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13.S事件(令和6年(不)第26号及び同年(不)第46号併合事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1)組合が組合員1名に関して団体交渉申入れを行ったところ、会社が、当該組合員に対し、要求を止めるか退職するかを返事するよう記載した文書と退職届の用紙を交付したこと、(2)会社が、当該組合員にのみ、誓約書を書かせようとしたこと、(3)団交において当該組合員の賃金を減額する旨回答したこと、(4)団交において、財務諸表等を提示して説明しないという不誠実な対応を行ったこと、(5)組合が、別の組合員1名についての団交を申し入れたところ、会社は1度は団交に応じたものの、再度申し入れた団交に応じないことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が会社内に設置されているA組合員の個人ポストに、会社書面及び退職届を投函したことについて
ア 不利益取扱いについて
(ア)まず、不利益性についてみる。
会社書面の記載は、会社がA組合員に対して、組合の要求を止めるか、退職するかを選択するよう示唆するものであり、A組合員の従業員たる地位を脅かすものであるとともに、A組合員が組合を通じて要求することを躊躇させるものである。したがって、会社書面は、A組合員を精神的に圧迫するものであったと認められる。
また、会社書面とともに退職届も併せて投函されているが、退職届は、会社書面による精神的な圧力をさらに強めるものといえる。
以上のことからすると、会社が会社書面等をA組合員の個人ポストに投函したことにより、A組合員は精神的な不利益を被ったと認められる。
(イ)次に、組合員であるが故になされたものであったかについてみる。
会社書面の内容や会社書面等が個人ポストに投函されたのが、組合が賃金の引上げ等を要求した翌日であったことからすると、会社の行為は、組合が賃金の引上げ等を要求したことを理由としてなされたものとみるのが相当である。
したがって、会社が会社書面等をA組合員の個人ポストに投函したのは、組合員であるが故になされたものとみるのが相当である。
(ウ)以上のとおりであるから、会社が会社内に設置されているA組合員の個人ポストに、会社書面等を投函したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。
イ 支配介入について
前記ア(ア)のとおり、会社書面は、A組合員が組合を通じて要求することを躊躇させるものであったのだから、会社が会社書面等を投函したことは、組合活動を阻害するものであったといえる。したがって、会社の行為は、組合に対する支配介入にも該当する。
(2)会社が組合に対して、A組合員に誓約書の記入を求める旨通知したことについて
ア 不利益取扱いについて
(ア)まず、不利益性についてみる。
会社が組合に送付した本件文書は、A組合員に関する申入れに対する回答であると認められるため、組合においてA組合員とその内容を共有することが想定される書面である。
また、本件文書の記載は、A組合員に対し、誓約書への記入を実質的に強制するものであったといえる。
そして、誓約書には、会社からの無線を拒否する又は乗客からクレームが3回あれば自主退職する旨の条項があり、かかる条項は、A組合員の従業員たる地位を脅かすものであるから、A組合員を精神的に圧迫するものであったと認められる。
以上のことを考え合わせると、A組合員は精神的な不利益を被ったと認められる。
(イ)次に、組合員であるが故になされたものであったかについてみる。
第2回団交において、会社は、誓約書をA組合員のみに書かせようとしたのは、A組合員が組合員だからである旨を認めている。したがって、会社が組合に回答書を送付して、A組合員に誓約書の記入を求める旨通知したことは、組合員であるが故になされたものである。
(ウ)以上のことからすると、会社が組合に本件文書を送付して、A組合員に誓約書の記入を求める旨通知したことは、A組合員が組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。
イ 支配介入について
前記ア判断のとおり、会社が組合に本件文書を送付したことは、A組合員が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるのだから、かかる行為は、組合に対する支配介入にも該当する。
(3)第3回団交における会社取締役の発言について
第3回団交における会社取締役の発言について、組合は、春闘要求に対し、A組合員のみ賃金を減額する旨の回答を行ったものである旨主張するが、第3回団交におけるやり取りをみると、会社取締役は、A組合員の賃金を減額すると明言してはいない。このことに、A組合員の賃金は減額されていないことを考え合わせると、第3回団交における会社取締役の発言が、A組合員のみ賃金を減額する旨の発言であったと認めることはできない。
以上のとおり、第3回団交において、会社取締役はA組合員の賃金を減額する旨の発言を行ったと認められないのだから、この点に関する組合の申立ては、その余を判断するまでもなく、棄却する。
(4)団交において、会社が組合に財務諸表等を提示しなかったことについて
ア 組合が会社に対し、財務諸表等を提示するよう求めたのに対し、第1回団交、第2回団交及び第3回団交において、会社が組合に財務諸表等を提示しなかったことについては争いがない。
団交において、使用者は、合意を求める労働組合の努力に対しては、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務(誠実交渉義務)を負うべきものと解すべきである。
もっとも、使用者は労働組合に対し、常に資料の提示をしなければならないものではなく、団交での協議事項や使用者の説明との関係で、資料の提示が必要である場合には、資料を提示しなければ誠実交渉義務違反となることもある。
そこで、以下、各団交における協議において、財務諸表等の提示が必要であったのかをみる。
イ まず、第1回団交についてみる。
第1回団交では、組合は、春闘要求の内容を会社に伝えたにすぎず、実質的な協議に至っていないのだから、この時点では、財務諸表等の提示が必要であったと認めることはできず、会社に誠実交渉義務違反があったと認めることはできない。
したがって、第1回団交において、会社が組合に財務諸表等を提示しなかったことは、不誠実団交に当たらない。
ウ 次に、第2回団交についてみる。
第2回団交の時点において、春闘要求に対する会社としての回答を明確には示しておらず、かつ、組合も、そのことを是認しているとみるのが相当である。そうであれば、このような段階において、財務諸表等の提示が必要であったと認めることはできないのであるから、会社に誠実交渉義務違反があったと認めることはできない。
したがって、第2回団交において、会社が組合に財務諸表等を提示しなかったことは、不誠実団交に当たらない。
エ 最後に、第3回団交についてみる。
第3回団交で、組合の春闘要求に対し、会社取締役は、「無理」だとしてゼロ回答をしたことが認められる。そうすると、会社は、組合の要求に応じることが「無理」であることについて、具体的な資料や根拠を示しつつ組合に対して説明し、合意達成の可能性を模索する必要があったというべきである。そして、会社の経営状況は、組合が賃上げ額等について納得できるものであるかを判断するための重要な情報であるとみることができるから、会社は、組合からの求めに応じて、会社の経営状況を示す資料を提示する必要があったというべきである。しかるに、会社は、組合に会社の経営状況を示す資料を何ら提示しておらず、そのことについて合理的な説明もない。
以上のとおり、第3回団交における春闘要求に関する協議において、会社は財務諸表等の会社の経営状況を示す資料を提示する必要があったにもかかわらず、これを提示せず、提示しないことについて合理的な理由も示していないのであるから、かかる会社の対応は、誠実交渉義務違反であると認められる。
したがって、第3回団交において、会社が組合に財務諸表等を提示しなかったことは、不誠実団交に当たる。
(5)団交申入れに対する会社の対応について
ア 組合は義務的団交事項について団交を申し入れ、かつ、組合が団交の日程として提案した日から1か月以上経過しても団交は開催されていないのであるから、団交が開催されていないことについて正当な理由がなければ、会社の対応は団交拒否として労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当すると判断される。そこで、団交が開催されていないことについて、正当な理由があったかについて検討する。
この点について、会社は、組合からの回答書を待っていただけであり、団交を拒否したわけではない旨、会社取締役が組合事務所を訪問した際に、組合副委員長は、第3回団交議事録でのB組合員の発言を見て、組合専従が判断するので検討して返事をする旨述べたので、会社はその回答を待っていた旨主張する。
組合事務所訪問の際に、会社取締役が第3回団交の議事録を読むよう求めていることは認められるものの、これに対して、組合副委員長が、組合専従が判断するので検討して返事をする旨発言したとは認められず、その他、組合事務所訪問の際、組合が会社に対し、回答書を提出する旨発言したと認めるに足る事実の疎明はない。むしろ、組合副委員長の発言からすると、組合としては、団交の場又は回答書で、会社としての見解を示すよう求めているのは明らかである。そして、組合事務所訪問の後、会社が組合に対し、自らの見解を記載した回答書を提出した事実は認められないのだから、会社は、団交の場で自らの見解を説明すべきであるといえる。
よって、団交が開催されていないことについての正当な理由があったとは認められない。
イ 以上のとおりであるから、会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)誠実団交応諾
(2)団交応諾
(3)誓約文の手交
(4)その他の申立ての棄却