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4.N事件(令和6年(不)第39号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1)団体交渉における組合の分会長の発言に対する会社工場長の対応、(2)会社の課長による同分会長に対する発言、(3)会社が、同分会長を出荷検査業務に専従させ、令和6年度の昇給を行わず、夏季一時金においてもマイナス査定を行い、前年度よりも減額支給したこと、(4)面談における同工場長及び同課長による同分会長に対する発言が、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)団交における、工場長の、分会長に対する発言は支配介入に当たるかについて
ア 工場長は会社の常務取締役であるから、労働組合法第2条第1号の使用者の利益代表者に該当する。
したがって、工場長の発言の内容、手段、方法、時期、発言の与える影響等を総合考慮し、当該発言が、組合員に対し、威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、一般的に影響を及ぼしたりする可能性がある場合は、使用者の支配介入に該当すると解される。
イ 団交における、工場長の発言内容は、団交で初めてパレットに関する事故が起こりかけた事案について知ったとして、その事実及び会社内部における情報伝達の有無を確認するために、分会長に対して、同事案について会社に対し報告したのか尋ねたものと認められる。また、団交の席上とはいえ、かかる事案が発生したとの情報が会社内部でどのように伝達されたかを確認するために組合の発言を一時的に制止したとしても、それが組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、その可能性を有するとはいえない。
したがって、工場長が上記一連の発言を行ったことをもって、組合としての活動や発言を制限する可能性があったとは認められない。
ウ 以上から、団交における工場長の上記発言は、支配介入に当たるとはいえないので、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(2)2回の面談における課長の分会長に対する発言は組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 課長の、2回の面談における発言は、分会長が上記パレットに関する事案を組合に報告したことを咎め、今後も会社での出来事を組合に報告したり、組合の分会長という立場を続けるなら、分会長の服務規律違反を追及したり、今後の人事評価に悪影響が及んだり、退職を促したりすることがありうることを示唆するものである。したがって、これらの発言を会社の使用者が行ったのであれば、組合員及び組合に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼしたといえる。
確かに、課長は職制上、一般的には労働組合法第2条第1号の「利益代表者」に該当するとはいえないが、利益代表者に当たらない場合でも、使用者に近接する職制上の地位にある者が、使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行ったといえる場合には、当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価すべきである。
イ 第一に、課長が使用者に近接する職制上の地位にあるかについてみる。
(ア)工場長は使用者の利益代表者といえるところ、課長は、会社の利益代表者である工場長に次ぐ地位にあったことが認められる。
(イ)また、(a)課長は、分会長を含む品質管理部の査定評価者の一人であったこと、(b)課長が初めに評価し、次に工場長が評価を行い、最終的には会社の役員会で最終査定が行われていたこと、(c)課長による評価結果は昇給金額及び一時金の支給額に影響を与えることが認められることからすると、課長は、部下の人事査定に関する影響力を有していたといえる。
(ウ)さらに、本件審問における、分会長の出荷検査業務への専従の判断についての課長及び工場長の証言からすると、分会長を含む品質管理部内の業務内容は、課長と工場長との話し合いによって決定されていると認められる。
以上のことから、課長は、形式的にも実質的にも会社の利益代表者である工場長に近接する職制上の地位にあるといえる。
ウ 次に、課長の行為は使用者の意を体した行為といえるかについてみる。
使用者の意を体するとは、使用者の意向や考えを理解してこれに従った行為をすることであって、それに当たるかどうかは、行為者の組織上の地位及び権限、行為の時間・場所・態様、使用者と行為者の言動の一致や類似性等の諸事情を考慮して判断すべきである。
行為者の組織上の地位及び権限についてみると、前記イ判断のとおり、課長は使用者に近接する職制上の地位にあったといえる。
また、行為の時間・場所・態様についてみると、1回目の面談は団交の翌日に、2回目の面談は、団交の1週間後に行われていること、課長は団交に出席していなかったこと、両面談は業務時間中に品質管理部内で行われていたことが認められる。
最後に、使用者と行為者の言動の一致や類似性についてみると、2回の面談における課長の発言は、同人が参加していない団交における使用者の発言と一致もしくは極めて類似しており、その言葉の端々から使用者との意思疎通に基づく強い結びつきが認められる。したがって、課長は、本件団交でのやり取りを工場長等から聴取し、組合及び分会長に関する認識を使用者と共有したうえ、分会長に対して、団交での使用者の発言内容をなぞり、これを分会長に伝えたとみるのが相当である。
以上のことから、2回の面談における課長の発言は、会社使用者の意を体して行われた行為であるといえる。
エ したがって、2回の面談における課長の発言は、会社の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が、使用者の意を体して労働組合に対して行った会社による支配介入といえるから、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
(3)会社が、分会長を出荷検査業務に専従させたこと、昇給を行わなかったこと及びマイナスの査定に基づく夏季一時金を支払ったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 分会長を出荷検査業務に専従させたことについて
(ア)まず、不利益性についてみる。
組合は、出荷検査業務は賃金の上がる見通しがない業務であるから、分会長を同業務へ配置換えすることは不利益な取扱いであると主張するが、会社における出荷検査業務に関し賃金の上がる見通しがないと認めるに足りる主張及び事実の疎明はない。
よって、その余を判断するまでもなく、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(イ)次に、支配介入に当たるかについてみる。
会社が、分会長を出荷検査業務に配置転換することによって、組合員又は組合に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼす可能性があったとする事実の疎明はないので、組合の申立ては棄却する。
イ 会社が分会長の昇給を行わなかったこと、及び分会長に対し、マイナスの査定に基づく令和6年度夏季一時金を支払ったことについて
(ア)組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
a まず、不利益性についてみる。
分会長の昇給はなかったことが認められるから、同人に経済的不利益が生じたといえる。
また、会社は、分会長に対し、マイナスの査定に基づく夏季一時金を支払ったことが認められる。マイナスの査定が行われていなければ、分会長に支払われる夏季一時金の金額は増加していたのであるから、分会長に対する経済的不利益が生じたといえる。
b 次に、労働組合の正当な行為をしたことの故に行われたかについてみる。
(a)当時の労使関係について
昇給後初の給与が支払われる約1か月前には団交が、団交翌日以後には課長による2回の面談が行われたことが認められる。また、前記(2)判断のとおり、2回の面談における課長の発言は会社使用者の行為と認められ、支配介入に当たることからすると、分会長に関する昇給に関する査定が行われた当時の労使関係は強い緊張関係にあり、会社の反組合的意思が存在しており、夏季一時金支給時点においても、継続していたとみるのが相当である。
(b)昇給査定及び夏季一時金査定の理由について
査定面談における工場長及び課長の説明からすれば、会社は、組合の活動や分会長の組合員としての活動を捉えて、これをマイナス査定していることが認められる。
c 以上のことからすると、会社が分会長の昇給を行わなかったこと及び分会長に対し、マイナスの査定に基づく夏季一時金を支払ったことは、分会長が労働組合の正当な行為をしたことの故をもって行った不利益な取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
(イ)次に、支配介入に当たるかについてみる。
上記(ア)判断のとおり、分会長の昇給を行わなかったこと及び分会長に対し、マイナスの査定に基づく夏季一時金を支払ったことは、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって行った不利益な取扱いであるところ、使用者が組合員に対し、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって不利益取扱いを行えば、組合員の組合活動を萎縮させ、他の従業員の組合加入を抑止するなどの効果をもたらすといえる。
したがって、会社が、分会長の昇給を行わなかったこと及び分会長に対し、マイナスの査定に基づく夏季一時金を支払ったことは、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(4)査定面談における課長及び工場長の分会長に対する発言は、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア まず、昇給に係る面談における工場長及び課長の発言について検討する。
前記(3)イ判断のとおり、昇給に係る面談における工場長と課長の発言は、組合の活動や分会長の組合員としての活動を捉えて、これを理由にマイナス査定する旨の発言である。また、これらの発言が工場長及び課長が会社として行う人事面談において行われたことに鑑みると、当該発言が分会長に対して威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼす行為であるといえるから、労働組合法第7条第3号に該当する支配介入に当たる。
イ 次に、一時金に係る面談における工場長及び課長の発言について検討する。
前記(3)イ判断のとおり、一時金に係る面談における課長及び工場長の発言は、両者が会社として行う人事面談において行われたことに鑑みると、分会長が行った正当な組合活動によって、一時金に関する査定をマイナスにすることを正式に告げるものとみることができるから、分会長に与える影響は大きく、同人の組合活動に萎縮効果を与えるものといえる。
よって、一時金に係る面談における工場長及び課長による発言は、組合活動に対して威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすものであり、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
3 命令内容
(1)昇給に係るマイナス査定がなかったものとしての取扱い及びその場合の昇給額に基づく賃金支給額と既支払額との差額の支給
(2)夏季一時金に係るマイナス査定がなかったものとしての取扱い及び既支払額との差額の支給
(3)誓約文の交付
(4)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。