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更新日:2025年8月5日

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13.N事件(令和5年(不)第40号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、会社が、(1)具体的な内容を組合と協議せずに、定年後再雇用期間を満了した社員を対象とする再雇用制度(以下、「グランドシニア社員制度」といい、同制度により雇用される社員を「グランドシニア社員」という。)を創設したこと、(2)グランドシニア社員制度の創設について、組合から指摘されるまで組合に通知しなかったこと、(3)組合執行委員長をグランドシニア社員として雇用しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)会社が、具体的な内容を組合と協議せずに、グランドシニア社員制度を創設したことについて

ア 組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて

会社が、グランドシニア社員制度の創設に当たって、会社内の他の労働組合との間では具体的な内容を協議したり、労働組合に加入していない従業員に通知するなどしたと認めるに足る疎明はない。そうすると、会社は、申立人組合であるか否かを問わず、同制度について協議しないとの対応を取っていたのであるから、組合員であるが故になされたものとみることはできない。

したがって、その余の点を判断するまでもなく、会社が、具体的な内容を組合と協議せずにグランドシニア社員制度を創設したことは、組合員であるが故の不利益扱いには当たらない。

イ 組合に対する支配介入に当たるかについて

(ア)グランドシニア社員制度は、65歳以上の職員の再雇用制度として新たに創設されたものである。そうすると、その制度設計については、会社に一定の裁量があるといえるのだから、同制度創設の方針を決めた段階では、その内容について組合と協議すべきであったとまではいえない。

もっとも、会社と組合との間で、事前協議約款が締結されているなどの特段の事情がある場合は、会社は組合と協議すべきであるから、特段の事情が認められるかについてみる。

a 組合が高年齢者の雇用についての要求書を提出してから、会社が組合にグランドシニア社員制度の創設を通知するまでの経緯をみると、会社が、組合に対し、グランドシニア社員制度の内容について説明する義務があったとまではいえない。

b また、会社と組合との間で、事前協議約款が締結されていたとの事情も認められず、さらに、会社において何らかの制度創設の方針を決定した時点で組合と会社は協議を行うとの労使慣行があったとの事情も認められない。

c 以上のことからすると、会社がグランドシニア社員制度創設の方針を決めた段階で、組合と協議すべき特段の事情は認められない。

(イ)また、会社が、グランドシニア社員制度の創設に当たって、会社内の他の労働組合との間では具体的な内容を協議したと認めるに足る疎明はなく、その他、組合と会社内の他の労働組合との間で、差別的な取扱いがあったとの事情も認められない。

(ウ)以上のことからすると、会社が、具体的な内容を組合と協議せずに、グランドシニア社員制度を創設したことは、組合に対する支配介入に当たらない。

(2)会社が、組合に対し、グランドシニア社員制度の創設について、組合から指摘されるまで通知しなかったことについて

ア 組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて

(ア)会社が、意図的に組合に通知しなかったのかについてみる。

a 会社が組合以外の労働組合に対してグランドシニア社員制度の創設について通知した時期と同時期に、組合と会社側は、春闘要求やストライキに関して連絡を取っていたのだから、この時に会社は組合に対し、グランドシニア社員制度の創設について通知すべきであったとはいえる。

しかしながら、上記ストライキは春闘要求に係るものであるところ、この春闘要求には、高年齢者の雇用に関する項目がなかったのだから、上記ストライキとグランドシニア社員制度との関連は薄いといわざるを得ない。

そうすると、確かに、春闘ストライキの関係で連絡を取り合っていた時期に、グランドシニア社員制度の創設について通知しなかった会社の対応は問題であったものの、このことをもって、会社が、意図的にグランドシニア社員制度創設を通知しなかったとまでみることはできない。

b その他、会社が意図的に組合に通知しなかったと認めるに足る事実の疎明はない。

c また、会社担当者は、組合書記長から連絡を受けた後、連絡を受けた日に直ちにグランドシニア社員制度資料をファクシミリで送信している。

d 以上のことからすると、会社が、意図的に、グランドシニア社員制度の創設を組合に通知しなかったとまではいえない。

(イ)上記判断のとおり、会社が組合にグランドシニア社員制度の創設を通知しなかったことが、意図的なものではなかった以上、上記の会社の対応が、組合員であるが故になされたものともいえない。

したがって、その余の点を判断するまでもなく、会社が、組合に対し、グランドシニア社員制度の創設について、組合から指摘されるまで通知しなかったことは、組合員であるが故の不利益扱いには当たらない。

イ 組合に対する支配介入に当たるかについて

会社は、組合に対し、グランドシニア制度の創設を提示した後、ほぼ同時期に並行して、組合を含む社内の労働組合と団交又は文書回答を行うとの対応を取ったといえる。

また、前記ア判断のとおり、会社が、グランドシニア社員制度の創設を組合に通知しなかったのは、意図的なものではなかったことが認められる。

以上のことからすると、会社が、グランドシニア社員制度の創設について、他の社内の労働組合とは差別的に取り扱おうとしたという意図は認められない。

したがって、会社が組合に対し、グランドシニア社員制度の創設を通知しなかったことは、支配介入に該当するとまで認めることはできない。

(3)会社が、組合執行委員長をグランドシニア社員として雇用しなかったことについて

ア 組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて

(ア)会社が、組合執行委員長が採用基準に該当しなかったと判断したことが合理的であったかについてみる。

会社は、組合執行委員長が応募した職種においては、駅における要員算定上の対象となる担当業務(所要担務)に従事できる人材を採用対象としていた旨、組合執行委員長が従事していた業務は所要担務ではなく、また、別途教育等を行うことなく、所要担務に従事できる状況ではなかったので基準に該当しなかった旨主張するので、この点についてみる。

組合執行委員長が従事できる業務として自ら挙げる業務に従事できることをもって、同人が所要担務に従事できるとみることはできない。そうすると、本件雇用申請書に、当該業務しかできないと記載した組合執行委員長について、別途教育を行うことなく所要担務に従事できる状況にないとして、基準に該当しないとした会社の判断は、合理的であったといえる。

(イ)また、組合の組合員以外にも、グランドシニア社員として雇用されなかった社員は一定割合存在していたといえる。

(ウ)以上のことからすると、会社が、執行委員長をグランドシニア社員として雇用しなかったのは、同人が組合員であるが故になされたものであるとはいえない。

したがって、その余の点を判断するまでもなく、会社が、執行委員長をグランドシニア社員として雇用しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらない。

イ 組合に対する支配介入に当たるかについて

前記ア(ア)判断のとおり、会社が、組合執行委員長が採用基準に該当しなかったと判断したことは合理的であったといえ、会社が組合を嫌悪し、又はその活動に支障を与えるために組合執行委員長をグランドシニア社員として雇用しなかったとは認められない。

したがって、会社が、組合執行委員長について、グランドシニア社員として雇用しなかったことは、組合に対する支配介入に当たらない。

3 命令内容

本件申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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