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更新日:2025年5月12日

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7.S事件(令和5年(不)第36号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、会社が、(1)一時金として、他の従業員には、基本給2か月分に物価上昇分を加算した額を支給したにもかかわらず、組合分会長に対しては物価上昇分に当たる額のみを支給したこと、(2)一時金を議題とする組合の団体交渉申入れに対し、算定期日が直近であるので開催は現実的に困難であるとして、文書回答を行ったのみで団交を開催しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)分会長を本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、一時金を他の従業員より低額としたことについて

ア 不利益な取扱いに当たるかについて

会社が分会長の一時金を他の従業員より低額としたことが、経済的に不利益な取扱いに当たることは、いうまでもない。

イ 組合員であるが故になされたものであるかについて

(ア)一時金支給額決定時における労使関係について

組合が分会長の組合加入を会社に通知してから、会社が一時金の支給額を決定するまでの間の組合と会社の労使関係は、団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえない。

(イ)分会長を異動させて新規開拓営業担当とし、一時金を他の従業員より低額としたことが、組合嫌悪の発現としか解釈できないとの組合主張について

a 組合が挙げる根拠について

組合は、主張の根拠として、(1)支給額は最終的には社長が恣意的に決定していたこと、(2)2回の戒告処分のうち一方だけが一時金の査定に関わったとするのは後付けの説明にすぎず、また、7月から8月頃の行為が組合加入後の同年11月末になって懲戒処分の対象となっているのはいかにも不自然であること、(3)分会長は、組合加入前は売上げが全くなかったとされているにもかかわらず、一時金をおそらくは他の従業員と同水準で支給されており、今回の支給基準との整合性がないこと、を挙げる。

b 根拠(1)について

会社の営業職従業員の一時金の支給額の算定については、制度上、社長が恣意的に決定し得る仕組みにはなっておらず、さらに、制度の運用上も、社長が支給額を恣意的に決定していたとか、取締役会が社長の意思を忖度するなどして支給額を恣意的に決定していたと認めるに足りる事実の疎明はない。

c 根拠(2)について

(a)2つの戒告処分は、分会長の組合加入後の近接した時期になされているものの、処分対象事実の発生した時期が一時金の支給対象期間内であるのは一方の戒告処分だけなのであるから、一時金の支給額算定に当たって一方の戒告処分だけを考慮したとしても、不合理とはいえない。

(b)(1)三、四か月前の行為を理由に懲戒処分をすることは時期的に特段不合理とはいえないこと、(2)労使関係が団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえない状況において、分会長に対して、組合加入に対する報復又は嫌がらせのために懲戒処分をする動機が会社にあったとはいえないこと、から、7月から8月頃の行為が組合加入後の同年11月末になって懲戒処分の対象となっていることが、組合加入に対する報復又は嫌がらせを示唆するものであるとはいえない。

d 根拠(3)について

分会長の一時金は、組合加入後に大きく減少している。しかし、(a)減少となる一時金の支給額が決定されたとみられる時点では、会社が分会長の所属部署の事業の展開を期待していたとしても不自然ではないこと、(b)会社の一時金は、二次考課の順位付けを基に取締役会が賞罰等を含めた経営判断により具体的な支給額を決定することが認められるのであるから、取締役会の経営判断により、分会長の所属部署の事業の展開への期待を一時金支給額に反映させることは特段不合理ではないこと、から、組合加入の前後で一時金の支給基準に整合性がないとはいえない。

e したがって、根拠(1)から(3)に基づいてなされた組合主張は、採用できない。

ウ 不当労働行為に当たるかについて

したがって、会社が、分会長を、本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、一時金を他の従業員より低額としたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、また、組合に対する支配介入であるともいえないから、この点に係る組合の申立ては棄却する。

(2)本件団交申入れに対する会社の対応について

ア 義務的団交事項に当たるかについて

本件団交申入れの要求事項は、一時金についてであり、組合員の労働条件に関する事項であることは明らかであるから、義務的団交事項といえる。

イ 会社の対応が団交拒否に当たるかについて

会社は、本件団交申入れに対し、本件団交申入書の要求事項に書面で逐一回答する一方で、書面での回答をもって団交に代えるとの意思表示をしている。

しかしながら、団交は対面で行うのが原則であって、組合が対面での団交を求めている本件においては、本件団交申入れに書面でのみ回答する会社の対応は、団交拒否に当たる。

ウ 会社が団交を拒否したことに正当な理由があるかについて

本件の場合、団交申入れの時点で一時金の算定日が10日後に迫っていたのであるから、組合が一時金の算定日前の団交開催を求めていたのであれば、時期的に団交開催が困難であるとの会社の主張は首肯でき、そのことが、団交に応じない正当な理由とみる余地がある。

しかしながら、会社が、組合に対して、回答の書面を団交に代える旨伝えた後、組合は、一時金の支給日が遅れることのないよう配慮して、交渉妥結前に一旦仮支給をした上で、交渉を継続するよう求めていたことが認められるのであるから、一時金の支給金額の算定期日が迫っていることは、団交に応じない正当な理由とはいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)団交応諾

(2)誓約文の手交

(3)その他の申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、組合及び会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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