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12.N事件(令和5年(不)第63号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、社会福祉法人が、(1)組合員1名がシフトから外された期間の賃金を補償しなかったこと、(2)組合員1名のシフトを週1日としたこと、(3)組合の団体交渉申入れに対して不誠実な対応をしたこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)社会福祉法人が、A組合員の賃金を補償しなかったことについて
ア A組合員が就労していない期間の賃金が補償されていないことに当事者間で争いはなく、A組合員には、当該賃金が補償された場合と比べると経済的な不利益があるといえる。
イ そこで、社会福祉法人が、A組合員に賃金を補償しなかったことが、組合員であるが故になされたものであるかについてみる。
(ア)A組合員が就労しなかった該当月の勤務シフトが決定したのは、組合加入通知前であり、その時点で社会福祉法人がA組合員を組合の組合員と認識していなかったことは、明らかである。
(イ)組合は、当該賃金補償については社会福祉法人との交渉が始まってから遡って正当な請求をしたものであり、組合嫌悪故に社会福祉法人はその後の賃金補償を認めていない旨主張する。
この点、社会福祉法人は、賃金の補償をしなかったのは、A組合員が辞職すること及び新たに就職したことを通告してきたことから、シフトからA組合員を外したためであると主張しており、かかる主張には一定の合理性がある。
(ウ)以上のとおりであるから、社会福祉法人が賃金を補償しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらないので、この点に関する組合の申立ては棄却する。
(2)社会福祉法人が、A組合員のシフトを週1日としたことについて
ア 社会福祉法人はA組合員に対し、勤務をそれまでの週3日から週1日としたことが認められ、就労日数の減少によって、A組合員の賃金は減少することになったのであるから、A組合員には経済的な不利益があるといえる。
イ そこで、社会福祉法人が、A組合員のシフトを週1日としたことが、組合員であるが故になされたかどうかについてみる。
(ア)当時の労使関係について
当時、組合は社会福祉法人に対し、A組合員の組合加入を通告し団交を申し入れ、組合と社会福祉法人との間で、A組合員の勤務日数等を議題とした団交が行われていたことが認められる。
(イ)当該不利益取扱いの時期について
社会福祉法人は、組合との団交直後に、A組合員の就労日数を週1日にすることを決定し、A組合員にその旨を記載した雇用契約書案を提示しており、団交と当該取扱いの時期は極めて近接している。
(ウ)使用者の発言や態度について
a 団交で、社会福祉法人の理事長が行った発言は、過去の不当労働行為を正当化し、組合に対しても同様の取扱いを行うとの疑念を抱かせるもので、あからさまな組合嫌悪意思を表明しているというべきである。
b また、団交において、組合が社会福祉法人に対し、今後もA組合員の労働条件について団交で解決を図っていきたい旨述べたのに対して、社会福祉法人は団交を拒否する気は全くない旨答えている。それにもかかわらず、社会福祉法人は、団交から僅か3日後に、組合と協議することなく直接A組合員に週1日の雇用契約書案を提示しており、かかる社会福祉法人の対応は団交でのやり取りを無視したものである。
c これらのことからすると、社会福祉法人の発言や対応から、社会福祉法人には反組合的意思があったと推認できる。
(エ)当該不利益取扱いの必要性について
社会福祉法人は、A組合員を週1日勤務にしたのは、マンツーマン指導が必要であり、指導担当職員を充てるのは週1日が限度であった旨主張する。
しかしながら、A組合員は勤務に復帰した期間、週3日の勤務を行っており、この間、A組合員にマンツーマン指導が行われていたとの事実の疎明はなく、そうすると、マンツーマン指導自体が必要だったのかは疑わしい。
また、社会福祉法人は、話合い等の際に、マンツーマン指導を行うため週1日の勤務とする旨の説明を行ったとはいえず、団交での組合の追及に対して、初めて説明を行っており、かかる社会福祉法人の対応は不自然といえる。
これらのことからすると、マンツーマン指導を行うため、A組合員の勤務を週1日とすることが必要との社会福祉法人の主張は、認められない。
(オ)以上を総合すると、社会福祉法人が団交の僅か3日後にシフトを週1日としたことは、組合員であるが故になされたものであるといえる。
ウ 以上のとおりであるから、社会福祉法人が、A組合員のシフトを週1日としたことは、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為と認められる。
(3)組合の団交申入れに対する社会福祉法人の対応について
ア 組合は、団交申入れに対する社会福祉法人の対応が不誠実である理由として、(a)団交開催時刻について、社会福祉法人が、働いている組合役員、組合員が出席できない時間帯を指定してきたこと、(b)組合が団交申入れの当月中の開催を要求したのに、社会福祉法人の都合で翌月開催としたこと、(c)開催時刻をめぐって社会福祉法人が団交開催を引き延ばしたことを主張するので、以下、検討する。
(ア)組合主張(a)について
社会福祉法人は、夜間対応が困難としながらも、団交開催に向けて調整を行い、当初の回答から譲歩をしたといえる。したがって、団交開催時刻の調整について、法人の対応は不誠実とはいえない。
(イ)組合主張(b)について
組合は、A組合員の雇用期間内での早急な団交が必要であった旨主張する。しかしながら、速やかな団交開催を求めるのであれば、A組合員が雇用契約書の提示を受けてすぐに団交を申し入れるべきであるところ、団交申入れまで10日間を要したのは組合である。これに対し、社会福祉法人は、団交申入れから6日後に団交を開催しており、社会福祉法人の対応は不誠実とはいえない。
(ウ)組合主張(c)について
社会福祉法人は、組合の団交申入れから4日後には最初の団交日程を回答しており、その後も、組合と日程等をめぐって相当程度の回数のやり取りを行っている。このことからすれば、結果として、団交は申入れから約1か月後の開催となったが、社会福祉法人が意図的に引き延ばしをしたとまではいえない。
さらに、団交開催時刻についてすぐに合意に至らなかったのは組合の希望する時間帯が限定されていたためでもあるといえ、一方的に社会福祉法人のみに非があるとはいえない。
イ 以上のとおりであるから、組合主張のいずれにおいても、社会福祉法人が団交日程の設定を合理的な理由なく遅延させたとはいえない。よって、社会福祉法人の行為は、不誠実団交には当たらないことから、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
(1)誓約文の手交
(2)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。