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1.K/I事件(令和6年(不)第25号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社らが、(1)春闘要求等を議題とする団体交渉において、根拠を示さずにゼロ回答を行ったこと、(2)団交が平行線であったこと等を理由として、その後の団交申入れに応じないこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である
2 判断要旨
(1)団交における会社らの対応は、不誠実団交に当たるかについて
ア K社は組合員らの直接の雇用主ではないものの、K社が労働組合法上の使用者に当たることについて、当事者間に争いはない。
イ 春闘要求書による要求事項は、賃金引上げや一時金及び夏季・冬季手当等14項目他であったことが認められ、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項を含み、使用者に処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たるといえる。
ウ 団交における組合と会社らのやり取りの内容についてみると、会社らは、賃上げについて、資料を示さず、ゼロ回答を行ったことが認められる。
しかしながら、団交に係る団交議事録や団交メモなどの証拠は提出されておらず、組合と会社らとの間で、具体的にどのような協議がなされたのかについて認めるに足る事実の疎明はない。
エ 以上のことから、団交における協議内容について、疎明もないのであるから、団交における会社らの対応は不誠実団交に当たると認めることはできず、組合の申立ては棄却する。
(2)団交申入れに対する会社らの対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるかについて
ア 本件団交申入れにおける組合の要求事項は、春闘要求書を含むことが認められ、前記判断のとおり、当該要求事項は、義務的団交事項に当たるといえる。
イ また、本件団交申入れに対し、本件申立てまでの間に団交が開催されていないことについて当事者間に争いはない。
そうすると、会社らが正当な理由なく団交に応じなかった場合、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となる。そこで会社らの対応に正当な理由があったかについてみる。
ウ この点、会社らは、(a)会社らは説明を尽くしており、これ以上団交を行っても、既に交渉は平行線であること、(b)既に明確に回答を行い、交渉が平行線になっている状況下でさらに漫然と団交を行うことは、利敵行為、統制違反行為として同業種の協同組合の方針に背くものとみなされる恐れがあること、から団交を開催しないことに正当な理由がある旨主張するので、以下検討する。
(ア)会社主張(a)についてみる。
前記(1)ウ判断のとおり、団交については、会社らがゼロ回答を行ったことは認められるものの、当日の協議が平行線であったことを認めるに足る事実の疎明はないのだから、この点に係る会社らの主張は採用できない。
(イ)次に会社主張(b)についてみる。
K社が同業種の協同組合に加盟していること、同業種の協同組合が加盟各社に対し、組合と団交等を個別に行うことを控えるように要請していることが認められるものの、同業種の協同組合からの要請に従ったことを理由に、個々の会社に課せられた団交応諾義務が免ぜられるわけではない。
この点、会社らは、同業種の協同組合が組合と個別の交渉を原則として禁止しており、その正当性は地裁判決も認めている旨も主張するが、そもそもこの判決は、事案を異にするので、本件には適用されない。
したがって、この点に係る会社らの主張は採用できない。
エ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社らの対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)団交応諾
(2)誓約文の交付
(3)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、会社らは中央労働委員会に再審査を申し立てた。