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1.K事件(令和5年(不)第60号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1) 会社が、組合員1名を解雇したこと、(2) 会社が、組合員2名に対して、組合を誹謗中傷するメッセージ等を繰り返し送信し、組合から脱退するよう働きかけたことが、不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が、A組合員を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて
本件解雇は、組合が会社に対してA組合員は組合の組合員であることを通知する前に行われたのであるから、組合員であることを理由としたものでないことは明らかである。
したがって、その余を判断するまでもなく、会社が、A組合員を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらない。
以上のとおりであるから、この点の組合の申立ては棄却する。
(2)会社代表取締役がA組合員に対して本件メッセージを送信したことは、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 労働組合法第7条第3号は、使用者に対し、労働者が労働組合を結成し、もしくは運営することを支配し、もしくはこれに介入すること等を不当労働行為として禁止している。
したがって、労働組合に対する使用者の言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、労働組合の組識、運営に影響を及ぼすような場合は支配介入となるというべきである。
イ 本件メッセージには、「ディサービスのスタッフもAさんが依頼した先の事見てますよ。皆んなびっくりしてますよ。いいんですか?今まで自分が一生懸命してきた信用とか全部無くなりますよ。皆んな怖いと思ってますよ。」、「ディサービスには絶対来ないで下さい。よくあんな人物介入させてそんな事言えるのがわかりません。皆んな動揺してます」、「恐喝ですよ。」等との記載があることが認められる。
かかる記載は、A組合員が組合に加入したことに対する非難や、組合に対する極めて否定的な評価を前提として本件解雇に組合が関与することを非難するものである。このことに、本件メッセージが送信されたのが、組合執行委員長が会社代表取締役にA組合員が組合員であることを伝えた直後であること、会社代表取締役は会社の代表者という立場にあることも併せ考えると、本件メッセージがA組合員に与える影響は大きく、A組合員が組合に所属し続けることについて心理的な圧力を受けることは容易に推認できるのであるから、本件メッセージは、A組合員に対して威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすものとみるのが相当である。
ウ 以上のとおりであるから、会社代表取締役がA組合員に対して本件メッセージを送信したことは、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(3)会社代表取締役がA組合員と親子関係にあるB組合員に対して本件メールを送信したことは、組合に対する支配介入に当たるかについて
本件メールには、「Bさんもある程度の企業にお勤めだったと思います。」、「お勤め先の会社の人事部はどう思います。正気ではないです。」、「本当にそんな労働組合に所属していいんですか 名簿出回りますよ。」、「お母さんにも言いましたが、こちらの弁護士に自分が言いたい事、例えば対価でも結構です。こうして欲しいとか伝えて話を聞いて頂いたらどうですか それかBさんと自分が対面して話し合いをするのも結構です。お母さんからも希望を聞いて摺合せする事もいいです。」、「お母さんは自分がしている事、対応方法をもっと考える必要があります。この問題が終わり冷静に考えれるようになった時自分がとんでもない事をしたとわかると思います。」、「ああいう方たちと関係を持つのはよくないと思います。」、「Bさんしかお母さんに説得できる人は居ません。」、「今ならお互い穏便に対応出来ます。」との記載があることが認められる。
かかる記載は、B組合員が組合に加入したことを非難し、組合に所属し続けることについて心理的な圧力を与えた上で、B組合員に対して、組合を通さず、直接会社と交渉するよう働きかけたものであるのだから、本件メールは、組合とA組合員及びB組合員との間の分断を図るものである。
以上のとおりであるから、本件メールは、B組合員に威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすものとみるのが相当である。
したがって、会社代表取締役がB組合員に対して本件メールを送信したことは、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)誓約文の交付
(2)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。