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更新日:2025年5月12日

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2.M事件(令和5年(不)第3号、同年(不)第23号、同年(不)第29号及び同年(不)第55号併合事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、会社が、(1)会社事務所の深夜閉鎖に伴うタクシーの入庫禁止についての団体交渉申入れに対して回答しなかったこと、(2)無期雇用に転換する条件にある副委員長に対して雇止め予告通知をしたこと、(3)組合員1名に対して雇止め予告通知をしたこと、(4)無期雇用への転換を申し入れた別の申立人組合員1名に対して退職を強要したこと、(5)委員長に対し契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求めたことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)団交申入れに対する会社の対応について

ア 会社が団交に応じていないことについて、当事者間に争いはない。

イ 本件団交申入れの議題であるタクシーの入庫禁止は、実施された場合、乗務員の帰庫時間が事実上の制約を受けることになり、組合員である労働者の労働条件に影響を及ぼす可能性があることは明らかであるから、義務的団交事項に当たる。

ウ 会社が団交に応じなかったことに正当な理由があるかについてみると、タクシーの入庫禁止を知らせる書面は、手書きで記載されたもので、会社名の記載もなく、会社が発表したものかどうかは定かでない上、本件団交申入れの議題となっている入庫禁止は実際には実施されず、かつ、会社は、組合が設定した文書回答期限の前に、営業所長を通じて入庫禁止を実施しないことを説明しているのであるから、組合も、本件団交申入れの前提となる入庫禁止が実施されないことを、自ら設定した文書回答期限以前に認識していたとみるのが相当である。

そうすると、本件団交申入れは、その前提となる事実が存在しているとはいえないのであるから、会社が団交に応じなかったことには正当な理由があるというべきである。

エ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否には当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(2)A副委員長に対する雇止め予告通知について

ア 不利益性について

会社がA副委員長に対して雇止め予告通知をしたことが不利益な取扱いに当たることは、明らかである。

イ 不当労働行為意思に基づくものであるかについて

(ア)組合内の委員長派と書記長派との関係について

組合臨時大会においてB委員長、A副委員長及びC書記長が組合役員に選出された後、会社が提案した新賃金制度の導入の是非をめぐって、これに反対する委員長派と容認する書記長派との間で対立が生じ、その後、組合の運営をめぐって両派が対立する状況が続いていたことが認められる。

また、会社は、組合執行部内にこうした対立があること及び委員長派がかつて会社提案の新賃金制度に反対したことを、当然、認識していたとみられる。

こうした中で、会社が、委員長派組合員を委員長派組合員であるが故に、書記長派組合員を含む他の従業員に比べて殊更に不利益に取り扱ったり、委員長派の弱体化を図ったりするなどした場合には、会社の行為は不当労働行為に当たるといえる。

(イ)A副委員長に対する雇止め予告通知がなされる前の労使関係について

組合と会社の労使関係は、組合が先行事件を申し立ててから会社による再審査申立てが棄却されるまでの間は緊張状態にあったとみられるものの、その後は、特段、緊張状態にあったとみることはできない。

(ウ)会社が組合やA副委員長らの組合活動を嫌悪していたかどうかについて

組合は、その具体的根拠として以下の4点を挙げるが、これらはいずれも根拠とはならず、A副委員長がB委員長と共に行っていた組合活動を会社が嫌悪していたとはいえない。

a 雇止め予告通知書記載の理由が客観的、合理的でないとの点について

雇用契約を更新しない理由として記載された事実はいずれも、会社の契約更新基準に基づいたものであったとみることができるし、また、雇止め理由には一定の妥当性があるといえる。

b 組合事務所等の貸与を認めて労働協約を締結している組合の役員を解雇するのに、理由の説明もなく結論ありきの態度であったとの点について

組合の役員の雇止めについて、組合と会社との間で事前協議約款が締結されていると認めるに足る事実の疎明はなく、A副委員長の雇止め予告通知に先立って、会社が組合に対してその理由を説明することが望ましいことはいうまでもないが、必ずしも説明すべき義務があったとまではいえない。

c 雇止めについての団交に応じていないとの点について

この団交に応じていないことをもって、直ちに、会社が雇止め予告通知をした時点で不当労働行為意思を有していたとはいえない。

d 組合員らの出勤停止に対する法的根拠の開示要求や安全講習会への出席拒否のため会社が組合を嫌悪したとの点について

会社は、乗務停止についての法的根拠の明示を求める組合の申入書に対しては書面で回答しており、また、交通事故後の講習に出席しなかった組合員らに対しては、乗務させないなどの特段の措置をとっていないのであるから、かかる組合及び組合員らの行動が会社の組合嫌悪を呼び起こしたとする主張には無理がある。

(エ)以上のことを考え合わせると、会社がA副委員長に対して雇止め予告通知をしたことが、不当労働行為意思に基づくものであったとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、会社がA副委員長に対して雇止め予告通知をしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、また、組合に対する支配介入であるともいえないから、この点に係る組合の申立ては棄却する。

(3)D組合員に対する雇止め予告通知について

ア 組合は、会社がD組合員に対して雇止め予告通知をしたことが組合に対する支配介入であると主張する根拠として2点を挙げるので、この点についてみる。

(ア)雇止めの理由が不当であるとの点について

契約期間満了予告通知書に記載された契約不更新の理由について、記載事実はいずれも会社の契約更新基準に基づいたものであったとみることができ、また、理由の記載内容についても、一定の妥当性が認められる。

(イ)A副委員長の雇止め予告通知があり、E組合員の契約更新が問題となっていた時期に通知され、B委員長の契約不更新へと続くものであったとの点について

a D組合員に対する雇止め予告通知が、A副委員長に対する雇止め予告通知、B委員長に対する実質的な雇止め予告通知及び会社とE組合員の契約更新についてのやり取りと近接した時期になされたものとみることはできる。

しかしながら、この時期に会社がD組合員に対して雇止め予告通知をしたのは、「契約の更新を行わない場合は、2ヶ月前までに通知を行うものとする」との雇用契約書の記載に従ったものとみられ、時期的に、特段、不合理ではない。

b また、前記(2)判断のとおり、A副委員長に対する雇止め予告通知は、組合員であるが故の不利益取扱いにも組合に対する支配介入にも当たらない上、B委員長の契約不更新については、この時点で会社が方針を決定していたことをうかがわせる事実は認められない。

イ 以上のことからすると、会社がD組合員に対して雇止め予告通知をしたのが、A副委員長の雇止め予告通知、E組合員の契約更新問題及びB委員長の契約不更新と一連のものとして、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

ウ また、D組合員が積極的な組合活動をしていたとは認められず、会社に、組合を弱体化させるためにD組合員を雇止めにする動機があったとはいえない。

エ 以上のことを考え合わせると、会社が、D組合員に対して雇止め予告通知をしたことは、組合を弱体化させるなど労働組合の団結力や組織力を損なうおそれがあったとはいえないから、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。

(4)E組合員に対して退職を強要したといえるかについて

ア 会社がE組合員に対して直接的に退職を求める言動をしていないことについて、当事者間に争いはない。

イ 会社がE組合員に対して退職を強要したと組合が主張する理由についてみる。

(ア)まず、出勤確認表の記載からすると、会社は、当初、E組合員について、有期雇用契約の終了日以降も継続して雇用することを予定していたとみることができる。

(イ)有期雇用契約が終了する前に無期転換を申し込んだE組合員に対して、新たな雇用契約による最初の勤務予定日に、契約手続が完了していないとして、乗務の際に携帯することになっている乗務員証を交付せず乗務させないまま、新たな雇用契約の在り方についても何ら説明しなかった会社の対応に、問題がなかったとはいえない。

(ウ)しかしながら、E組合員の退職届に記載された退職理由は契約期間の満了であって、会社による退職強要をうかがわせる理由の記載はない。

さらに、組合は、会社に対して、上記対応について抗議し又は団交を申し入れることもできるところ、抗議も団交申入れもしていない。

したがって、会社の上記対応により、E組合員は退職以外の選択肢がない状況にまで追いやられたとはいえない。

ウ 以上のことを考え合わせると、E組合員の契約更新をめぐる会社の対応が、E組合員に退職を強要したものであるとはいえず、この点に係る組合の主張は、採用できない。

エ したがって、会社がE組合員に対して退職を強要したとはいえず、組合に対する支配介入をしたともいえないから、この点に係る組合の申立ては棄却する。

(5)B委員長に対して契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求めたことについて

ア 不利益性について

会社がB委員長に対して契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求めたことが、不利益な取扱いに当たることは、明らかである。

イ 組合員であるが故になされたものであるかについて

(ア)まず、会社がB委員長に対して契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求める前の労使関係についてみる。

a 組合と会社の労使関係は、本件の最初の事件の申立日以降、会社の団交拒否及び組合員の雇用契約更新をめぐって対立状況にあったとみることができる。

b 会社は、無期転換申込みが専ら組合の運動の一環としてなされているものと認識していたとみるのが相当である。

c 会社は、A副委員長が無期転換を申し込み、組合もこの無期転換申込みについての回答を要求したのに対し、何ら回答や対応をしておらず、さらに、無期転換を申し込んだE組合員については、無期転換後最初の乗務予定日に乗務させず、面談でも乗務員証は出せない旨述べたまま、何ら説明もしていないが、労使が組合員の雇用契約更新をめぐって対立し、無期転換申込みが専ら組合の運動の一環としてなされているものと会社が認識している状況においては、無期転換に係る会社の上記対応は、組合活動の一環としての無期転換申込みを嫌悪して、組合員の無期転換後の就労を妨げようとしたものと評価せざるを得ない。

d さらに、本件の最初の事件の申立て時点で委員長派組合員は4名であったところ、その後、E組合員が退職し、続いてD組合員が雇止めとなり、雇止め予告通知後に無期転換したA副委員長は雇止め予定日以降、出社していないことが認められる。

こうした状況において、B委員長が、会社が求めるとおり、契約更新を行わないことを条件とする雇用契約を締結するとなれば、会社には委員長派組合員が実質的にいなくなるという状況にあったといえ、また、会社もそのことを認識していたとみることができる。

(イ)会社は、B委員長との契約の更新を行わないことにしたのは、更新すればB委員長に無期転換権が発生し、かつB委員長がこれを行使することが合理的に予測されたからであって、組合員であるという属性に着目したものではない旨主張する。

しかしながら、前記(ア)a、b判断のとおり、労使が組合員の契約更新をめぐって対立し、無期転換申込みが専ら組合運動の一環としてなされていると会社が認識している状況においては、B委員長が無期転換権を行使するという会社の予測は、B委員長が組合員であることを意識してなされたものとみるべきである。

このことに、前記(ア)c、dを考え合わせると、B委員長が組合員であることを意識してなされた予測に基づいてなされた契約不更新の決定は、むしろ、組合員であるという属性に着目して、組合を嫌悪し、会社から組合員を一掃することを企図してなされたものとみるべきである。

(ウ)なお、会社は、本来、不注意で事故を起こす乗務員ではなかったB委員長が、近年、事故を起こすようになってきたことを、契約更新を今回最終とすることの合理的理由として挙げる。

しかしながら、会社は、B委員長に雇用契約書の提出を求めるに際して、同理由をB委員長に説明していないことが認められる上、B委員長がどのような事故を起こしたかについて、具体的な主張も事実の疎明もないのであって、上記理由は合理的理由とはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、会社がB委員長に対して契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求めたことは、組合員であるが故になされたものであると言わざるを得ず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

また、組合員を会社から一掃することを企図してなされた会社のこの行為は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)B委員長との間で締結した雇用契約について、契約更新を行わないという条件がなかったものとしての取扱い

(2)誓約文の手交

(3)その他の申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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