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2.S事件(令和5年(不)第72号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1)会社が、65歳に達した組合員1名の雇用を6か月間継続した後、再雇用契約の更新を行わなかったこと、(2)当該組合員の雇用継続に係る団体交渉における会社の対応、(3)他の組合員1名に対する評価の見直しやハラスメント等に係る団交における会社の対応、(4)組合員1名の再雇用契約終了後、当該組合員が会社から貸与されていた業務用パソコンに保存していた組合活動資料ファイルの組合への引渡しに係る会社の対応、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社がA組合員の再雇用契約の更新を行わなかったことが、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて
ア まず、A組合員が、雇用契約期間満了にて退職となったことの不利益性についてみる。会社は事業運営上の必要性を理由として7名を継続雇用したことが認められるところ、A組合員が自身の雇用契約の更新を期待することに理由がなかったとはいえないのであるから、本件取扱いが、身分上及び経済上の不利益性を有するというべきである。
イ 次に、本件取扱いが、A組合員が組合員であるが故の不利益取扱いといえるかについてみる。
会社の定年後再雇用規程は、再雇用契約社員は65歳に達する月の末日まで雇用すると定めており、A組合員と会社はA組合員が65歳となる月の月末まで契約を更新していたことが認められる。そして、会社における65歳以降の継続雇用の取扱いについてみると、65歳以降も継続雇用されていた社員は一部の社員だけであって、特段、組合と非組合員との間で、65歳以降の継続雇用の取扱いに不均衡があったとまではいえない。
したがって、会社がA組合員を継続雇用しないことが不自然で、組合員であるが故に継続雇用されなかったと推認される特段の事情があったとは認められず、会社がA組合員の再雇用契約の更新を行わなかったことは、A組合員が組合員であることの故をもって行われた不利益取扱いということはできない。
ウ よって、この点に係る組合の申立てを棄却する。
(2)A組合員の雇用継続に係る団交における会社の対応が不誠実団交に当たるかについて
ア 団交の交渉議題は、労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であって、会社に処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たるといえる。
イ 組合主張(a)(1回目の団交において、要求書の要求事項について、考え方を説明したり、組合主張に対して資料を示すなどして納得できる説明をしなかったこと)について
組合が、1回目の団交において、要求事項に関して、説明を求めたり、具体的な資料の提示を求めたとは認められない。そうすると、これらについてまで、会社が提示あるいは説明までする義務を負うとまではいえない。
また、同要求事項の一部については、会社は、組合の主張に対し、追及の程度に応じて説明している。
ウ 組合主張(b)(1回目の団交において、会社側が、人事担当者が発言するだけで、執行役員らは発言しなかったこと)について
団交において、会社側出席者が発言をしていたのだから、仮に出席した執行役員がほとんど発言をしなかったとしても、会社から権限を委任されておらず合意形成の意思がなかったとまでは到底いえない。
エ 組合主張(c)(2回目の団交において、会社が、A組合員の継続雇用を拒否した理由として挙げた3点について、具体的な資料を示した上での説明をしなかったこと)について
組合が、上記資料の提示を要求したことは認められない。
また、2回目の団交において、会社は、組合に対し、組合員を継続雇用しない理由について、組合の追及の程度に応じて、説明している。
オ 以上のことから、会社は、組合との合意達成の可能性を模索したといえる。したがって、A組合員に係る団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(3)B組合員に対する評価の見直しやハラスメント等に係る団交における会社の対応が不誠実団交に当たるかについて
ア 一部の要求事項を除き、B組合員に係る本件各団交の交渉議題は、労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であって、会社に処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たるといえる。
イ 組合主張(a)(3回目の団交において、回答や説明の準備をしておらず、組合の要求内容を確認することすらできていなかったこと)について
そもそも当該要求書に基づく団交との認識が会社になかったのだから、仮に会社の準備が不十分だったとしても、不誠実な対応だとはいえない。また、当該要求書の要求事項について、組合の受任範囲の確認が行われたところ、それ以上、組合から同要求事項に係る資料の提示や説明を求めたとは認められない。
したがって、会社の対応が誠実交渉義務に反するとはいえない。
ウ 組合主張(b)(B組合員の評価について、杜撰な調査結果を述べるのみで、資料を示すなどして納得できる説明をしなかったこと)について
(ア)まず、人事評価のプロセスに係る会社の対応についてみる。
会社は、要求書や団交における組合の指摘に対し、会社の認識や調べた結果を回答しており、評価のプロセスについて、組合の理解を得るために組合の追及の程度に応じて回答しているといえる。
この点、組合は、会社が聞き取り調査結果報告書などの資料を提示、提出しなかったことが論拠・資料提示義務にも反する旨主張するが、会社が、不明瞭な点は改めて説明する旨述べたところ、組合が、それ以上の説明や報告書の提出を求めていたとは認められないのであるから、会社が評価の最終報告書を提出する必要までは認められない。
(イ)次に、評価が最低ランクであることの根拠に係る会社の対応についてみる。
会社は、B組合員の評価について、本件MBOフォームの項目ごとに上司の説明内容を報告しており、C上司及びB組合員の同僚に対し行ったヒアリング結果を報告しているのであるから、B組合員の評価について、組合の追及の程度に応じて説明しているといえる。
(ウ)以上のことから、会社の対応は、組合との合意達成の可能性を模索していたとみるのが相当であるから、誠実交渉義務に反するとはいえない。
エ 組合主張(c)(B組合員がC上司及びD上司からパワハラを受けたとされる問題について、資料を示すなどして納得できる説明をしなかったこと)について
(ア)まず、C上司からパワハラを受けたとされる問題についてみると、会社は、組合の同意も得た上で、C上司へのヒアリング結果を報告するとともに、組合の指摘に対して回答や資料の提示も行っているといえるから、会社は組合の追及の程度に応じて対応しているといえる。
(イ)次に、D上司からパワハラを受けたとされる問題についてみると、会社は、以前の調査結果を報告するとともに、組合の要求に応じて、追加で調査を行い、その結果を組合に報告しているのであるから、会社は組合の追及の程度に応じて対応しているといえる。
(ウ)最後に、パワハラ指針に係る会社の対応についてみると、組合が会社に対しパワハラ指針に関して説明を求めたとはいえないから、会社がパワハラ指針に関する説明を行う必要までは認められない。
(エ)したがって、会社は合意達成の可能性を模索しているといえるので、誠実交渉義務に反するとはいえない。
オ 以上のとおりであるから、B組合員に係る本件各団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(4)A組合員が会社から貸与されていた業務用パソコンに保存していた組合活動資料ファイルの組合への引渡しに係る会社の対応が、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 組合は、(a)会社が、A組合員が退職した後、会社ビルへの入館に当たって、A組合員に誓約書の提出を求めたこと及び(b)会社が、外部媒体による組合ファイルの引渡しに、承認部署の「承認」が必要であるとしたことによって、外部媒体による組合データの引渡しを遅らせた旨主張する。
イ 組合主張(a)について
誓約書案の調整に時間を要したといえるが、その主な原因は組合にあるというべきである。また、会社が、機密保持やセキュリティ確保の観点から、会社ビルへの入館に当たって、A組合員に誓約書の提出を求めることは当然の対応といえるから、会社は、A組合員が会社ビルに入館する際に誓約書の提出を求めることにより、組合データの引渡しを意図的に遅らせたとはいえない。
ウ 組合主張(b)について
(ア)外部媒体による組合データ引渡しの合意について
組合と会社のメールに、組合と会社との間で外部媒体による引渡しが合意できていたことを示す記載はなく、あくまで組合の認識が記載されているに過ぎない。会社担当者の返答も、組合のニーズを認識できたことを示す以上のものではなく、組合と会社との間で、外部媒体による引渡しについて合意できていたとみることはできない。
(イ)会社の対応について
会社が、会社のパソコンに入っているデータを外部に出すに当たって、担当部署の承認を必要とすることは当然といえ、加えて、データの中身が特定できない場合は個人情報・機密情報漏洩リスクがあるとして、担当部署の承認を得るハードルが高いとする説明は、合理性があり首肯できるものである。
また、会社は、組合の回答から移行データの中身を確認できないまま、機密情報や個人情報が含まれる可能性のあるデータの移行手順や社内の調整を行わなければならないこととなり、一定時間がかかることはやむを得ないといえ、会社が意図的に外部媒体による組合データの引渡しの引き延ばしを図ったとまではいえない。
エ 以上のことからすると、A組合員が会社から貸与されていた業務用パソコンに保存していた組合活動資料ファイルの組合への引渡しに係る会社の対応は、組合の活動の阻害や弱体化を目的としたものとはいえないから、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。