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18.O/K事件(令和5年(不)第30号及び同年(不)第65号併合事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1)O社が申立外K法人を破産させることにより申立外K法人で就労していたA組合員を解雇したこと、(2)組合が、O社に対し、当該解雇の撤回等を求め団体交渉を申し入れたところ、O社が、申立外K法人とは別法人であるとして団交に応じないこと、(3)K社の代表者がA組合員の処分に係る事情聴取に参加していたことなどから、組合が、K社に対し、当該処分に係る経過の説明やA組合員の解雇撤回等を求めて団交を申し入れたところ、K社が、申立外K法人とは別法人であるとして団交に応じないこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)O社は、A組合員の解雇に関し、A組合員の労働組合法上の使用者に当たるかについて
ア A組合員は、申立外K法人に採用され、その後、申立外K法人の事業所において就業していたのであり、A組合員とO社との間に直接の雇用関係がないことに争いはない。
イ A組合員は、申立外K法人から、事業所の閉鎖に伴い解雇する旨を通知されたことが認められる。
そこで、O社がA組合員の解雇に関し、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかについて、以下検討する。
(ア)(a)解雇予告通知書が出された当時、申立外K法人の社員はO社並びにO社の代表取締役及び申立外K法人の代表理事であるB社長の2者のみであったこと、(b)B社長がO社の代表取締役であり、O社の行為を決定できる立場であったこと、を併せ考えると、申立外K法人の社員総会決議で決定すべき事項については、B社長の意思のみによって決定することができたと考えられ、申立外K法人の事業の存続や廃止に関する事項については、B社長の意思のみによって決定することができたと認められる。
(イ)また、O社が、申立外K法人をO社グループとしてO社のホームページで公開できる関係性であったといえる。
(ウ)さらに、O社は申立外K法人に対し、資金を融通し、経済的に影響力があったといえる。
(エ)以上のことを総合的にみると、O社は、A組合員の解雇について、部分的に雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったといえ、A組合員の労働組合法上の使用者といえる。
(2)O社は、A組合員が組合の組合員であることから、申立外K法人を破産させたと認められるかについて
ア 申立外K法人が破産するほどの経営状況に陥ったとは考えられないとの組合主張について
(ア)申立外K法人が経営不振に陥り、申立外K法人の管理監督業務を行っていたC氏が退職したことを機に、B社長が管理業務等を引継ぎ、経営改善を図ったが、経営状況は改善せず、事業継続を断念し、本件破産申立てを行ったことは、不自然とはいえない。また、業務要点報告書の内容及び裁判所が、破産手続の費用不足を理由として本件破産手続廃止決定を行った事実からも、申立外K法人の経営状況は再建の見込みがないほど悪化していたとみるのが相当である。
したがって、組合の主張には、理由がない。
(イ)また、申立外K法人は、他の従業員に対しても解雇予告通知書を送付しており、本件破産申立てが、組合員であるA組合員を解雇する目的で行われたとまではいえない。
イ 法律に定められた廃止の手続を無視し、支援を要する児童への支援の継続さえも考慮することなく閉鎖を急いだとの組合主張について
法律に基づく廃止手続違反についての事実の疎明はなく、また、仮に、申立外K法人が同法に基づく廃止手続に違反していたとしても、そのことだけをもって、本件破産申立てが組合員であるA組合員を解雇する目的で行われたと認められるものではない。
ウ 以上のとおりであるから、本件破産申立てが、A組合員を解雇する目的をもってなされた偽装破産であるとの組合の主張は採用できず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
(3)O社は、申立外K法人を破産させることによって、組合に対する支配介入を行ったと認められるかについて
上記(2)判断のとおり、申立外K法人が本件破産申立てを行ったことは不自然とはいえず、組合の消滅を意図したものとはいえないから、本件破産申立ては、組合の結成・運営に支配介入する行為には当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
(4)O社の団交拒否について
ア 団交申入書の要求事項は、申立外K法人の閉鎖やA組合員の解雇に関することであり、組合員の労働条件その他の待遇に関する事項であるから、義務的団交事項に当たるといえる。
イ 前記(1)判断のとおり、O社は、申立外K法人の事業の存続や廃止について、最終的に決定することができたものと考えられる。したがって、O社は、団交申入書の要求事項のうち、申立外K法人の閉鎖やA組合員の解雇に関することについて、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるといえ、団交申入れに係る団交に関し、A組合員の労働組合法上の使用者に該当する。
ウ したがって、O社が団交申入れに対し、団交に応じていないことは、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
(5)K社の団交拒否について
ア A組合員は、申立外K法人に採用され、その後、申立外K法人の事業所において就業していたことが認められ、また、A組合員とK社との間に直接の雇用関係がないことについて、当事者間に争いはない。
団交申入れの要求事項は、A組合員の解雇撤回等であったことが認められ、いずれもA組合員の処遇や雇用契約に関わるものであったといえ、義務的団交事項に当たるといえる。
そこで、K社が、上記各要求事項に対し、A組合員の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかについて、以下検討する。
イ 組合は、申立外K法人とK社の関係性について、(a)申立外K法人とK社の登記簿上の住所が一致していること、(b)K社と申立外K法人が合同研修を行っていたこと、(c)K社の取締役であるC氏は申立外K法人の従業員としても働いており、組合との団交時に申立外K法人側の参加者として主に発言していたこと、(d)K社と申立外K法人が業務応援を行っていたこと、(e)K社の代表取締役であるD社長がA組合員に対するヒアリングに参加していたことを挙げ、K社がA組合員の労働組合法上の使用者に当たる旨主張する。
ウ しかしながら、登記簿上の住所が同一であることや、合同で研修を実施したことが直ちに両社が同一組織であることを示すものではないし、団交にC氏が出席していたことについても、C氏は申立外K法人の従業員でもあるから、不自然ではなく、K社の取締役として出席していたこと等を証する事実の疎明もない。また、D社長が虐待防止委員会に出席したものの、その後、D社長がA組合員への処分やA組合員の解雇に関与したと認めるに足る事実の疎明もない。なお、K社と申立外K法人が業務応援を行っていたとの主張については、当事者間に争いがあり、当該主張を認めるに足る事実の疎明もない。
エ 以上のことからすると、K社は、A組合員に対する生徒からの隔離や残業代の支払、申立外K法人の事業所閉鎖及びA組合員に対する解雇の撤回等について、申立外K法人と部分的とはいえ同視し得る程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる立場にあったものとはいえない。
したがって、K社は、団交申入れに係る団交に関し、A組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえず、これらの点に係る組合の主張は、その余を判断するまでもなく、いずれも棄却する。
3 命令内容
(1)O社に対する団交応諾
(2)O社に対する誓約文の手交
(3)O社に対するその他の申立ての棄却
(4)K社に対する申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合及びO社は、中央労働委員会に再審査を申し立てた。