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16.K事件(令和5年(不)第52号事件)命令要旨
1 事件の概要
組合は学校法人に対し、ハラスメントについての同僚からの申立ての結果、ハラスメントには該当しないが不適切な言動があったと判断された従業員について、組合加入を通知した。本件は、このような経緯のもとで、両者間の接触に関する措置を組合加入通知後も撤回せず維持するなどの学校法人の行為が不当労働行為であるとして申し立てられた事案である。
2 判断要旨
(1)不利益取扱いについて
ア 両者間の接触に関する措置について
(ア)本件組合員と当該同僚の間での必要なやり取りは主任を通じて行うこと等により、両者間の直接的な接触を回避する措置が取られていたところ、本件組合加入通知の翌日付けの文書にて、この措置の継続が通知されたのであるから、外形的には、組合加入が措置の継続に影響したようにみえることは否定できない。
(イ)そこで、組合員であることと当該措置の関係について、さらにみるために、学校法人が措置を継続させた理由について検討する。
本件ハラスメント事案についての判断がなされた直後に当該同僚は、学長に対し、引き続き本件組合員との直接的な接触を避けられるよう就労環境の調整を求めたことが認められる。また、本件ハラスメント事案の結論を通知した文書には、本件ハラスメント事案はハラスメントに該当しないと判断されるが、ハラスメントと受け止められても致し方ない極めて不適切な言動があったことが確認された旨の記載があることが認められる。
そうすると、就労環境を整える観点からみて、学校法人が、両者間の接触に関する措置を従前どおり継続することにしたことを不自然とはいえない。また、本件ハラスメント事案についての判断自体は、本件組合加入通知前のものであるし、通知前から、学校法人が本件組合員の組合加入の意図を察知していたと認めるに足る疎明もないから、本件組合員が組合員になったことが本件ハラスメント事案の結論を左右したとはいえない。
(ウ)したがって、両者間の接触に関する措置を本件組合員の組合加入通知受領後も撤回せず、維持したことは、本件組合員が組合員であることを理由とした不利益取扱いということはできない。
イ ハラスメント研修受講要請を本件組合員の組合加入通知受領後も撤回せず、維持したこと等について
(ア)本件組合員に対するハラスメント防止にかかる研修の実施については、本件組合加入通知前に判断された本件ハラスメント事案の結論を通知した文書に記載されていたところ、上記アのとおり、通知前から、学校法人が本件組合員の組合加入の意図を察知していたと認めるに足る疎明はない。したがって、この研修の実施は、本件組合員が組合員であるか否かとは無関係に決定されたというべきである。
このような状況下で、この研修への受講要請や研修に係る文書の送付が本件組合員が組合員であることを理由にするものというためには、本件組合加入通知後に、学校法人にこの研修の実施を中止すべき何らかの事情が生じたにもかかわらず、中止しなかったことを要するというべきところ、本件において、かかる事情は見当たらない。なお、組合が学校法人に対し、研修の延期を求める申入れを行っていたとしても、このことをもって、学校法人が研修を延期しなければならないものではない。
(イ)したがって、本件組合員に対するハラスメント研修受講要請を組合加入通知受領後も撤回せず、維持したこと等は、本件組合員が組合員であることを理由とした不利益取扱いということはできない。
ウ 本件組合員の所属部署でのハラスメント研修について
使用者が従業員を対象に行う研修において、組合や組合員に対する批判や、これを示唆する内容が含まれているのであれば、このことが不当労働行為に当たる可能性はあるが、こういったことがない限り、使用者は、原則として自由に、その組織のよりよい運営のために研修を企画、実施することができるというべきである。そして、ハラスメントに関する研修は、職場環境の維持・改善の観点から、通常、その組織をよりよく運営するためのものといえる。
本件組合員の所属部署での研修は、ハラスメントについてのものではあるが、組合や組合員に対する批判やそのことを示唆する内容が含まれていたと認めるに足る疎明はなく、使用者が当然に企画、実施できる研修に当たるというべきであって、その企画や実施によって、本件組合員が不利益を被ったとみることはできない。
したがって、その余のことを判断するまでもなく、本件組合員の所属部署でのハラスメント研修の企画や実施は、本件組合員が組合員であることを理由とした不利益取扱いということはできない。
(2)支配介入について
学校法人の行為により組合員が不利益を被ったとはいえない場合でも、組合活動を弱体化させた等というべき特段の事情があれば、支配介入に該当する可能性はあるが、本件において、このことを認めるに足る疎明はなく、本件における学校法人の行為は、いずれも組合活動に対する支配介入とはいえない。
(3)以上のとおりであるから、本件における学校法人の行為は、いずれも組合員であることを理由とした不利益取扱いには当たらず、また、組合活動に支配介入したものともいえないのであるから、本件申立てを棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却