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更新日:2025年8月5日

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14.Y事件(令和5年(不)第39号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、会社が、(1)別組合を脱退して組合に加入した組合員1名に対し、過去に組合と会社が締結した労働協約に基づく組合所属の組合員に適用してきた労働条件を適用しなかったこと及び(2)この点に関する団体交渉において不誠実な交渉態度を取ったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)会社のA組合員の組合加入以降の労働条件についての取扱いは、過去に組合と会社が締結した労働協約に違反しているとして、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるかについて

ア A組合員が組合に加入したにもかかわらず、過去に組合と会社が締結した労働協約(賃金の確認書、賃金の覚書、勤務手当の確認書、組合退職金規定及び有給休暇の協定書)が適用されていない事実に争いはない。

これらの労働協約がA組合員に当然に適用されるべきものであれば、本来適用される労働条件が適用されないという点においてA組合員に不利益があるといえ、また、会社が労働協約に定められた事項を遵守せず、そのことが、組合の団結権やその存在自体を軽視するものであって、組合を弱体化すると認められる場合には、支配介入に当たるといえるのであるから、当該会社の対応については、不利益取扱い及び支配介入に当たる可能性があるといえる。

そこで、以下、それぞれについてみる。

イ まず、賃金の確認書及び賃金の覚書についてみる。

(ア)賃金の確認書及び賃金の覚書は、確認書及び覚書作成当時に所属していたB組合員らのみの賃金是正を定めたものとみるのが相当である。

(イ)加えて、運転手については、協定書や確認書等により新規の組合加入者についての賃金是正が行われていた例はあるものの、運転手と現場作業員で職種が異なっており、会社においては、職種ごとに労働条件に相違があること、運転手についての賃金の協定書や確認書等と現場作業員の賃金の確認書とは記載が異なっていることから、現場作業員であるB組合員らの賃金是正に係る賃金の確認書でもって同様にA組合員のような現場作業員の新規の組合加入者についてB組合員らを基準とした賃金是正を行っていくことが当事者の共通認識であったとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、賃金の確認書及び賃金の覚書は、A組合員にも当然に適用されるべきものであったとみることはできず、A組合員が特段の不利益を受けたとみることはできない。

(エ)また、そうである以上、会社の対応が組合の団結権やその存在自体を軽視し、組合を弱体化するものともいえないから、この点に係る組合の主張は採用できない。

ウ 次に、勤務手当の確認書についてみる。

勤務手当の確認書に関する交渉において、新たに組合に加入する現場作業員についても適用されることが組合と会社で了解されていたことについての組合の疎明はない。そして、勤務手当の確認書の記載から、勤務手当の確認書は、B組合員らのみの勤務手当を定めたものとみるのが相当である。

したがって、勤務手当の確認書は、A組合員にも当然に適用されるべきものであったとみることはできず、A組合員が特段の不利益を受けたとみることはできない。

また、会社の対応が組合の団結権やその存在自体を軽視し、組合を弱体化するものともいえないから、この点に係る組合の主張は採用できない。

エ 最後に、組合退職金規定及び有給休暇の協定書についてみる。

(ア)組合退職金規定及び有給休暇の協定書は、組合の組合員全てに適用されるべきものであり、特段の事情がない限り、A組合員にも適用されるべきものであるといえる。

そうすると、当該会社の対応は、不利益取扱い及び支配介入に当たる可能性があるので、以下、それぞれについて検討する。

(イ)まず、会社のA組合員の組合加入以降の退職金、有給休暇の年間日数についての取扱いは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。

a 組合退職金規定及び有給休暇の協定書は、前記(ア)判断のとおりであるから、組合退職金規定及び有給休暇の協定書をA組合員に適用しないことは、不利益があると考えられる。

b そこで、組合退職金規定及び有給休暇の協定書をA組合員に適用しないことが、組合員であるが故といえるかについてみる。

交渉経緯や事務折衝におけるやり取りからすると、退職金及び有給休暇の取扱いについては、組合と会社の間においては、別途それらだけを単独で解決するのではなく、A組合員の労働条件全体を取り決める中で決定していくべきものとの共通認識があったものとみることができる。

そして、本件申立ての時点において、会社がA組合員の労働条件に関しては未だ組合との交渉の途中であると認識し、退職金及び有給休暇の取扱いのみを先行して認めていなかったとしても無理はないものといえる。

以上のことを総合的に勘案すると、組合退職金規定及び有給休暇の協定書をA組合員に適用しないことは、A組合員が組合員であるが故に行われたものとまでいうことはできない。

また、ほかに組合から、当該行為が、組合員であるが故であるとすることの根拠について、具体的な主張も事実の疎明もない。

c 以上のとおりであるから、組合退職金規定及び有給休暇の協定書をA組合員に適用しないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとは認められない。

(ウ)次に組合に対する支配介入に当たるかについてみる。

組合退職金規定及び有給休暇の協定書については、前記(ア)判断のとおり、組合の組合員全てに適用されるべきものであり、特段の事情がない限り、A組合員にも適用されるべきものであるといえるものの、前記(イ)判断の事情からみれば、本件申立て時点において、会社が、A組合員に対し、組合退職金規定及び有給休暇の協定書を適用していないことをもって、組合の団結権やその存在自体を軽視し、組合を弱体化するような対応であるとみることはできず、支配介入行為を認めることはできない。

オ 以上のとおり、会社のA組合員の労働条件についての取扱いは、組合員であるが故の不利益取扱いとも、また、組合を弱体化させるための支配介入であるともいえないのであるから、この点に係る組合の申立ては棄却する。

(2)団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるかについて

ア 本件各団交の交渉議題は、A組合員の労働条件に関することであり、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、会社に処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たるといえる。そうすると、会社は、誠意をもって当該団交に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があり、これを果たさず、実質的な協議に応じなければ、不誠実団交に当たるといえるので、以下検討する。

イ まず、賃金是正に関する会社の対応についてみる。

(ア)会社は、A組合員の賃金是正に関して、会社の立場や認識についての説明やA組合員の待遇改善についての会社提案等を行っているといえ、前記(1)判断のとおり、賃金の確認書及び賃金の覚書は、新たに組合に加入する現場作業員に当然に適用されるとはいえないことを併せ考えると、会社は、一定の根拠をもって実質的な協議に応じているといえる。

(イ)組合は、会社がA組合員の賃金是正を拒絶したことが不誠実団交に当たる旨主張するが、使用者には団交において組合の要求を受け入れたり、それに対し譲歩をしたりするまでの義務はなく、組合の要求に応じないことのみをもって誠実交渉義務に反するとはいえない。

(ウ)以上のとおり、賃金是正については、会社は実質的な協議に応じているといえ、この点に係る組合の主張は採用できない。

ウ 次に、組合退職金規定及び有給休暇の協定書のA組合員への適用に係る会社の対応についてみる。

会社は、組合退職金規定及び有給休暇の協定書についてA組合員への適用に応じていないといえるが、前記イ判断のとおり、使用者には団交において組合の要求を受け入れたり、それに対し譲歩をしたりするまでの義務はないのであるから、そのことをもって、誠実交渉義務に反するとはいえない。また、前記(1)判断のとおり、退職金及び有給休暇の取扱いについては、本件各団交においては、未だ交渉途中であったといえ、その後、約10回、当該事項に関して組合と会社の間で事務折衝が行われていることからしても、交渉途中の拒否回答をもって、不誠実団交に当たるということはできない。

以上のことからすると、本件団交において、会社が、A組合員について組合退職金規定及び有給休暇の協定書がA組合員に適用できない旨の回答をしたことについては、不誠実団交に当たるとはいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件各団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。

3 命令内容

本件申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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