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7.S/R事件(令和3年(不)第47号事件)命令要旨
- 事件の概要本件は、(1)X1組合及びX2組合(以下「組合ら」という。)が、当委員会が発出した命令(以下「先行事件命令」という。)及び欠員補充について、団体交渉を申し入れたところ、S社及びR社(以下「会社ら」という。)は何ら回答しなかったこと、(2)X2組合が、欠員補充及び春闘要求について、団交を申し入れたところ、会社らは何ら回答しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
- 判断要旨
- (1)本件団交申入れに対し、会社らが回答をせず、団交が開催されていないことについて、当事者間に争いはない。
- (2)団交申入書の記載からすると、本件団交申入れの団交事項は、(ア)先行事件命令の履行について、(イ)欠員補充について、(ウ)春闘要求について、の3点といえる。
そこで、会社らが、本件団交申入れに係る団交に応じなかったことに、正当な理由があるかについて、以下、団交事項ごとにみる。- ア 先行事件命令の履行について
先行事件命令の履行に向けた団交申入れは、組合らが先行事件において救済を求めた団交申入れとは別の新たな団交申入れを、改めて、組合らが行ったものとみることはできず、むしろ、先行事件命令の履行を求めるものにすぎないといえる。
このことに、先行事件命令が団交応諾を命じたものではなく、誓約文の交付を命じたものにとどまることを併せ考慮すれば、組合らの団交申入れによって、新たな団交の必要性が生じたり、組合らに先行事件とは別の被救済利益が存したりするものとまで解することは困難であり、当該団交拒否に対して、先行事件命令とは別に会社らに不当労働行為を認定し、救済を命じる必要性があるとまで認めることはできない。したがって、会社らがかかる団交に応じなかったことをもって、不当労働行為に該当するとまではいえない。 - イ 欠員補充について
- (ア)組合らが団交を申し入れた時点において、会社らには組合らの組合員は存在していない。
上記のように組合員が存在しない場合、特段の事情がない限り、使用者には団交に応ずべき義務はなく、使用者が団交申入れを拒否しても、正当な理由のない団交拒否には当たらない。
そこで、会社らが団交に応ずべき特段の事情があるかについて、以下、会社ごとに検討する。 - (イ)S社について
- a 組合らは、会社らは実質的に同一の会社である旨主張するが、会社らの本社の所在地や代表取締役が同一であったことのみをもって、実質的に同一の会社であるとはいえない。
- b 組合らは、S社も、X2組合とR社との人員欠員補充に係る協定書の当事者である旨主張するが、同協定書には、S社についての記載はなく、同協定書を締結するに当たり、会社ら自身が、各自を区別することなく、同一の会社として対応にあたっていたとまではいえず、S社が同協定書の当事者であったということはできない。
- c 組合らは、S社とX2組合との間の確認書を締結した旨主張する。
同確認書の記載からすると、S社はX2組合からの人員補充要求が継続審議事項であることを認めているものの、同確認書をもって、S社が人員補充を約したとまではいえない。また、同確認書の締結から本件団交申入れに至るまで、S社と組合らとの間で、同確認書に基づき欠員補充問題についての協議が継続的に行われていたということはできない。
したがって、同確認書が締結されたのは、本件団交申入れから10年以上前のことであり、本件団交申入れに至るまでの経緯をみても、同確認書をもって、S社が人員補充についての団交に応ずべき特段の事情があったとまではいえない。 - d 組合らは、先行事件命令書では、S社に対して使用者性が認められた旨主張するが、同命令書には、欠員補充について使用者に当たるとは記載しておらず、S社が、同命令書において、欠員補充される組合員の使用者として認められたとはいえない。
- e 以上のとおりであるから、欠員補充に係る団交について、S社が応ずべき特段の事情があったとはいえず、S社がかかる団交に応じなかったことをもって、正当な理由のない団交拒否に当たるとまではいえない。
- (ウ)R社について
- a X2組合とR社との協定書の記載からすると、R社は、少なくとも、欠員補充問題の進捗状況をX2組合に報告すべきであったといえるところ、R社がX2組合に対して報告等を行ったとの疎明はなく、また、X2組合とR社との間で、人員欠員補充についての団交が平行線に至っていたとの疎明もない。
かかる状況において、X2組合及びX2組合の上部団体であるX1組合から欠員補充についての団交申入れがなされたのであるから、R社は、欠員補充を履行できる状況にあるか否かはともかく、少なくとも、組合らからの団交に応じて、欠員補充の状況等について何らかの説明をするべきであったといえるのであり、団交に応ずべき特段の事情があったといえる。 - b 以上のとおり、R社は、団交申入れに応ずべき特段の事情があるといえるところ、これに対して何ら返答もせず、団交に応じていないのであるから、かかるR社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといわざるを得ない。
- a X2組合とR社との協定書の記載からすると、R社は、少なくとも、欠員補充問題の進捗状況をX2組合に報告すべきであったといえるところ、R社がX2組合に対して報告等を行ったとの疎明はなく、また、X2組合とR社との間で、人員欠員補充についての団交が平行線に至っていたとの疎明もない。
- (ア)組合らが団交を申し入れた時点において、会社らには組合らの組合員は存在していない。
- ウ 春闘要求について
- (ア)団交申入書には、春闘要求として、賃上げ、一時金及び福利厚生資金が挙げられている。これらの議題は、その性質上、会社らに組合員が存在することが前提となるといえるところ、団交申入れ時点において、会社らには、組合らの組合員は存在していない。
そうすると、特段の事情がない限り、使用者には団交に応ずべき義務はなく、使用者が団交申入れを拒否しても、正当な理由のない団交拒否には当たらない。
この点について、組合らは、会社らにおいて、欠員補充により雇用されなければならない組合員がいる旨主張するので、会社らが、近い将来において欠員補充により組合らの組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性が存したとの特段の事情があるかについて、以下、会社ごとに検討する。 - (イ)S社について
組合らは、S社は、欠員補充の要求を履行する義務を負っている旨主張するが、前記イ(イ)のとおり、S社がX2組合に対し、欠員補充を約したとはいえない。
なお、組合らは、先行事件命令書を根拠に団交申入れに応諾する義務がある旨主張するが、前記イ(イ)dのとおり、先行事件命令書において、S社が欠員補充される組合員の使用者として認められたとはいえず、また、先行事件命令は、誓約文の交付を命じるものであったことからすると、先行事件命令書をもって、S社に団交応諾義務があるとはいえない。
以上のことからすると、S社が、近い将来において欠員補充により組合らの組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性が存したとはいえず、そうすると、S社が、春闘要求に関する団交に応ずべき特段の事情があったとはいえない。
したがって、春闘要求に関する団交申入れにS社が応じなかったことをもって、正当な理由のない団交拒否に当たるとまではいえない。 - (ウ)R社について
X2組合とR社との間の協定書の記載からすると、R社は、X2組合に対し、環境が整い次第、人員欠員補充を実行すると約しているものの、同協定書においてR社が欠員補充を実行する目途とされた日から10年以上経過し、また、その間、欠員補充について進展がない状況において、X2組合は団交申入れをしている。加えて、R社は取引先に対し、廃業する旨通知したことが認められ、これらのことを併せ考えると、同協定書が締結されていることをもって、団交申入れ時点において、R社が欠員補充によりX2組合の組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性があったとまではいえない。
以上のとおり、R社が、近い将来において欠員補充により組合らの組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性が存したとはいえず、そうすると、R社が、春闘要求に関する団交に応ずべき特段の事情があったとはいえない。
したがって、春闘要求に関する団交申入れにR社が応じなかったことをもって、正当な理由のない団交拒否に当たるとまではいえない。
- (ア)団交申入書には、春闘要求として、賃上げ、一時金及び福利厚生資金が挙げられている。これらの議題は、その性質上、会社らに組合員が存在することが前提となるといえるところ、団交申入れ時点において、会社らには、組合らの組合員は存在していない。
- ア 先行事件命令の履行について
- (3)以上のとおりであるから、団交申入れに対するS社の対応は、正当な理由のない団交拒否には当たらず、S社に対する申立ては棄却する。
一方、R社が、組合らの団交申入れのうち欠員補充に関する団交に応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
- 命令内容
- (1)R社による誓約文の交付
- (2)その他の申立ての棄却
※なお、本件命令に対して、組合ら及びR社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。