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3.A事件(令和6年(不)第21号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合員1名が組合に加入し、団体交渉を申し入れ、和解を成立させるなどの組合活動をしていたところ、会社が、(1)労使の信頼関係が維持できないとして、同人を雇止めにし、(2)雇止めを議題とする団交において、合理的理由や社会的相当性を基礎付ける事実関係の説明をせず、復職には一切応じないとの意見の繰り返しに終始したことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)本件雇止めが、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるかについて
ア 不利益な取扱いに当たるかについて
労働契約書記載の内容からすると、本件労働契約は更新される可能性があったのであるから、本件雇止めは不利益な取扱いに当たる。
イ 不当労働行為意思に基づいてなされたものといえるかについて
(ア)会社が、本件雇止め通知をした時点で組合員であることを認識していたかについて
会社は、組合が組合員の組合加入を通知した令和5年6月頃には、組合加入を認識しており、本件雇止め通知をした同年12月の時点では、組合員であることを認識していたということができる。
(イ)組合加入通知から本件雇止め通知に至るまでの間の労使関係について
a (1)組合が、組合員の外された勤務シフトの復活、未払賃金の遡及支払等を要求して団交を申し入れ、団交が行われたこと、(2)団交での合意に基づいて合意書が交わされたこと、が認められる。
その合意内容は、組合側からみれば、要求のほぼ全てについて前向きな解決に至ったものと評価し得るものであるのに対し、会社側からみれば、解決金支払義務、組合員が社会保険の加入資格を得るための措置に係る努力義務等新たな負担を強いる側面もあったものということができる。
そして、その後の本件雇止めを議題とする団交において、会社が、本件雇用契約の更新に応じられない理由として、団交等の労働条件をめぐる交渉のようなトラブルが発生する状況が今後も続いた場合に、会社に負荷がかかり採算が合わなくなることを挙げたことが認められ、会社は、組合への対応を負担と感じていたとみることができる。
これらのことを考え合わせると、会社は、合意書の締結で解決をみた団交について、実際に新たな負担を強いられたものと感じていたものとみるのが相当である。
b そうすると、組合員の組合加入通知から本件雇止め通知に至るまでの間の労使関係は、会社が、合意書の合意内容について、組合員との労使紛争に組合が介入することにより会社が新たな負担を強いられたものとして、不満を持つという状況にあったものとみるべきである。
(ウ)本件雇止めの理由と組合員であることとの関係について
会社は、組合員の組合加入前から、組合員個人との間で労使紛争を抱えていたものと推認される。
しかし、一方で、会社が、(1)本件雇止めを議題とする団交において、会社が、本件雇用契約の更新に応じられない理由として、団交等の労働条件をめぐる交渉のようなトラブルが発生する状況が今後も続いた場合に、会社に負荷がかかり採算が合わなくなることを挙げたこと、(2)合意書の合意内容について、組合員との労使紛争に組合が介入することにより会社が新たな負担を強いられたものとして不満を持つという状況にあったこと、からすると、会社は、当初、組合員個人との間で労使紛争を抱えていたところ、組合が介入することにより紛争が拡大して新たな負担を強いられたものと認識して、それ以上の組合との関係が続くことによる負担の増加を回避すべく、組合員の雇止めを決定したものとみるのが相当である。
(エ)以上のことを考え合わせると、本件雇止めは、不当労働行為意思に基づいてなされたものというべきである。
ウ 以上のとおりであるから、会社が、組合員を雇止めとしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。それはまた、従業員の組合加入を抑止する効果を持つものであるから、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(2)本件団交における会社の対応は不誠実団交に当たるかについて
ア 本件雇止めについて、義務的団交事項でないとの虚偽の説明を織り交ぜて客観的合理的理由の説明を避けたとの組合主張について
(ア)労働契約書の更新基準のどれを当てはめ、どう検討したのかを説明しないのかとの組合の質問に対して会社が行った、団交義務の範囲ではないとの発言は、組合の質問が義務的団交事項に該当しないという趣旨のものではなく、組合の質問に回答する必要はないとの会社の立場を説明したものとみるのが相当であるから、虚偽の説明をしたものとまではいえない。
(イ)むしろ、会社は、雇止め理由についての組合の質問に対し、一旦は回答を拒否したものの、その後、組合からの改めての説明要求に対して、契約更新という組合要求に応じられないことを、具体的理由を挙げて回答しているということができる。
そうすると、本件団交における会社の上記回答は、会社が事前回答書で挙げた本件雇止めの理由を更に詳細に説明したものとみるのが相当であるから、仮にその説明内容が組合にとって客観的合理的なものでなかったとしても、誠実性を欠くとはいえない。
(ウ)したがって、本件雇止めについて、義務的団交事項でないとの虚偽の説明を織り交ぜて客観的合理的理由の説明を避けた会社の対応が不誠実団交に当たるとの組合の主張は、採用できない。
イ 復職に一切応じられないとの結論を一方的に押し付けるのみであったとの組合主張について
(ア)本件団交において、会社は、労働契約更新には応じられない旨述べており、この点の組合の要求に譲歩してはいない。
しかしながら、契約更新という組合要求に応じられないことを、具体的理由を挙げて回答している。
(イ)また、会社は、組合からのソフトランディングの提案に対しては、金銭的解決という新たな提案をしている。
(ウ)これらのことからすると、会社は、本件団交において、契約更新という組合の要求には応じていないものの、組合要求に応じられないことを、具体的理由を挙げて回答した上で、解決に向けた新たな提案をしているのであるから、その対応は、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索するものといえるのであって、復職に一切応じないとの結論を一方的に押し付けるのみの会社の対応が不誠実団交に当たるとの組合の主張は、採用できない。
ウ 以上のとおりであるから、組合員の雇止めを議題とする本件団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
3 命令内容
(1)雇用契約が1年間継続していたものとしての取扱い及びバックペイ
(2)誓約文の手交
(3)その他の申立ての棄却