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5.N事件(令和5年(不)第68号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合が組合員1名に対する解雇予告通知の撤回等を求めて団体交渉を申し入れたところ、会社が、第1回団交開催後に同組合員を解雇し、組合が継続で申し入れた団交を拒否したことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)まず、本件継続団交申入れの要求事項が義務的団交事項に当たるかについてみる。
本件継続団交申入れの要求事項は、組合員Aの引き下げられた賃金の回復、解雇予告通知の撤回、組合加入や組合活動を理由とした不利益取扱いを行わないこと、合意内容の協定書化及びこれらの関連事項であったことが認められる。
そうすると、これらはいずれも組合員の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であり、義務的団交事項に当たる。
(2)次に、会社は、団交に応じない正当な理由として、(a)第1回団交で会社が具体的な説明を行ったこと、(b)組合の要求内容が不明瞭であり、会社が団交に必要な資料や主張を準備することが不可能であったこと、を挙げるので、この点についてみる。
ア 前記(a)の理由について
(ア)会社は、本件継続団交申入書の要求事項について、第1回団交で具体的かつ詳細に回答している旨主張する。
(イ)確かに、会社は、第1回団交において、組合員Aの引き下げられた賃金の回復及び解雇予告通知の撤回について、理由等を具体的に説明したことが認められる。
しかし、一方で、第1回団交において組合が会社の主張に対する反論をしなかったことについては当事者間に争いはなく、また、第1回団交の終了前に、組合が、今日聞いた会社の主張を検討し、組合側の主張をまとめる旨述べて団交が終了したこと、及び会社の作成した議事録にも、組合が次回までに反論を考えることとなった旨が記載されていることが認められる。
そうすると、組合が次回の団交において主張反論をすることが予定されていたことは組合と会社の了解事項であったとみるべきであるから、第1回団交で具体的な説明がなされているからといって当該議題についての交渉が完了していないことは明らかであり、同じ議題について組合がした本件継続団交申入れに応じないことに正当な理由があるとはいえない。
(ウ)したがって、前記(a)の理由は、団交に応じない正当な理由とはいえない。
イ 前記(b)の理由について
(ア)会社は、団交の諾否を判断するために、要求及び議題について具体的に何を交渉するのかを示すよう組合に要求したが、組合から回答がなされず、このような不明瞭な内容の要求については団交応諾の判断すら不可能であった旨主張する。
(イ)確かに、会社が、組合の本件継続団交申入書及びその後の組合書面に対し、団交の諾否を判断するため、要求及び議題について何を交渉するのかを示して申入れをされたい旨回答したことが認められる。
しかしながら、第1回団交において、次回団交に先立って、組合が反論又は議題内容を第1回団交における要求以上に詳しく説明することに双方が合意した事実は認められないし、組合がそれをしなければ団交が開催できない事情があったと認めるに足る事実の疎明もない。
また、本件継続団交申入れは、第1回団交の継続交渉として同じ議題について団交を申し入れているのであるから、次回団交が、組合員Aの引き下げられた賃金の回復及び解雇予告通知の撤回を中心的議題とし、第1回団交における会社の主張を前提に行われることは明らかであり、交渉議題が不明瞭であったとはいえない。
仮に、組合の要求事項に不明な点があるとしても、会社は、団交の場で組合に質問することもできるのであって、団交に先立って組合が説明しなければ、団交が行えないというものではない。
以上のことからすると、本件継続団交申入れの要求内容が、会社が団交の準備をすることができないほど不明瞭であったとはいえない。
(ウ)したがって、前記(b)の理由は、団交に応じない正当な理由とはいえない。
(3)以上のとおりであるから、本件継続団交申入書に対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)団交応諾
(2)誓約文の手交