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8.F事件(令和3年(不)第5号事件)命令要旨
- 事件の概要
本件は、組合が、当委員会が発出した命令に基づき団体交渉を申し入れたところ、会社が書面でこれを拒否し、また、令和2年の春闘要求について、4回の団交に応じたものの、それ以降の団交に応じなくなったことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。 - 判断要旨
- (1)会社が団交に応じなかったことに正当な理由があるかについて、項目ごとに検討する。
- ア 先行事件命令に基づく団交申入れについて
- (ア)先行事件命令が会社に団交応諾を命じていること、(イ)組合が、申入書において、この問題に関して話合いで解決することを申し入れていることからすると、本件団交申入れにいう先行事件命令に基づく団交開催の申入れの趣旨は、先行事件命令が会社に応諾を命じた団交を改めて申し入れ、当事者間での話合いでの解決を求めたものと解するのが相当である。そうすると、本件団交申入れは、当該問題を中央労働委員会の再審査手続にのみ委ねるのではなく、その間も労使間の交渉による解決の道を探るために申し入れたものとみることができる。
したがって、先行事件命令に基づく団交開催を求める本件団交申入れについて、使用者が再審査係属中であることを理由に団交に応じないことが団交拒否の正当な理由となり得ないことはいうまでもないから、会社が団交に応じなかったことに、正当な理由があるとはいえない。 - イ 2年春闘要求について
- (ア)2年春闘統一要求書14項目のうちのどれが実質的要求事項であるのか明確でないが、本件団交申入れに先立って行われた4回にわたる春闘交渉において、(a)賃金引上げ、(b)一時金及び夏季・冬季手当、(c)総合福利の3項目について交渉が行われたのであるから、実質的議題はこの3点であるということができ、これらがいずれも義務的団交事項であることは、明らかである。
- (イ)(a)第3回団交以降、C組合員の賃上げについて、会社全体の収支で考えるのか、C組合員が乗車する車両1台当たりの収支で賃金を考えるのかで双方の主張が対立する状況が続いたものとみることができ、こうした状況の下、会社は、C組合員の賃上げができない理由について、自らの主張の根拠を具体的な数字を挙げて説明し、さらに、会社全体で黒字が出たことが賃上げに直結するという判断基準はないという補足説明も行っているということができること、(b)組合は、上記説明を受けて、新たな主張や提案をすることなく、自ら交渉の終了を宣言したものということができること、からすると、2年春闘団交は、C組合員の賃上げについて、双方の主張が対立して会社が一定の対応をする中、組合は、新たな主張も提案もなさぬまま交渉の終了を宣言しているのであるから、協議を尽くした結果、議論が平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状況に至っていたものとみるのが相当である。
- (ウ)組合は、団交再開を求めるに際して、中心的議題となった賃金引上げについての新たな要求は明示しておらず、また、2年春闘団交において会社が回答するにとどまった一時金等及び総合福利という他の2つの要求事項等を改めて議題として明示してもいないのであるから、2年春闘団交を再開する必要が生じたとみることはできず、団交再開する必要が生じるなどの特段の事情があったとはいえない。
- (エ)これらのことからすると、本件団交申入れに先立つ2年春闘団交が、C組合員の賃上げについては、協議を尽くした結果、平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状況に至っていたとみられ、かつ、2年春闘団交を再開すべき特段の事情があったとはいえないのであるから、2年春闘要求に係る本件団交申入れについて、会社が団交に応じなかったことに正当な理由があるというべきである。
- (2)以上のとおりであるから、会社が、本件団交申入れのうち先行事件命令に基づく団交申入れについて団交に応じなかったことは、正当な理由がなく、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
- (1)会社が団交に応じなかったことに正当な理由があるかについて、項目ごとに検討する。
- 命令内容
誓約文の交付
※なお、本件命令に対して、組合及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。