施時間の調整がなされたとしても、このことをもって、面談が労働組合と組合員との関係において、組合活動として実施されたものであるという以上に評価することはできない。このほかには組合からの疎明はないのであるから、この状況だけをもって、E2組合が、A組合員の基本的な労働条件を、雇用主と部分的に同一視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとはいえない。
ウ 以上のことから、E2組合はA組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえず、その余を判断するまでもなく、この点に係る申立人組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。