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19.O事件(令和6年(不)第27号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、(1)組合からの団体交渉申入れに応じなかったこと、(2)忘年会に組合員2名を案内しなかったこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が団交申入れに応じなかったことについて
ア 団交申入れの要求事項は、(a)春闘要求としての賃上げ等、(b)大阪府労働委員会における先行事件の命令に従い、組合からの要求事項に対する回答、であると認められる。
イ 要求事項(a)は、組合員の労働条件に該当するものであるから、義務的団交事項である。
また、要求事項(b)における団交申入れの趣旨は、組合員2名の自宅待機命令に関する紛争について労使間で解決を図るために交渉することを目的として申し入れたものと解することができる。よって、要求事項(b)は、「団体的労使関係の運営に関する事項」に関する交渉を求めるものであり、義務的団交事項に当たる。
以上により、要求事項(a)及び(b)は、いずれも義務的団交事項に当たる。
ウ 次に、会社が団交に応じない正当な理由の有無について検討する。
(ア)要求事項(a)について、会社は、組合員2名は自宅待機中であり、その自宅待機の効力について訴訟が係属中で、自宅待機中の賃上げ等の取扱いについても裁判所に判断を仰いでいる旨、そこが確定しないのに、賃上げ等の交渉についてやりようがなく、裁判所で、自宅待機の効力の有無や当該期間中の取扱いが確定してから、速やかに交渉するのが合理的である旨を主張している。しかしながら、会社が、現状では団交における解決はできないと判断していたとしても、団交の開催要求に応じ、組合に対し、現段階での会社の考えや方針を説明することは可能であり、会社の主張は採用できない。
(イ)要求事項(b)について、会社は、先行事件は再審査申立てによって中央労働委員会で係属中であり、中労委において審理すべきであって、これとは別に本件申立てによる事件の対象とするのは不合理かつ不必要である旨主張する。しかしながら、労働組合法第27条の15第1項において、再審査申立てによって救済命令等の効力は停止しない旨規定されているところ、再審査係属中であることを理由に団交に応じないことが、団交拒否の正当な理由となり得ないことはいうまでもない。
(ウ)したがって、会社が主張する団交拒否の理由は、いずれも正当なものとはいえない。
エ 以上のとおり、会社は、団交申入れに正当な理由なく応じなかったと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
(2)会社が忘年会に組合員2名を案内しなかったことについて
ア 不利益の有無について
忘年会は、屋形船で行われ、参加者一人当たりの費用は食事代等全て込みで約14,000円であり、会社分の従業員参加費用は全額会社が負担していたこと、忘年会の開催は、会社の朝礼や掲示板的なものにより公然と告知されていたことが認められる。これらのことからすると、忘年会は、会社の従業員が会社からサービスを享受できる催しとしての側面をもつものであったとみることが相当である。
また、忘年会には、会社の従業員では組合員2名のみを会社が案内しなかったことが認められる。
そうすると、組合員2名は、会社の従業員全員の参加が予定され、参加者がサービスを享受できる催しから自分達だけが排除されたことになり、不利益があったといえる。
イ 組合員故になされたかについて
(ア)忘年会当時、組合と会社の労使関係は、自宅待機命令をめぐって対立状況にあったといえる。
(イ)会社は、組合員2名を忘年会に案内しなかった理由として、自宅待機中であったからと主張する。
しかし、自宅待機命令は、組合員2名が会社による組合からの脱退勧告を拒否したことを受けて、脱退勧告と同日に行われたものであるところ、脱退勧告は、それ自体が労働組合法第7条に反する行為であると認められる。そうだとすれば、違法な脱退勧告が拒否されたことを受けてなされた自宅待機命令も労働組合法第7条に違反する行為といえる。
さらに、大阪地裁判決は、当該自宅待機命令が労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当し、違法である旨を判示していることが認められる。
このように、自宅待機命令が労働組合法第7条に違反する行為である以上、自宅待機命令をもって組合員2名を忘年会に案内しなかった正当な理由とすることは許されない。
以上のことからすると、会社の主張は採用できないし、会社が組合員2名を忘年会に案内しなかったのは、反組合的意思に基づくものであると認められる。
ウ これらのことから、会社が、忘年会に組合員2名を案内しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)団交応諾
(2)誓約文の手交
※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。