印刷

更新日:2024年5月24日

ページID:6184

ここから本文です。

9.N事件(令和元年(不)第28号事件)命令要旨

  1. 事件の概要
    本件は、組合が、総務部長の昇格人事、営業本部長が送信したメールの取消し、組合員に対する賞与支給額の根拠等について、団体交渉を申し入れたが、会社は、団交事項たり得ないなどとして、これに応じないこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
  2. 判断要旨
    • (1)組合が、(ア)総務部長の昇格問題について、(イ)営業本部長に対する要求について、(ウ)組合員に関する賞与の支給額の根拠についての説明、を協議事項とする団交を申し入れたところ、団交が開催されていないことについては争いがない。
    • (2)そこで、団交が開催されていないことについて、正当な理由があるかについて、以下、協議事項毎にみる。
      • ア 総務部長の昇格問題について
        • (ア)総務部長は、組合の組合員ではなく、総務部長の昇格問題は、管理職の人事であるとともに、非組合員の労働条件に関する事項であるといえ、当然には義務的団交事項に当たるものではない。しかし、それが将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件との関わりが強い事項については、義務的団交事項に当たると解されている。
          そこで、総務部長の昇格問題と組合員の労働条件との関連性についてみる。
        • (イ)総務部長は組合員に対する発言内容を理由に降格された経緯があるものの、降格以降、組合員に対し同様の言動を行ったとの疎明もなく、また、総務部長の昇格により、組合員の職場環境にいかなる影響を与えるかについて、組合は具体的な根拠をもって示しているとはいえず、総務部長の昇格問題について、職場環境改善、安全配慮義務の観点から協議する必要があるとする組合の主張は具体性を欠くといわざるを得ない。
          そうすると、総務部長の昇格問題に係る組合の主張は採用できず、組合員の労働条件と関連性があるとまではいえないのであるから、義務的団交事項に当たるとはいえない。
        • (ウ)以上のとおり、総務部長の昇格問題について、団交に応じなかったことに、正当な理由があるといえる。
      • イ 営業本部長に対する要求について
        • (ア)要求書には、組合の要求として、(a)営業本部長が送信したメールを取り消し、組合員を含む送信先に謝罪すること、(b)メールに添付されていた、粗利率が40%未満の受注案件リストを精査し、営業部員への指導方法を検討すること、(c)原価シートを使った見積作業の改善などを営業部全体で協議し、同シートを正確性や妥当性があるものにすること、が記載されており、要求事項に、会社の営業政策に関わる事項が含まれることは否定できない。
          しかし、要求書に記載されている要求に至る経緯や団交申入書の記載内容からすると、組合は、営業政策そのものに関して団交を申し入れているのではなく、業務命令の方法や組合員が精神的苦痛を受けたことを問題視し、これに関して団交を申し入れていることは明らかである。
          そうすると、メールの内容の是非はともかく、営業本部長に対する要求は、職場環境に関する事項であるといえ、組合員の労働条件に関する事項であり、義務的団交事項に相当するといわざるを得ない。
        • (イ)一方、会社は、メールは、組合員を狙い撃ちにするものでも、営業員として不適格者と印象づけるものでもなかったことは明らかである旨主張する。
          しかしながら、上記の主張は、団交において主張すべきであって、上記をもって、団交応諾義務が免ぜられるものではない。
        • (ウ)以上のとおりであるから、営業本部長に対する要求について、会社が団交に応じなかったことにつき、正当な理由があるとはいえない。
      • ウ 組合員に関する賞与の支給額の根拠についての説明
        • (ア)組合員に対する賞与の支給額の根拠は、組合員の労働条件に関する事項であり、義務的団交事項であることは明らかである。
        • (イ)会社は、(a)組合の真意は、賞与の件を便宜的に持ち出し、団交に応じさせた上で総務部長の昇格問題を持ち出そうとしたものにすぎない旨、(b)個々の従業員の人事考課の結果や賞与の額の決定過程等について団交の場で開示することは従業員のプライバシーの点から問題である旨主張する。
          まず、上記(a)について、団交を申し入れるに際し、相当の期間内であれば、どのような議題をどのように申し入れるかは、組合が決定すべきで、会社主張は採用できない。
          また、上記(b)を考慮しても、当該協議事項が義務的団交事項であることに変わりなく、プライバシー保護を盾に一切回答しないことまで許容されるわけではないから、上記(b)をもって、団交応諾義務が免ぜられるものではない。
        • (ウ)したがって、組合員に関する賞与の支給額の根拠の説明について、会社が団交に応じなかったことにつき、正当な理由があるとはいえない。
    • (3)以上のとおり、団交議題のうち、営業本部長に対する要求について、及び、組合員に関する賞与の支給額の根拠についての説明は、団交に応じる義務があるにもかかわらず、会社は、正当な理由なく応じておらず、会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
  3. 命令内容
    • (1)団交応諾
    • (2)誓約文の手交
      ※なお、本件命令に対して、組合及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?