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7.H事件(令和6年(不)第22号及び同年(不)第41号併合事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1)組合が、組合員1名を自然退職としたことの撤回等を求めて団体交渉を申し入れたのに対し、会社が団交に応じなかったこと、(2)会社が、組合及び当委員会に対し、組合の要求書の内容は犯罪行為であるなどの表現がある誹謗中傷文書を送付したこと、(3)会社が組合執行委員長及び当該組合員1名を刑事告訴したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるかについて
ア あっせん成立前の団交申入れに対する会社の対応について
あっせん案には、当該団交申入れが含まれており、これを組合及び会社が受諾し、あっせんが成立しているのだから、当該団交申入れに対する会社の対応が、不当労働行為に当たるとはいえない。
イ あっせん成立後の団交申入れに対する会社の対応について
団交申入れを巡る会社の対応をみると、会社は、団交開催場所及び費用負担について組合の理解を得るよう努力し、団交日時については組合との調整に応じ、団交会場の手配も行い、また組合に他の場所の提案も求めており、会社が団交開催場所として提案したホテルに固執していたとも認められないのであるから、団交開催に向けた活動をしていたとみるべきである。そうすると、会社が団交開催に向けた活動を行っているといえる以上、団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否とまではいえない。
ウ 以上のとおりであるから、団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
(2)会社が文書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 会社が当委員会のあっせんの際に意見書3通を当委員会に提出したことについて
当委員会における調整は、非公開の原則のもとに、当事者の真意を明らかにし、その一致点を見出して労使紛争の円満な解決を図ろうとするものであり、この点からも、会社は、あっせんに際して、当委員会に対して、自己の見解を自由に表明することができるというべきである。
そして、会社が提出した意見書3通は、いずれも、組合に対するものではなく、当委員会のあっせんに際して、当委員会に対して提出された、あっせんについての会社の意見であるのだから、その中で、会社が組合費に言及したり、組合活動や組合を非難したりしたとしても、当委員会でなされた会社の自由な意見の表明として、許容されるべきということができる。
したがって、当委員会のあっせんの際に、意見書3通を当委員会に提出したことは、組合に対する支配介入には当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
イ 会社が組合及び当委員会に対し、書面5通を電子メールで送信したことについて
(ア)まず、組合に対して送信したことについてみる。
会社が送信した書面5通の内容をみると、各書面は、組合活動である要求書による要求が、犯罪行為に当たるとの不穏な表現を用いて殊更に非難したものであり、組合活動を行うことについての不安を生じさせ、もって、組合活動への抑圧効果があるものであるといえる。
そして、これらの書面は、組合を宛先としたものであり、少なくとも組合執行委員長に送信された書面である。
以上のとおり、会社は、組合活動への抑圧効果がある書面を組合に送信しており、かかる会社の行為は、組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、一般的に影響を及ぼしたりする可能性があるといえるのだから、組合に対する支配介入に当たる。
(イ)次に、当委員会に送付したことについてみる。
a まず、会社が送信した書面5通の内容をみると、前記(ア)のとおり、組合活動である要求書による要求が、犯罪行為に当たるとの不穏な表現を用いて殊更に非難したものである。かかる書面は、みだりに第三者にまで配付されるべきものではなく、また、第三者にまで配付されたことを組合が認知すれば、組合活動を行うことについての不安を生じさせるものであり、もって、組合活動への抑圧効果があるものであるといえる。
b 次に、方法についてみる。
まず、当委員会も送付先となっていることについてみると、会社が各書面を当委員会に送付したのは、あっせん成立後のことである。そして、あっせん成立後まで、当委員会に対して何らかの書面を送付する必要はないのだから、当委員会を送付先に加える必要はない。そうすると、会社は、送付する必要のない相手にまで書面を送付しているのであり、かかる対応は、不適切であるといわざるを得ない。
また、会社は、当委員会をCCとして送信しているのだから、当委員会に対しても当該書面を送信したことは、組合も認識することになる。
c 以上のとおり、会社は、第三者に配付すべきではなく、第三者に配付されたことを組合が認識すれば、組合活動への抑圧効果がある書面を、本来送付する必要のない当委員会に対して送付し、かつ、そのことを組合も認識し得る方法で送付していたのであるから、これらのことを総合的に考えると、会社による当委員会への送付行為は、組合活動への抑圧効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、一般的に影響を及ぼしたりする可能性があるといえるのだから、組合に対する支配介入に当たる。
(ウ)以上のとおりであるから、会社が組合及び当委員会に対し、書面5通を電子メールで送信したことは、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(3)会社が組合執行委員長及び組合員1名を刑事告訴したことは、組合に対する支配介入に当たるかについて
刑事訴訟法第230条において、犯罪により害を被った者は、告訴をすることができると規定されており、刑事告訴は、犯罪によって被害を被った被害者が自らの権利を守るための重要な手段である。会社が、刑事告訴することもまた、権利の行使として尊重されるべきものであり、労働委員会が公的判断をもってこれを制限することは慎重であるべきである。したがって、例えば、それが権利の濫用に当たるなど特段の事情がない限り、不当労働行為に該当しないというべきである。
そして、本件において、権利の濫用に当たるなどの特段の事情があったと認めることはできない。
以上のとおりであるから、会社が組合執行委員長及び組合員1名を刑事告訴したことは、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
(1)誓約文の手交
(2)その他の申立ての棄却