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10.E事件(令和6年(不)第18号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社の従業員1名が店長から解雇通告を受けて組合に加入し、組合が団体交渉を申し入れたところ、会社が、代表者の居住地である埼玉県での開催を主張し続けて団交を拒否したことが、不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)本件団交申入れの要求事項が義務的団交事項に当たるかについて
本件団交申入れの要求事項は、いずれも、主に、組合員の解雇問題に関しての要求という労働条件その他の待遇に係る事項であるから、義務的団交事項に当たる。
(2)会社が組合の求める場所及び方式での団交に応じなかったことに、正当な理由があるかについて
ア 会社は、大阪に直接赴くことができないため、埼玉県での又はZoomでの団交開催を希望した旨主張するので、会社が埼玉県での開催又はZoomでの開催を団交の条件としたことに、正当な理由があるかについてみる。
イ まず、会社が埼玉県内での開催を団交の条件とした点についてみる。
(ア)労使関係が展開している場所は大阪市及び大阪府東大阪市であったとみることができるから、団交の場所は、大阪市及び大阪府東大阪市を基本とすべきである。
(イ)会社が、団交の場所として、基本とすべき大阪市及び大阪府東大阪市ではなく、埼玉県を指定したことに合理的な理由があるかについてみる。
a 会社が団交の場所として埼玉県を指定した理由は、「社長が埼玉県内の別店舗に毎日出勤しており、その業務を休むと損害が出るため」であったということができる。
b しかし、団交はそもそも会社が法人として対応するものであって、社長が個人として対応するものではないのであるから、会社は、社長が多忙で出席できないというのであれば、交渉権限を付与した従業員を団交に出席させることもできるのであって、団交を埼玉県内で開催しなければならない理由はない。
c 仮に、交渉権限を付与することのできる従業員がいないなど、社長本人が出席しなければ交渉ができない事情があったとしても、多忙などといった社長個人の都合により、会社の本社所在地から遠く離れた埼玉県内において団交を開催しなければならない理由はない。
d 以上のことからすると、団交の場所として埼玉県を指定したことに、合理的な理由はない。
(ウ)そのほか、会社が大阪市又は大阪府東大阪市での団交開催に応じないことに、正当な理由を認めるべき特段の事情もない。
(エ)したがって、会社が埼玉県内での開催を団交の条件としたことに、正当な理由はない。
ウ 次に、Zoomでの開催を団交の条件としたことについてみる。
(ア)団交は、本来利害の対立する労使双方が同席、相対峙して自己の意思を円滑かつ迅速に相手に直接伝達することによって協議、交渉を行うことが原則であるから、対面で行えない特段の事情がない限り、Zoom等を利用したウェブ上での開催を団交の条件とすることは、対面での団交を拒否する正当な理由にはならない。
(イ)会社がZoomでの団交開催を求めた理由が「社長が埼玉県内の別店舗に毎日出勤しており、その業務を休むと損害が出るため」であったといえることは、前記イ(イ)aのとおりである。しかし、団交はそもそも会社が法人として対応すべき業務であって、社長個人の多忙が対面での交渉、協議を行えない理由にはならないのであって、会社がZoomでの開催を団交の条件とするべき特段の事情があったとはいえない。
(ウ)したがって、会社がZoomでの開催を団交の条件としたことに、正当な理由はない。
エ 以上のことからすると、会社が、埼玉県での又はZoomでの開催を団交の条件としたことに正当な理由はない。
(3)以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)大阪市内又は大阪府東大阪市内における団交応諾