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更新日:2024年5月24日

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9.S事件(令和4年(不)第3号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、(1)組合員1名に対する譴責処分、(2)組合員2名に対する低い評価で査定した賞与の支給、(3)団体交渉における対応が、それぞれ不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

  • (1)本件譴責処分について
    • ア これまでの経緯についてみると、組合及び組合員Aと会社は対立関係にあり、会社が組合員Aの組合活動を嫌悪していたとみることができる。
    • イ 本件譴責処分通知書の内容をみると、組合員Aのどの行為に対し処分を行うのかが客観的に明らかな形で特定されておらず、会社は処分の原因となる行為を不明確にしたまま懲戒処分を行ったとみるのが相当で、そのこと自体、問題であるというべきである。
    • ウ また、組合員Aの労基署への申告が本件譴責処分の原因であったとみることができるが、労働者は自らの時間外労働等について疑義があると感じれば、使用者の意向に反しても自由に労基署に申告できるというべきである。しかも、労基署は会社に対し、是正勧告書等を交付しているのだから、会社が、虚偽の申告が行われたとして処分を課すことは正当な行為とはいえない。
      さらに、労基署への申告は、組合員Aを含む組合員3名により、時間外労働に関する組合活動の一環として行われたというのが相当であって、会社は、組合員Aの組合員としての正当な行為を理由に処分を行ったと判断される。
    • エ なお、会社は、本件において、本件譴責処分の理由について、業務時間中の暴言や業務改善命令に対する反発、業務命令違反等を根拠とした旨主張し、組合員Aと本件社長の口論を挙げる。しかし、処分通知書には、口論が起きた日付すら見当たらない。また、組合が本件譴責処分について、懲戒対象となる組合員Aの言動があれば、その言動の日時等を文書で示すよう求めたのに対し、会社は、具体的な回答を行っていない。
      さらに、組合員Aと本件社長の口論の内容が会社の抗議文に記載のとおりであったと認めるに足る疎明はなく、会社の抗議文に対する組合からの反論の書面を受け取った後も、会社が口論に係る事実を客観的な証拠に基づき検証しようとしたとする疎明はない。
    • オ 以上のとおりであるから、本件譴責処分は、処分の原因となる行為が不明確なまま、客観的に事実を明らかにする態度を欠き、一方的に組合員Aの行為に問題があると結論付けたものというのが相当である。また、会社が組合員Aの組合活動を嫌悪しており、本件譴責処分の原因というべき行為の中には組合員としての正当な行為が含まれていることも明らかである。
      したがって、本件譴責処分は正当な組合活動を行ったが故の不利益取扱いに当たると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
  • (2)組合員に対する賞与の支給について
    • ア 上記(1)記載と同様に、会社は組合員Aと組合員Bの2名の組合活動を嫌悪していたというべきである。
    • イ 他の従業員に比べて本件組合員2名に対する評価は低く、賞与額が低額であったと判断されるところ、本件審査手続を経ても、会社が使用しているとしている人事考課項目表の評価点がどのように賞与額に影響するかについては判然としないというべきこと等からすると、会社は、査定の評価点や賞与額を、全従業員に対し均一の基準を設けて、客観的で透明性のある方法により決定していたとはいえず、恣意的に決定していたとみることができる。
    • ウ また、本件審査手続において、会社は、査定の根拠となる本件組合員2名の行為を明確に示しているとはいい難い。
      賞与考課内容について回答するとして会社が組合あてに提出した文書では、組合員Aについて、労基署への申告や本件社長との口論が挙げられているが、こういった行為は、上記(1)記載のとおり本件譴責処分の正当な理由ということはできず、同様に、評価点や賞与額を下げる正当な理由とみることはできない。団交における組合員Aの発言についても、組合側出席者の団交における発言は、原則として、正当な組合活動の範囲内とされるべきものであって、組合員Aがこの限度を超えて団交において粗暴な行為を行ったと認めるに足る疎明はない。
      組合員Bについては、当該会社文書には、知識や技術のレベルが低いとする記載があることが認められるが、組合が、組合員Bが業務において未熟であるとする事実について、日時と内容を箇条書きで明示するよう求めたのに対し、会社が応じていないことが認められる。また、会社が、全従業員の能力を均一の基準で評価する仕組みを構築していると認めるに足る疎明はない。
      当該会社文書に記載された本件組合員2名のその他の行為も、査定の評価点や賞与額を下げる理由に当たるとはいい難く、また、記載内容以外についてみても、本件賞与の査定期間中に、本件組合員2名について平均を下回る査定を行うべき事象があったと認めるに足る疎明はない。
    • エ 以上のとおりであるから、会社は本件組合員2名に対する本件賞与に係る査定において、公平で客観的な手段を用いず、正当な理由なく低い評価としたというべきである。また、会社が本件組合員2名の組合活動を嫌悪していることは否定できない上、会社が査定に当たり、組合員としての正当な行為を問題行為としてとらえていることも明らかである。
      したがって、会社が、本件組合員2名に対する本件賞与を、他の正社員より低い評価で査定し、支給したことは、正当な組合活動を行ったが故の不利益取扱いに当たると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
  • (3)団交における会社の対応について
    • ア 団交申入書の要求事項には、本件賞与と本件譴責処分に関するものがあったことが認められ、これらの事項が義務的団交事項に当たることは明らかである。
    • イ 本件賞与に関する協議についてみると、組合は、本件賞与について、本件組合員2名と他の従業員との支給額の差の程度を明らかにし、減額理由に関する具体的な協議を求めていたといえ、会社はこれに対し、支給額の差の程度を明らかにし、他の従業員と差が生じた具体的な理由について、可能な限り、客観的な資料を提示する等して誠意をもって協議に応じる義務があり、これを果たしていなければ、不誠実団交に当たるというべきである。
      他の従業員との支給額の差に関しては、会社は本件賞与の平均支給額等の統計的な数値さえ明らかにしていない。
      賞与考課内容について回答するとして会社が組合あてに提出した文書には、本件組合員2名についての問題点が列挙されていることは認められるが、これに対して、組合が本件組合員2名の減額要素について、誰が、いつ、どのような場面で確認したか等への回答を求めたところ、会社からの回答書には、本件組合員2名の行為について、日付を示しての具体的な内容は記載されていないことが認められる。その後についてみても、会社は、再三にわたる組合からの問いかけに対して、本件組合員2名の減額理由の具体的内容やどういった点がどの程度、賞与額に影響しているかについて説明しようとしなかったというべきである。
      本件労基署申告については、本件賞与の減額理由とともに本件譴責処分の理由でもあるというべきところ、組合は、団交においても本件是正勧告書の写しの交付を求めたが、会社取締役は、今日のところは考えていない旨返答したことが認められる。団交において、会社は本件労基署申告を虚偽であると主張し、組合はこれに反論しており、本件是正勧告書はこの件に関連する客観的で重要な資料であることは明らかであるのだから、これを提出しないとする会社の対応は、客観的な事実に基づいて協議を行う姿勢を欠いたものというべきである。
    • ウ 次に、本件譴責処分についての協議についてみると、組合が、本件譴責処分について、懲戒対象となる組合員Aの言動があれば、その言動の日時等を文書で示すよう求めたのに対し、会社は、この半年、口頭のみならず書面で違反事項を伝えているが、その書面をなくしたのでしょうか等と回答するのみで、日時を示して具体的な行為を明らかにしなかったことが認められる。かかる会社の対応により、処分の原因というべき組合員の行為が不明確なままにされ、本件譴責処分についての実質的な協議が著しく困難になったというのが相当である。また、上記イ記載のとおり、本件是正勧告書の写しを提出しないとする会社の対応は、客観的な事実に基づいて協議を行う姿勢を欠いたものというべきである。
    • エ 以上のとおりであるから、会社は、本件団交において、組合の求めにもかかわらず、本件組合員2名に対する本件賞与の減額理由の具体的内容、どういった点がどの程度賞与額へ影響したかや、本件譴責処分の原因となった具体的な行為を明らかにせず、客観的な事実に基づいて協議を行う姿勢を欠き、根拠の不確かな発言を繰り返すなどしたというべきである。かかる行為は、団交における組合との協議に誠実に応じなかったものと判断され、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

  • (1)組合員1名に対する懲戒処分のなかったものとしての扱い
  • (2)組合員2名に対する賞与について、正社員従業員の平均額と既払額の差額の支払
  • (3)誠実団交応諾
  • (4)誓約文の手交

なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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