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17.K事件(令和6年(不)第6号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合及び会社が、未払賃金等に関して団体交渉を行っていたところ、(1)会社が、営業所の閉鎖等を理由に、組合員らを解雇する旨通知したこと、(2)組合が、当該解雇の撤回について団交を申し入れたところ、会社がこれに応じないこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が、本件組合員6名を解雇する旨通知したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 本件解雇通知が組合員に対する不利益な取扱いに当たることは明らかである。そこで、本件解雇通知が、組合員であるが故のものであるかについてみる。
(ア)会社は、その有する三つの営業所全ての事業を停止し、その結果、事実上廃業に至ったことが認められる。
(イ)そこで検討するに、会社がその事業全部を廃止し、事実上の廃業に至ることは、当該会社の営業の自由に属するというべきであるから、会社廃業に伴い従業員に解雇通知を行うことは、原則として、不当労働行為に該当することはない。ただし、当該廃業が会社の資金繰りの行き詰まりなどのやむを得ない事由によるものとは認められず、特段の事情により、当該事業廃止行為が労働組合の壊滅を主たる目的としてなされたことが明らかである場合には、会社廃業に伴い組合員に対して解雇通知を行うことは、労働組合法第7条の不当労働行為に該当するものと解するのが相当である。
(ウ)これを本件についてみるに、会社がその事業全部を廃止し、事実上の廃業に至ったのは、資金繰りに窮したことが原因であったと推認される。
また、会社が、組合員以外の従業員らについてのみ、退職後、別の営業所で採用し直す等、特別な取扱いをしたとの事実も認められず、いわゆる偽装解散をうかがわせるような特段の事情は見受けられない。
したがって、本件において、会社が大阪営業所を含む三つの事業所全てを廃止し、会社全体として事実上の廃業に至ったことは、やむを得ない事由に基づくものと認められるから、当該事業廃止に伴う本件解雇通知が労働組合の壊滅を主たる目的としてなされたことが明らかである場合に当たるということはできない。
(エ)以上のとおりであるから、本件解雇通知は、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。
イ 次に、組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
上記ア判断のとおり、大阪営業所の廃止についてはやむを得ないものであったといえ、これに伴う本件解雇通知が、組合及び組合員を排除するためになされたものであるとはいえないから、本件解雇通知は、組合の弱体化を図ったものともいえず、組合に対する支配介入に当たらない。
ウ 以上のとおりであるから、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(2)開催する予定であった団交に係る会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア まず、当該団交に係る会社の対応が、正当な理由のない団交拒否に当たるかについてみる。
(ア)当該団交の要求事項は、組合員らの賃金等であり、労働者の労働条件その他の待遇に関する事項に当たるといえ、義務的団交事項に該当する。
また、前回の団交において、次の団交を行う日が確認されたことについて、当事者間に争いはない。
そうすると、会社が正当な理由なく、当該団交に応じていなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となるので、以下この点についてみる。
(イ)当該団交が開催されていないことは明らかである。また、組合は、会社に対し、団交の開催を求めているが、これに対しても、会社は、何ら回答しておらず、ほかに当該団交に応じなかったことについて正当な理由があったと認めるに足る事実の疎明もない。
そうすると、当該団交に係る会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといえる。
イ 次に、当該団交に係る会社の対応が、組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
前回の団交において、当該団交を開催することが確認され、通知書で、組合が、再度、会社に対して、この確認事項を通知したにもかかわらず、上記ア判断のとおり、会社は正当な理由なく団交を拒否したのだから、かかる行為は、組合を軽視し、組合に対する信用を失墜させるものといえ、組合に対する支配介入にも当たる。
ウ 以上のとおりであるから、当該団交に係る会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。
(3)本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるかについて
ア まず、本件団交申入れに対する会社の対応が正当な理由のない団交拒否に当たるかについてみる。
(ア)本件団交申入れに対し、本件申立てに至るまでの間、団交が開催されていないことについて、当事者間で争いはない。
本件団交申入れにおける要求事項は、労働者の労働条件その他の待遇に関する事項に当たるといえ、義務的団交事項に該当する。
そうすると、会社が正当な理由なく、本件団交申入れに応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となるので、以下この点についてみる。
(イ)会社は、団交の件で組合に電話を掛けて連絡をしていたが、組合に一切連絡がとれない状況が続いた旨主張する。
しかしながら、仮に電話で連絡がとれなかったとしても、書面の送付や、組合員を通じて組合に連絡するなど連絡手段は他にもあったといえ、電話で連絡がとれなかったことが団交を開催しなかったことの正当理由とはなり得ない。
本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
イ 次に、本件団交申入れに対する会社の対応が、組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
組合員らに対する賃金の支払が遅れ、本件解雇通知がなされた状況にもかかわらず、上記ア判断のとおり、本件団交申入れに対し、正当な理由なく団交に応じることなく、本件解雇通知や未払賃金について説明していない会社の行為は、組合を軽視し、組合に対する信用を失墜させるものといえるため、組合に対する支配介入にも当たる。
ウ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)誠実団交応諾
(2)誓約文の交付
(3)その他の申立ての棄却