ここから本文です。
5.K事件(令和6年(不)第42号及び同年(不)第48号併合事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、(1)社内の別の労働組合に加入する嘱託職員に対して時間給の賃上げを行ったにもかかわらず、組合員1名に対しては賃上げを行わなかったこと、(2)同組合員を除く65歳未満の嘱託職員を全員正社員に登用したにもかかわらず、同組合員は正社員登用しなかったこと、(3)同組合員をリスクの高い業務に配置転換したこと、(4)組合との団体交渉において誠実に対応しないこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)以下ア及びイの行為が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 会社が、組合執行委員長の時給を他の嘱託乗務員に比べて低額としたこと
(ア)組合が明示的に不当労働行為であると主張する上記取扱いの当時において、組合執行委員長が所属していた労働組合は、組合ではなく申立外組合である。
不当労働行為の救済申立てをすることができるのは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いについてはそれを受けた労働者及び当該取扱いの当時その労働者が加入していた労働組合であり、同条第3号の支配介入についてはそれを受けた労働組合であると解される。そうすると、会社の上記取扱いについて、不当労働行為救済申立てをすることができる労働組合は申立外組合であって、組合が救済申立てをすることはできない。
以上のとおりであるから、組合は、申立人適格を有するとはいえない。
(イ)ただ、組合結成後になされた雇用契約更新においても、会社が組合執行委員長の時給を他の嘱託乗務員に比べて低額としたことが認められるので、このことが組合員であるが故になされたものといえるかについてみる。
a 組合結成通知後、当該契約更新までの間、組合と会社の労使関係は、団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえない。
b 会社は、組合執行委員長に対する上記取扱いの正当理由として、当該雇用契約更新の時点では、組合執行委員長は業務の一部を制限しており、制限なく乗務員の職をできる者と同等の賃金を設定することはできなかったことを挙げる。
会社が、組合執行委員長から提出のあった診断書に基づく産業医の意見を受けて、組合執行委員長を重量物運搬の伴わない従業員輸送業務への配転をしたことが認められ、その後、会社のそれまでの判断を変更すべき事情は認められないことからすると、組合執行委員長に重量物運搬を伴う業務への従事を制限させることとした会社の判断は合理性が認められる。
c したがって、会社が組合執行委員長の時給を他の嘱託乗務員に比べて低額としたことには正当な理由がある。
d 以上のとおりであるから、会社の上記取扱いは、組合員であるが故になされたものとはいえず、また、組合に対する支配介入に当たるともいえない。したがって、この点に係る組合の申立ては棄却する。
イ 会社が、組合執行委員長に正社員登用試験を受けさせなかったこと
会社の組合執行委員長に対する上記取扱いの当時において組合執行委員長が所属していた労働組合は申立外組合であるから、前記ア(ア)判断と同様、組合は、会社の上記取扱いについて、申立人適格を有するとはいえない。
したがって、この点に係る組合の申立ては、却下する。
(2)会社が、組合執行委員長に対し、リムジンバス等の運行業務から配転を行い、企業の従業員送迎業務に従事させたことが組合に対する支配介入に当たるかについて
会社の組合執行委員長に対する上記取扱いの当時において、組合執行委員長が所属していた労働組合は申立外組合であるから、前記(1)ア(ア)判断と同様、組合は会社の上記取扱いについて、申立人適格を有するとはいえない。
したがって、この点に係る組合の申立ては、却下する。
(3)団交における会社の対応が不誠実団交に当たるかについて
ア 義務的団交事項該当性について
団交議題は、いずれも、組合執行委員長の「社内組合との賃金格差」及び「正社員登用」に関する事項であり、義務的団交事項に当たる。
イ 不誠実団交該当性について
(ア)第2回団交について
会社が、診断書に産業医が加筆した副申の文章に拘泥するのみで、議題について合理的な根拠となる理由の説明をしなかったとの組合主張について
a 「賃金格差」の議題について
会社は、会社が賃金格差の根拠事実の一つとする配転を決定した理由について、主治医の診断書及びそれに対する産業医の副申を資料として示した上で、具体的な根拠事実も示しながら説明しているということができる。
b 「正社員登用」の議題について
会社は、組合執行委員長を正社員として登用するかどうかについて、第2回団交の場では回答していないものの、持ち帰って検討することを約束している。そして、2回目の団交において持ち帰って検討するとしたことが、団交の引き延ばしを意図したものとみるべき事情もない。
c 以上のとおり、組合が挙げる会社の対応が不誠実であったとはいえない。
(イ)第3回団交について
a 会社が合理的な根拠となる理由を述べなかったとの組合主張について
会社は、賃金格差に係る組合の質問に対し、他の社員との間で賃金の差が生じる理由を、具体的な理由を挙げつつ回答しているのであって、会社の立場としてできる限りの説明を一貫して行っているということができるから、組合が挙げる会社の対応が不誠実であったとはいえない。
b 会社が書面での説明を拒否したとの組合主張について
会社には、組合が提出を求めた書面を全て提出する義務はない。また、団交に先立って、会社が何らかの書面の提出を約束していたなど、会社に書面の提出を義務付けるべき特段の事情もないのであるから、組合が挙げる会社の対応が不誠実であったとはいえない。
c 持ち帰ると言われていた議題についても結局は説明がなかったとの組合主張について
組合は前回の団交で会社が持ち帰るとした議題について、そもそも回答を求めていなかったのであるから、組合が挙げる会社の対応が不誠実であったとはいえない。
(ウ)第4回団交について
会社が、事前に要請した議題について合理的な根拠となる理由を示さず、診断書記載の産業医の副申に結び付けて、誠実に交渉を進める意思が全くなかったとの組合主張について
a 「賃金格差」の議題について
会社は、組合執行委員長の時給を引き上げない理由及び産業医との面談の求めに応じない理由について、産業医の副申という具体的根拠を示して説明しているということができる。
b 「正社員登用」の議題について
会社は、正社員登用の手続についての組合の質問に回答し、回答できない事項については回答できない理由を述べており、会社の立場としてできる限りの説明を行っているとみることができる。
c 以上のことからすると、会社に誠実に交渉を進める意思がなかったとはいえないから、組合が挙げる点について、会社の対応が不誠実であったとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、本件団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
(1)正社員登用に係る取扱いの是正及び配転に係る申立ての却下
(2)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。