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更新日:2026年8月10日

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9.Sほか3者事件(令和6年(不)第17号、同年(不)第20号及び同年(不)第51号併合事件)命令要旨

1 事件の概要

組合員が雇用されているS社が民事再生手続開始を申し立て、N1社はS社の事業を承継する意向を表明した。その後、この事業譲渡は延期を経て、中止され、再生手続は破産手続に移行した。

本件は、このような状況下で、(1)S社については、ア事前協議・同意約款協定を締結していながら、協議を行わず、本件民事再生申立てを行ったこと、イ組合役員に対し、解雇予告通知を発したこと、ウ事業譲渡が延期になった際、組合役員をアルバイトとして再雇用しなかったこと、が、(2)N1社とその連結子会社であるN2社については、両社が使用者に当たるとして、ア組合役員を採用の対象から外したこと、イ団体交渉申入れに応じなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)事前協議・同意約款協定を締結していながら、協議を行わず、本件民事再生申立てを行ったことについて

ア 組合とS社との間の協定には、「企業計画、労働条件の変更に関しては会社は組合と事前に協議し同意がなければ行わない」との条項が含まれている。また、S社は組合に対して協議申入れを行わないまま、本件民事再生申立てを行ったのであるから、この行為は本件協定に抵触する可能性はある。

イ 民事再生申立ては、債務超過および支払不能のおそれがあるときや事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときに、裁判所の監督のもと事業の再生を図るためのものであって、通常は、経営の危機に瀕した事業主が自らの判断で行い得るものである。また、事業主が民事再生申立てを検討していることが債権者等に察知されれば、事業再建がさらに困難になる危険性があるため、事業主が秘密裏に、かつ迅速に民事再生申立てを行おうとすることには理由があるというべきである。

そして、本件民事再生申立てが、事業の継続が困難になり得る程度の経営上の危機ではないにもかかわらず行われたと認めるに足る疎明はない。

ウ 上記のことを考慮すると、本件民事再生申立てを行ったことが本件協定に抵触する可能性はあるにしても、S社が、組合と事前に協議を行わなかったことには特段の事情があったとみるのが相当である。なお、S社が、組合の弱体化を企図して本件民事再生申立てを行ったと認めるに足る疎明はない。

以上のとおりであるから、S社が、本件協定を組合と締結していながら、協議を行うことなく、本件民事再生申立てを行ったことは、組合に対する支配介入に当たるということができず、この点にかかる組合の申立てを棄却する。

(2)組合役員に対する解雇予告について

ア この解雇予告通知は、民事再生手続における事業譲渡に伴いS社が事業を停止させるため、組合役員のみではなくその事業に従事していた全従業員に対し、解雇を予告するものであったとみるのが相当である。したがって、組合役員に対する解雇予告通知を組合員であるが故のものとみることはできない。

イ 組合は、N1社らの採用とS社の解雇通知との間には密接不可分な関係性があり、S社とN1社らは、組合役員を排除することを主目的に、S社の従業員の雇用契約上の地位を承継しないとの合意を行ったもので、この解雇予告通知は、実質的には組合役員のみを選別して解雇したに等しい旨主張する。

しかし、民事再生手続において、従業員の承継を条件としない事業譲渡を行うことも通常、行われ得るものである上、N1社らがS社の従業員の雇用を承継しないとの方針を選択するにあたって、S社が関与したと認めるに足る疎明はない。

したがって、S社による従業員の解雇とN1社らによる採用は、民事再生手続において、それぞれの当事者が行った別の行為というべきであって、この解雇予告通知が、実質的には組合役員のみを選別して解雇したものであるとする組合の主張は採用できない。

ウ 以上のとおりであるから、組合役員に対する解雇予告通知は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるということができず、この点にかかる組合の申立てを棄却する。

エ 使用者の行為が組合員であるが故の不利益取扱いに該当しない場合でも、組合活動を弱体化させたというべき特段の事情があれば、支配介入に該当する可能性はあるが、本件において、かかる特段の事情を認めるに足る疎明はない。

したがって、組合役員に対する解雇予告通知は、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点にかかる組合の申立てを棄却する。

(3)組合役員をアルバイトとして再雇用しなかったことについて

ア S社は、従業員を解雇した後、N1社らによる採用内定者等をアルバイトとして雇用する一方、組合役員を雇用しなかった。

イ S社は、民事再生手続における事業譲渡に伴い事業を停止させるため、その事業に従事していた全従業員を解雇したものであるところ、この事業譲渡は延期され、S社は事業を継続することになった。

そうすると、S社は、事業を行うための人員が必要となるが、当時は、時期は未定であっても事業譲渡が実施される可能性もあり、S社による事業継続は暫定的なものとみるのが相当である。このような状況下で、S社が、主として、将来、N1社らに雇用され、引き続き本件工場で就労する可能性のある者をアルバイトとして再雇用することには理由があるというべきである。

なお、S社は、N1社らによる採用内定者以外にも元従業員3名を再雇用しているが、この3名は、課長等であって、組合役員と同じ立場にあったとはいえない。

したがって、S社が、N1社らによる採用内定者等をアルバイトとして再雇用する一方、組合役員を再雇用しなかったことを組合員であるが故のものとみることはできない。

ウ 使用者の行為により組合員が不利益を被ったとはいえない場合でも、組合活動を弱体化させたというべき特段の事情があれば、支配介入に該当する可能性はあるが、本件において、かかる特段の事情を認めるに足る疎明はない。

したがって、S社が、組合役員をアルバイトとして再雇用しなかったことは、組合に対する支配介入に当たるということができず、この点にかかる組合の申立てを棄却する。

(4)N1社らが組合役員を採用の対象から外したことについて

ア 使用者性について

(ア)労働組合法上の使用者は、労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を意味し、雇用主以外のものであっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存するものも該当すると解される。

また、かかる可能性が存する場合には、近い将来、雇用先となり得る者はもとより、その労働契約関係の成立における人選や雇用条件等に関して、雇用先と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者があるときには、その者も、労働契約関係の成立に関することについて、使用者の地位にあると解するべきである。

(イ)本件においては、N1社は、S社からの事業譲渡に伴い、その事業に従事する者を確保するために、S社の従業員に対し、賃金額を含む具体的な労働条件を明示した上で、N2社での人員募集に応じるよう求めたということができる。また、採用を希望した者の大多数が採用を内定されたというのが相当である。そして、各組合役員は、少なくとも、応募を検討する意向を示していたことは明らかである。

(ウ)したがって、N2社と組合役員との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があったと認められる。また、S社の従業員の雇用主をN2社とすることやその雇用条件等を決定しているのはN1社であるから、N1社についても、上記労働契約関係の成立における人選や雇用条件等に関して、雇用先であるN2社と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認められる。

(エ)なお、本件では、最終的に事業譲渡契約は締結されなかったが、N1社らは、実際に、事業譲渡を前提としてS社の従業員を対象に人員募集を行い、内定に至るまでの採用行為をし、また、組合役員に対しても、個別面談を行うとともに、N2社に雇用された場合の賃金の試算額を2回に渡り提示していたのであるから、N1社らが使用者に当たるとする判断は変わらない。

イ 不利益取扱い等について

(ア)組合役員は、第2次面談対象者から外れ不採用になった。

N1社らは、新規採用については契約自由の原則が適用され、独自の経営判断として行える旨主張する。しかし、契約の自由があるにしても、新規採用について、労働組合法が一切適用されないものではない。事業譲渡に伴い、その事業に従事する者を確保するために事業譲渡元の従業員を採用しようとした際に、組合員であるが故に他の従業員と異なる扱いをし、不採用としたのであれば、不利益取扱いに該当する。

(イ)そして、採用を「希望しない」と回答した者以外で、第2次面談対象者に選定されなかったのは組合役員のみであって、「希望しない」と回答した者でも第2次面談対象者になった者がいることや組合役員が属する課の従業員や50歳以上の従業員についても、一定数が第2次面談対象者となっていること、が認められる。そうすると、N1社が、従事していた業務や年齢等といった選考基準をS社の従業員全員に均一に適用した結果、組合役員が選外となったとみることはできない。

また、第1次面談に先立ち行われた説明会でのN1社関係者の発言等からすると、N1社は、選考を開始した時点から、誰が組合役員であるかを知り、組合活動を相当に意識していたということができる。

(ウ)以上のとおり、N1社らが組合役員を採用の対象から外したことは、組合員であるが故の不利益取扱いであると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(エ)通常、使用者が労働組合の役員に対し、組合員であるが故の不利益取扱いを行えば、労働組合の指導力に影響を及ぼすとともに、他の組合員の活動を萎縮させるなどし、組合活動を弱体化させるのであるから、労働組合の運営に対する支配介入にも当たるというべきである。本件においても、組合役員が採用の対象から外されたことにより、かかる影響があったというべきである。

したがって、N1社らが組合役員を採用の対象から外したことは、組合の運営に対する支配介入であると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(5)N1社らが団交に応じなかったことについて

ア 上記のとおり、N1社らは、事業譲渡を前提としたS社の従業員からの人員募集に関しては、組合役員の労働組合法上の使用者の地位にあると判断される。そうすると、N1社らは、S社の従業員からの人員募集に関する義務的団交事項については、団交に応じる義務があるというべきである。

イ そして、この団交申入書には、組合役員を採用の対象から外した理由とN1社での労働条件の説明を求める旨記載されているのだから、団交申入れの議題がS社の従業員からの人員募集に関する義務的団交事項に該当することは明らかである。

ウ したがって、N1社らは、団交申入れに正当な理由なく応じなかったと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(6)本件破産管財人に対する申立てについて

破産管財人は、破産財団の財産管理を行う限度において労働関係上の諸利益に対して実質的な影響力ないしは支配力を及ぼす地位にあり、破産手続開始決定前に破産会社がなした不当労働行為に伴うバック・ペイ等の金銭債務について破産会社の責任を引き継ぐものである。

しかるに本件に関しては、S社の各行為は不当労働行為に該当せず、バック・ペイ等のS社の金銭債務は生じ得ないのであるから、S社から本件破産管財人に引き継がれるべき不当労働行為に係る債務もあり得ず、したがって、本件破産管財人に対する申立ては棄却する。

3 命令内容

(1)S社に対する申立ての棄却

(2)破産管財人に対する申立ての棄却

(3)N1社による誓約文の交付

(4)N2社による誓約文の交付

※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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