印刷

更新日:2025年5月12日

ページID:107385

ここから本文です。

8.W事件(令和5年(不)第67号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、(1)会社が、組合員1名の解雇撤回等を議題とする団体交渉において、決定権限を持たない者を出席させ、解雇が覆ることはない旨宣言し、要求を全て持ち帰り検討するとの答弁を繰り返し、誠実に対応しないこと、(2)組合が資料の請求及び代表取締役の出席を書面で求めたところ、会社が、当該書面が事実の歪曲及び誹謗中傷であるとし、次回団交を拒否したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)組合員の解雇撤回等を議題とする団交における会社の対応について

ア 本件団交申入れの要求事項が、義務的団交事項に当たるかについてみる。

本件団交申入れの要求事項は、解雇予告通知の撤回等であり、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係に関する事項であって、義務的団交事項に当たるといえる。

イ 団交における会社の対応について、組合は、(a)決定権限のある者を参加させず、(b)団交冒頭から解雇が覆ることはない旨宣言し、すべて持ち帰って検討して回答するとの答弁を繰り返し、具体的かつ正当な理由も述べず、組合側の理解を得る努力を怠るといった誠実さからはかけ離れた攻撃的な答弁を終始繰り返し、書面でのやり取りを希望する旨の発言を繰り返し、面談での団交そのものを否定したことが不誠実団交に当たる旨主張するので、以下、検討する。

(ア)組合の主張(a)について

交渉担当者は、当該交渉事項に関する知識、経験等合意達成に向けて誠実に協議できる能力・権限を持つ必要はあるが、交渉の妥結権限、協約締結権限まで持つ必要はない。

本件団交における会社側出席者は、会社代理人弁護士のみであり、会社代理人弁護士が決定権限がない旨述べたことが認められるが、このことのみをもって直ちに会社の対応が不誠実であったとはいえない。

(イ)組合の主張(b)について

会社代理人弁護士は、団交の冒頭から、A組合員の正社員としての雇用はもうしない旨を述べるのみで、その後も、団交の場では意見を聞くだけである旨、書面で交渉をすることの方が実りある交渉だと思っているなどと述べ、聞取りを行っているのみであったことが認められ、組合の要求に対し、根拠を具体的に説明せず、譲歩できないと述べるのみで、その論拠を示して反論するなどの努力をしているとはいえず、合意達成の可能性を模索しているとはいえないのであるから、実質的に団交に応じているとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、団交における会社の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(2)団交拒否について

ア 団交が開催されていないことついて当事者間で争いはない。

前記(1)判断のとおり、当該団交の要求事項は、義務的団交事項に当たるから、会社が今後の団交の出席を拒否したことに正当な理由があるかについてみる。

イ 会社は、(a)組合とA組合員により、定義の押し付け、攻撃的言動、嘲笑、非礼、卑下、蔑み、犯罪行為を行ったこと、(b)組合が、請求書等で誹謗中傷及び人格非難を行ったことにより、交渉継続は不可能な状態となったのであり、会社が、団交継続が不可能であることを告げたことは、正当なものである旨主張するので以下検討する。

(ア)会社の主張(a)について

a 団交における組合の言動についてみる。

組合の発言について、一部、適切さを欠いた対応や発言があったといえるものの、実際に、当該発言が原因で会社代理人弁護士が全く発言することができなくなったであるとか、団交を中断せざるを得なくなった事実は認められず、正常な協議ができない状況であったとまではいえない。

また、両者の前後のやり取りから、会社代理人弁護士に直接的な危害を加える意図で発言されたものとは評価できない。

さらに、少なくとも団交の終了時は、次回の団交期日の日程調整が行われたことが認められ、交渉の継続が困難な状況に陥っていたとはいえない。

b 以上のことからすれば、社会的相当性を超える態様で交渉を行う蓋然性が高い状況や粗暴な脅迫的言動を繰り返すなど正常な協議ができない状況にあったとはいえず、その後の団交の継続を困難にするものであったとはいえないことから、会社の主張(a)は採用できない。

(イ)次に、会社の主張(b)についてみる。

組合が提出した請求書の記載内容には、一部、適切さを欠いた表現が含まれていたといえ、また、会社代理人弁護士にとって不快な記載があるとみることができる。

しかしながら、これら書面の記載内容を総合的にみると、組合が会社の姿勢や行動に抗議する意図で記載されたものであるとみることができ、団交における組合の対応として、社会的相当性を逸脱しているとまではいえない。

したがって、会社の主張(b)は採用できない。

ウ 以上のとおりであるから、会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)誠実団交応諾

(2)誓約文の手交

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?