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5.Y事件(令和5年(不)第43号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、一般社団法人が、(1)組合加入直後の組合員1名に対し、事業所の鍵を取上げ、業務における役割を与えなかったこと、(2)同組合員に賞与を支給せず、同組合員を本人の希望するグループ他社に転籍させなかったこと、(3)組合の宣伝活動に参加していた組合員らの写真を撮り、組合に宣伝活動を止めるよう求めたこと、(4)同組合員の労働条件等に関する団体交渉において、一方的な見解を主張し続けたり、組合とは話し合う必要がないと述べたりするなどの不誠実な対応をしたこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)A組合員に対し、事業所の鍵を渡さなかったこと及び一旦渡した鍵を回収したことについて
ア 一般社団法人の行為といえるかについて
(a)鍵の取扱いについては、申立外B社の課長が一般社団法人の職員らに指示することが常態化していたとみるのが相当であること、(b)一般社団法人のC代表は申立外B社の鍵の管理方針を了知していたものといえること、からすると、当該鍵の取扱いに関する限り、一般社団法人は申立外B社を通して一般社団法人の職員に直接指示していたといえるから、これらの鍵の交付及び回収は一般社団法人の行為とみるのが相当である。
イ 不利益な取扱いに当たるかについて
所持している鍵によりビル又は執務室に入ることができることは、本来、申立外B社又は一般社団法人の従業員が所持すべき鍵をA組合員が所持することから生じる反射的な効果にすぎないのであって、その鍵が回収され又は交付されなかったことは、不利益な取扱いに当たるとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、A組合員に対し、事業所の鍵を渡さなかったこと及びA組合員に一旦渡した鍵を回収したことは、一般社団法人の行為とはいえるものの、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえない。
また、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらないのであるから、非組合員に対する萎縮効果が働くとはいえず、組合に対する支配介入には当たらない。
(2)ファッションショーの準備作業に係る指示を行わなかったこと及び当日の役割分担表にA組合員の氏名を記載しなかったことについて
ア 一般社団法人の行為であるといえるかについて
ファッションショーの準備作業に係る指示は、一般社団法人の職員であるD職員が業務上行っていたものであるから、同指示を行わなかったことが一般社団法人の行為であることは明らかである。
そうするとまた、ファッションショー当日の役割分担表にA組合員の氏名を記載しなかったことも、一般社団法人の職員であるD職員の業務上の指示に基づくものとみるのが相当であるから、一般社団法人の行為といえる。
イ 不利益な取扱いに当たるかについて
A組合員が申立外E社に対してスタジオ施設のホームページのリンクをチャットで送信したことが認められ、一般社団法人もそれを特に制止していないとみられる状況においては、A組合員が、担当が予定されていた業務を意図的な業務外しなどにより担当できなくなったのであれば、精神的な不利益を与えるものとして、不利益な取扱いに当たる。
ウ 不当労働行為意思に基づくものであるかについて
(ア)A組合員が本件ファッションショーの会場の準備に関わったものとみることもできる行動をとったことから直ちに、一般社団法人が、D職員による準備作業の指示に先立って、A組合員に対して準備を依頼していたとみることはできない。
(イ)組合は、D職員がA組合員以外の一般社団法人の職員全員を集めて本件ファッションショーの準備を進めるよう指示を伝える一方で、A組合員にだけ指示がなかった旨主張するが、このことを認めるに足る事実の疎明はない。
(ウ)組合は、役割分担表にはA組合員を除く一般社団法人の職員全員の氏名が記載されていたが、A組合員の氏名は記載されず、A組合員にだけ役割が与えられないという差別的な取扱いがなされた旨主張するが、このことを認めるに足る事実の疎明はない。
(エ)そうすると、一般社団法人が、A組合員に対しファッションショーの準備作業に係る指示を行わなかったこと及びファッションショー当日の役割分担表にA組合員の氏名を記載しなかったことは、不当労働行為意思に基づくものとはいえない。
エ 以上のとおりであるから、A組合員に対し、ファッションショーの準備作業に係る指示を行わなかったこと、及び、ファッションショー当日の役割分担表にA組合員の氏名を記載しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いにも組合に対する支配介入にも当たるとはいえず、本争点に係る組合の申立ては棄却する。
(3)A組合員に対し、処遇改善ボーナスを支給しなかったことについて
ア まず、経済的な不利益取扱いであることは、明らかである。
イ 次に、組合員であるが故になされたものであるかについてみる。
(ア)一般社団法人がA組合員が所属するチーム以外の職員に処遇改善ボーナスを支給したのはA組合員の組合加入公然化よりも前のことであり、この時点では、一般社団法人はA組合員の組合加入を認識していなかったといえる。
もっとも、A組合員の組合加入公然化以前の事実として申立外F法人の理事が、A組合員に対して、組合に加入したことを組合員から聞いたとの発言をしたことが認められるものの、処遇改善ボーナスの支給日よりも後のことであり、いずれにしても、A組合員が所属するチーム以外の職員に処遇改善ボーナスを支給した時点において、一般社団法人がA組合員の組合加入を認識していたとはいえない。
(イ)したがって、一般社団法人がA組合員に対し、処遇改善ボーナスを支給しなかったことは、その余を判断するまでもなく、組合員であるが故の不利益取扱いにも組合に対する支配介入にも当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(4)A組合員を転籍させなかったことについて
ア 不利益な取扱いに当たるかについて
A組合員は申立外E社への転籍を希望していたのであるが、一般社団法人は、一般社団法人と申立外B社との間の業務委託契約が終了することが決まったことから、C代表としては、一般社団法人の従業員を転籍させようと、申立外B社、申立外E社ほか2社に対して転籍についての申入れ等を行ったというのであるから、一般社団法人がA組合員の希望を容れず転籍させなかったことは人事上の不利益な取扱いに当たり得る。
イ 組合員であるが故になされたものであるかについて
(ア)組合と一般社団法人の労使関係の状況についてみると、A組合員の組合加入が公然化して以降、本件申立て後に行われた団交に至るまで、一般社団法人が社外を含めた組合の活動を警戒して情報を収集し、組合との交渉に拒否感を抱き、ひいては組合自体に反感を抱くという激しい対立状況にあったとみられ、この間、一般社団法人には不当労働行為意思に基づく不利益取扱いをする動機が十分にあったというべきである。
(イ)一般社団法人が、A組合員の組合加入公然化よりも後の、A組合員を転籍させなかった時点で、A組合員が組合員であることを認識していたことは明らかである。
(ウ)また、C代表は、A組合員が転籍を求めた際には、転籍が困難な理由として組合との関係を挙げ、さらに、団交の場では、A組合員の転籍について、自分が転籍を打診される側であれば絶対断ると説明している。
(エ)これらのことからすると、一般社団法人がA組合員を転籍させなかったのは、A組合員が組合員であることを理由とするものであり、不当労働行為意思に基づくものであったと言わざるを得ない。
(オ)以上のことからすると、一般社団法人がA組合員を転籍させなかったことは、組合員であるが故になされたものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、一般社団法人がA組合員を転籍させなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
また、一般社団法人のこの行為は、組合の組合活動を萎縮させるものとして組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(5)組合の宣伝活動に参加していた組合員らの写真を撮ったことについて
写真撮影自体は直ちに宣伝活動を妨害するものとはいえない上、この写真撮影により、宣伝活動に何らかの支障が生じたと認めるに足る事実の疎明はない。
したがって、この写真撮影が、組合の宣伝活動に対する妨害行為であるとまではいえない。
このことから、一般社団法人が組合の宣伝活動に参加していた組合員らの写真を撮ったことは、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(6)組合の宣伝活動について、一般社団法人が、止めるよう求めたことについて
ア 宣伝活動当日に、一般社団法人が組合に宣伝活動を止めるよう求めたのは、組合が宣伝活動を終了してから3時間も後のことであり、宣伝活動を直接、制止しようとしたものではない。
また、それが、脅迫的言辞により組合の正当な組合活動に介入するものであれば別論、そうでなければ、これは一般社団法人が和解に消極的になることを避けるために一般社団法人の代理人が行った申入れとみるべきであり、組合活動に対する妨害であるとも、組合の活動を萎縮させる効果を持つものとも認められない。
イ したがって、組合の宣伝活動について、一般社団法人が組合に宣伝活動を止めるよう求めたことは、組合に対する支配介入には当たらず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(7)第3回団交及び第4回団交における一般社団法人の対応について
ア 義務的団交事項に当たるかについて
本争点において不誠実団交の判断対象となる議題はA組合員の勤務シフト及び勤務場所に係る要求事項等であったことが認められ、これらはいずれも、A組合員の労働条件及びその他の待遇に関する事項であり、義務的団交事項に当たる。
イ 団交における一般社団法人の対応について
(ア)第3回団交について
a 一般社団法人は団交に、要求申入書の回答を準備していないばかりか、要求内容すら把握せずに出席した上、その点を組合に指摘されても、反省の態度すら見せずに開き直っているのであって、かかる一般社団法人の対応は、到底、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索するべき誠実交渉義務を果たしたものとはいえない。
b 組合が、賃金引上げ等を求める春闘要求について、経営状況についての資料の提示を、必要性を説明して要求したにもかかわらず、一般社団法人は、組合の提示要求に応じなかったばかりか、組合の団交拒否の指摘に対し、反論することも、態度を改めることもしていない。かかる一般社団法人の態度には、組合との協議に真摯に応じようとする姿勢はみられない。
c 一般社団法人は、組合が時間を延長しての協議を求めたにもかかわらず、次回団交の日程を調整することもなく席を立ち、一方的に団交を終了させている。
また、一般社団法人側の指定した日に開催が予定されていた団交が、一般社団法人側の都合で、しかも連絡もないまま同日開催に至らず、開催時期が更に1か月以上遅れたことが認められ、このことを考え合わせると、一方的に団交を終了させた一般社団法人の対応は、組合との団交が継続するのを回避しようとしたものと言わざるを得ない。
(イ)第4回団交について
(a)組合が、組合に対する回答がなく、しかも団交が前回から3か月空いていることを指摘した上で、一般社団法人の姿勢は組合と話をする必要がないと言っているようなものである旨述べたのに対し、一般社団法人が、A組合員の件に関してはそうであり、社内のことなのでA組合員と協議していく旨及び労働組合にはそのような相談をする必要も理由も権限もない旨述べたこと、(b)A組合員の転籍について、組合が、受入先各社の代表に入社の希望を伝える際に組合の者を同席させるようにとの組合の要求を拒否する理由を尋ねたのに対し、一般社団法人は、自分が各社の代表に、組合を同席させてよいかという話はしてもよいという一方で、一般社団法人の内部の問題なので部外者を同席させる理由も必要もないなどと回答したこと、が認められる。
一般社団法人のこれらの発言は、労使対等の原則に則って組合との団交に臨む意思がないことを自ら表明したものであって、かかる一般社団法人の対応は、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索するべき誠実交渉義務を果たそうとするものとは到底いえない。
ウ 以上のとおりであるから、A組合員に係る要求事項を議題とする団交における一般社団法人の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)誠実団交応諾
(2)誓約文の手交
(3)その他の申立ての棄却