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更新日:2025年8月5日

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15.H事件(令和5年(不)第37号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、社会福祉法人が、(1)職場で春闘行動の一環としてアンケート用紙を配付した組合員1名を雇止めとしたこと、(2)これに関して開催された団体交渉に誠実に対応しなかったことが、不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)社会福祉法人が、A組合員を雇止めとしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるかについて

ア 不利益取扱いについて

(ア)まず、A組合員が不利益を被ったといえるかについてみる。

社会福祉法人は、A組合員に対し、同人が希望すれば、少なくとも6か月間は再雇用されると期待させる言動をしている。そして、A組合員は、再雇用を希望する旨の申出を行っているのであるから、同人には、雇用契約が更新され、少なくとも6か月間は再雇用されることにつき、合理的期待が存在したとみるのが相当である。

よって、A組合員は有期雇用契約ではあるが、契約更新を合理的に期待できる状況であったにもかかわらず契約更新されず、雇止めとなったのであるから、同人は、身分上の不利益及び経済的な不利益を被ったというべきである。

(イ)次に、社会福祉法人がA組合員を雇止めとしたことが、同人が組合員であるが故になされたものであるかについて、検討する。

a この点について、社会福祉法人は、A組合員の契約更新を拒絶するに際しては勤務態度の不良があれば十分であるところ、A組合員が本件書面を配付したことが、就業規則に違反しており、少なくとも勤務態度の不良であることは明白であるため、不利益取扱いには該当しない旨主張する。

そこで、本件配付行為について、具体的にみていく。

(a)まず、本件配付行為について、社会福祉法人が組合活動であると認識していたかについて、検討すると、社会福祉法人は、組合活動について記載してあることが明白な本件書面を見ており、同書面を配付する行為は組合活動であることが容易に認識できたといえ、社会福祉法人も、本件配付行為は、組合活動であったと認識していたとみることが相当である。

(b)次に、本件配付行為をもって、「勤務態度の不良」に該当するとして、雇止め理由としたことに合理性があるかについてみる。

本件配付行為は、就業規則に形式的には該当しているといえる。しかしながら、現場責任者が本件配付行為について認識してからA組合員に雇用契約終了通知書を交付するまで、1か月以上の期間があったにもかかわらず、社会福祉法人はA組合員に対して、本件配付行為について注意や事実確認を行っていない。かかる対応からすると、そもそも、社会福祉法人が、当初から本件配付行為により職場の規律が損なわれたとみていたのかについて疑問がある上、社会福祉法人は、A組合員に対して事実確認を行わないまま、雇止めと理由となるような「勤務態度の不良」に該当するとしているのであるが、かかる対応は、あまりに性急に過ぎるといわざるを得ない。

そうすると、社会福祉法人が、本件配付行為をもって、「勤務態度の不良」に該当するとして、雇止め理由としたことに合理性があるとは認めがたい。

b 以上のことからすると、社会福祉法人が、A組合員を雇止めとしたのは、「勤務態度の不良」というより、むしろ、組合員であることを理由として雇止めを行ったとみるのが相当であり、同人が組合員であるが故になされたものであるといえる。

(ウ)以上のとおりであるから、社会福祉法人が、A組合員を雇止めとしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 支配介入について

社会福祉法人は、組合活動を理由として雇止めを行ったといえるところ、かかる社会福祉法人の行為は、社会福祉法人の従業員が組合に加入し、組合活動を行うことを躊躇させるものであるから、組合の運営を阻害したというのが相当である。

したがって、社会福祉法人が、A組合員を雇止めとしたことは、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(2)社会福祉法人の対応は、不誠実団交に当たるかについて

ア 組合は、不誠実団交に当たる社会福祉法人の対応として、(ア)録音禁止を団交開催の条件としたこと、(イ)社会福祉法人が、A組合員の雇用契約終了の理由について、具体的な説明をせず、雇用契約終了通知書に書いたとおりである旨を繰り返したこと、(ウ)団交がパワハラになっている旨の発言をし、組合に対し圧力をかけたこと、(エ)団交において、「相手方が仕事以外のところで恐怖を感じたらパワハラです」と発言したにもかかわらず、その後の団交において、「言っていません」等と態度を一変させ、事実究明を妨げるとともに、団交を混乱させたこと、を挙げている。

(ア)組合主張(ア)について

社会福祉法人は、組合が録音禁止に応じなければ団交を開催しないという対応を取っていないのであるから、録音禁止を団交開催の条件としたとみることはできない。

したがって、組合主張(ア)は採用できない。

(イ)組合主張(イ)について

社会福祉法人は、(a)A組合員が就業規則に違反する行為を行ったことを問題視していること、(b)社会福祉法人の許可なく、職員を仕事時間中に呼び止めて、本件書面を配付してことが違反行為であると判断したこと、(c)配付物の内容に関係なく、印刷物を配布するのに社会福祉法人の許可は必要であること、(d)実際に配ったビラを入手したので、それを根拠に判断したこと、を説明しているのだから、A組合員の雇用契約終了の理由については、一定の説明をしているとみるのが相当である。

したがって、組合主張(イ)は採用できない。

(ウ)組合主張(ウ)について

社会福祉法人のパワハラに関する発言によって、協議に支障があったと認めることはできないのであるから、かかる発言のみをもって、団交での社会福祉法人の対応が、不誠実団交に当たるとまではいえない。

したがって、組合主張(ウ)は採用できない。

(エ)組合主張(エ)について

a まず、組合は、社会福祉法人は、真実究明を妨げた旨主張する。

組合からのパワハラに関する質問や要求に対する社会福祉法人の回答には、不明瞭な点あることは否めない。しかしながら、団交の議題は、A組合員の雇止めであるところ、組合のパワハラに関する質問は、団交議題であるA組合員の雇止めと直接的には関係しないものといわざるを得ない。そうであれば、これに対する社会福祉法人の回答に不明瞭な部分があったとしても、そのことをもって不誠実団交に当たるとはいえない。

b 次に、組合は、社会福祉法人が作り出した混乱のために団交が時間切れで終了した旨主張する。

しかしながら、社会福祉法人は本来の団交議題であるA組合員の雇止めに議論を戻そうとしたのに対し、組合がパワハラについての議論を続けようとしたといえる。そうであれば、仮に、パワハラを巡るやり取りのために、A組合員の雇止めについての協議が時間切れになったのだとしても、社会福祉法人のみに責任があったとはいえないのだから、パワハラを巡る法人の発言をもって、不誠実団交に当たるとはいえない。

c 以上のとおりであるから、組合主張(エ)は採用できない。

イ 以上のとおり、組合の主張はいずれも採用できないのであるから、団交における社会福祉法人の対応は、不誠実団交に当たらない。

3 命令内容

(1)雇用契約が期間を6か月として更新されたものとしての取扱い及びこの間の賃金相当額の支払

(2)誓約文の手交

(3)その他の申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、社会福祉法人は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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