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10.D事件(令和5年(不)第75号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、(1)新制度の適用3か月前には事前に協議を行うという団体交渉における合意に反し、新制度を適用すると組合に回答したこと、(2)新制度に係る団交において、(ア)会社が新制度の評価基準や評価方法の詳細を開示することを拒否したこと、(イ)新制度における組合員各自の点数結果の開示を拒否し、そのことについて合理的な理由の説明を一切行わなかったこと、(3)団交の経過に反して、会社が令和5年の夏季一時金支給及び昇給を実施したこと、(4)組合分会長に対し、出頭要請書を送付し、事情聴取を行い、さらに厳重注意書を交付したことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)回答書をもって、新制度を適用することを、組合に回答したことについて
ア まず、労働組合法第7条第2号の不誠実団交に当たるかについてみる。
回答書において、会社は、昇給及び令和5年の夏季一時金支給額に関して新制度を適用することを組合に回答したことに争いはない。
団交で成立した事前協議合意を、会社が特段の事情もなく反故にしたといえるならば、会社の対応は、組合にとって団交の成果である合意を無視し、交渉を無意味にするもので不誠実といえるので、まず事前協議合意が成立していたといえるかについてみる。この点、団交において、会社は、単に組合の要望に相槌を打ったとみるのが自然であり、このことのみをもって、会社が3か月前には事前協議を行うことに合意していたとは到底認められない。
したがって、会社と組合との間に、事前協議合意が成立したとはいえないので、その余を判断するまでもなく、この点に係る組合の申立ては棄却する。
イ 次に、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たるかについてみる。
団交での事前協議合意があったにもかかわらず、特段の事情もなくこれを反故にしたとすれば、このような会社の対応は、労働組合の団交機能を阻害する支配介入に当たるといえるが、上記ア判断のとおり、団交で事前協議合意が成立したとはいえないので、支配介入には当たらない。
ウ 以上のとおりであるから、会社が回答書をもって新制度を適用することを、組合に回答したことは、不誠実団交に当たらず、組合に対する支配介入にも当たらないのであるから、この点に係る申立てを棄却する。
(2)団交における会社の対応について
ア まず、団交における会社の対応が、労働組合法第7条第2号の不誠実団交に当たるかについてみる。
(ア)組合の要求事項について
昇給・一時金支給額に影響を与える、新制度の評価基準及び評価方法並びに点数の開示という組合の要求事項は、労働者の労働条件に関する事項であり、使用者に処分可能なものであるので、義務的団交事項に該当する。
そうすると、使用者は、誠意をもって団交に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、また、結果的に譲歩できないとしても、その論拠を示して反論するなどの誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があり、これを果たさずに、実質的な団交に応じなければ、不誠実団交に当たるので、以下検討する。
(イ)会社の団交対応について
組合は、団交において、会社は、新制度の評価基準や評価方法の詳細を開示することを拒否したこと、及び点数の開示を拒否し、そのことについて合理的な説明を行わなかったことが不当労働行為である旨主張するので、以下それぞれについてみる。
a 新制度の評価基準や評価方法の詳細について
新制度の評価基準について、会社は、団交にて回答できる範囲で、組合の追及の程度に応じた回答をしていたといえる。
また、会社は、新制度の評価方法について、団交において、組合の追及の程度に応じて、説明し、組合の主張に対しても改善の意向を示したといえる。
以上のとおりであるから、団交における、新制度の評価基準及び評価方法についての会社の対応は、不誠実なものであったとまではいえない。
b 点数の開示及び、そのことに関する合理的な説明について
団交において、会社は、会社の立場から点数開示を行わない理由について説明し、フィードバック面談における良い点・改善点の伝達という代替案を提示し、さらに組合の主張を取り入れた対応方針も説明しているといえる。仮にその説明内容・代替案が組合にとって満足なものでなかったとしても、会社の対応が不誠実であるとまではいえず、この点に係る組合の主張は採用できない。
(ウ)以上のとおりであるから、団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえない。
イ 次に、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たるかについてみる。
上記ア判断のとおり、団交における会社の対応は、不誠実団交に当たると認められないところ、このような会社の団交での対応は、組合を軽視し、組合員の組合活動への信頼を低下させることにより、組合の活動を妨害するものとはいえないので、支配介入に当たらない。
ウ 以上のとおり、団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、また、組合活動に支配介入したものともいえないのであるから、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(3)会社は、組合との交渉経過に反して、夏季一時金支給及び昇給を実施し、もって組合に対して支配介入したといえるかについて
ア 組合は、団交において、組合が提案した仮妥結案を踏まえ、双方の検討課題を確認していたにもかかわらず、その経過を全く無視して一方的に夏季一時金支給及び昇給を実施したものである旨主張する。
イ しかしながら、会社は、団交において、今回は既に示したとおりに支払う旨述べており、仮妥結案を検討した上で支払うとの合意まであったとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、会社が、夏季一時金支給及び昇給を実施したことは、団交の経緯を無視したものとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。
(4)会社による、分会長に対する、出頭要請書の送付及び事情聴取の実施並びに厳重注意書の交付は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるかについて
ア (1)分会長が工場長に対し、分会長の点数を開示するよう要求し、社長架電にて、社長から低い点数になったのは考課者が低くつけたからと聞いた旨述べたこと、(2)会社は、分会長の前記(1)の行動における発言に至った経緯等を聴取するために、本社に出頭することを、業務命令として要請する出頭要請書を分会長に送付し、事情聴取を行ったこと、(3)会社は、分会長に対し、厳重注意書を送付したことが、それぞれ認められる。
組合は、(1)の行動に対する会社の上記(2)(3)の対応が、労働組合法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に該当する旨主張するので、以下検討する。
イ 会社の対応が、組合員故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
(ア)まず、出頭要請書を送付し、事情聴取を実施したこと及び厳重注意書を交付したことは、分会長に対する不利益な取扱いといえるかについてみる。
出頭要請書には、(1)の行動について、出頭を通知する旨、出頭しない場合には懲戒処分の対象となる旨の記載があったこと、会社は、出頭要請書に基づき事情聴取を実施したこと、厳重注意書には、同様の違反行為を重ねる場合には、懲戒処分の対象になる旨の記載があったことが認められる。
これらのことからすると、分会長が、今後の懲戒処分の可能性や人事考課上の不利益が生じる懸念を抱いたことは容易に推認できるから、会社の対応は、分会長に精神的な不利益を与えるものといえる。
(イ)次に、出頭要請書を送付し、事情聴取を実施したこと及び厳重注意書を交付したことが組合員であるが故になされたかについてみる。
a 当時の労使関係について
団交において、点数開示についてのやり取りがあったこと、回答書で会社が点数を開示しないと回答したことからすれば、当時、組合と会社は点数開示をめぐって争いがあり、相当の緊張状態にあったといえる。
b 会社対応の必要性・合理性について
(a)出頭要請書の送付及び事情聴取の実施について
出頭要請書には、分会長が嘘の事実を交えて詰め寄り、考課者の不利益となることを述べた旨の記載があり、当事者への事情聴取を前に事実を断定することは、出頭を命じられた従業員に対して、処分を前提とするものとの疑いを抱かせ、強い不安や威圧感を与えるものであるから、不合理なものといえる。
さらに、このような不合理な出頭要請書に基づき実施された事情聴取においては、会社が、分会長の行動は脅しに繋がる旨等述べたことが認められる。事情聴取前に工場長に対して行われた面談において、工場長は、(1)の行動は脅迫するような内容ではない旨述べたことが認められることに鑑みると、会社の事情聴取における前記発言は、面談での聴取内容とは異なった会社見解を述べ、分会長へ注意を行ったものであるといえるから、このような会社の対応は、合理性に欠けるものといわざるを得ない。
(b)厳重注意書の交付について
厳重注意書には、分会長が考課者に不利益になることを告げたこと、及び、就業時間中の個人携帯電話による私用の電話について、注意指導を行った旨、同様の違反行為を重ねる場合には懲戒処分の対象になる旨の記載があったことが認められる。
(1)の行動についてみると、面談で、工場長自身が、分会長の発言を脅迫と受け止めていない旨述べていること、(1)の行動以外で分会長が同趣旨の発言を繰り返し行ったとの疎明もないことから、取り立てて(1)の行動での発言のみを取り上げて厳重注意書を交付するほどの必要性があったとまでは認めがたい。
また、私用電話についても、口頭注意等の経過も踏まず、突然に厳重注意書を交付する必要性があったとまでは認められない。
(c)以上のことから総合的に判断すると、会社の対応は、必要性や合理性に欠けるものであったといえる。
c 以上のとおり、(1)の行動に対する会社の対応は、点数開示をめぐって労使間の緊張が高まっている時に、組合活動の延長線上に行われた分会長の行為に対して行われたものであり、会社の反組合的な姿勢が伺えるとともに、その必要性や合理性も認められないことから組合員であるが故になされたとみるべきである。
(ウ)よって、出頭要請書の送付及び事情聴取の実施並びに厳重注意書の交付は、組合員故に行われた不利益取扱いに当たる。
ウ また、このような対応によって、組合活動が委縮することは明らかであり、組合に対する支配介入に当たる。
エ 以上のとおりであるから、会社による、分会長に対する、出頭要請書を送付し、事情聴取を実施したこと及び厳重注意書を交付したことは、労働組合法第7条第1号及び同条第3号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)誓約文の手交
(2)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。