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更新日:2024年5月24日

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3.N事件(平成30年(不)第36号事件)命令要旨

  1. 事件の概要
    本件は、(1)組合に対し、組合の運営する労働者供給事業を通じて日々雇用労働者の供給依頼を行っていた会社が、日々雇用労働者の供給の依頼を打ち切ったこと、(2)組合が、日々雇用労働者の雇入れ再開等について団体交渉を申し入れたところ、会社がこれに応じなかったことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
  2. 判断要旨
    • (1)会社が、A事業所に所属する組合員らの労働組合法上の使用者に当たるかについて
      組合の労働者供給事業における、会社からの供給依頼は、組合員の就労の端緒となるものであり、組合員の基本的な労働条件等に係る事項である。
      組合と会社との間では、契約書は締結されていないものの実質的に労働者供給契約が成立し、約27年間にわたり継続し恒常化した労働者供給の実態がある中で、A事業所を通じて供給されていた組合員(以下「労供組合員」という。)にとっても、近い将来において会社での就労の機会を得ることについて、いずれの組合員であるかは特定できないものの、集団として労働者供給契約に基づく就労への期待権が発生していたといえる。
      会社が、実質的な労働力の確保には従前と変更がない状況において、組合に対して、労供組合員の供給の申込みをしなくなったことにより、組合は、自らが運営する労働者供給事業に影響を受け、そのことについて団交も申し入れているのであるから、職業安定法により、労働組合、職員団体等に限り労働者供給事業が認められているという法の趣旨も踏まえると、本件の状況下においては、組合及び組合の構成員である労供組合員らと会社との間に、労働者供給事業の実施に関わる限りにおいて、労使関係が成立しているといえ、その範囲内において、会社は、労供組合員らの労働組合法上の使用者に当たるといえる。
    • (2)会社が、組合のA事業所に対し、日々雇用労働者の供給を依頼しなかったことについて
      • ア まず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
        個々の労供組合員に、会社に対して将来にわたり雇用継続を期待できる特段の事情があったとはいえず、また、労働者供給事業による就労は、会社のみに限定されたものではないことも踏まえると、会社が組合に対し、労供組合員の供給を依頼しなかったことにより、労供組合員が不利益を被ったとはいえない。
        したがって、その余を判断するまでもなく、会社が組合に対し、労供組合員の供給を依頼しなかったことは、組合員に対する不利益取扱いには当たらず、この点に関する申立てを棄却する。
      • イ 次に、支配介入に当たるかについてみる。
        • (ア)会社は、労働者供給の依頼先を変更した理由について、(a)組合による労働者の安定供給に対する不安がある旨、(b)会社における稼働の経験が豊富な労供組合員が他の労働組合に移籍してしまった旨主張する。
          • (a)については、会社が、A事業所の安定供給に対する不安を理由としたことは不自然であると言わざるを得ない。
          • (b)については、会社は、本来、組合が、労働者供給により供給する労供組合員の人選を行っており、会社側が特定の者を選定して常用する状況にはなかった旨を自ら主張している。そうであれば、労働者供給の依頼先変更の理由として、稼働実績の豊富な労供組合員の移籍を主張することと整合しない。
            一方、会社は、会社と同業種の協同組合の理事会において組合らとの接触及び面談の禁止の決議に同調し、日々雇用労働者の供給依頼先を変更したものといえる。
        • (イ)次に、会社は、労働者供給を依頼する法的義務を何ら負っていない旨主張するが、組合と会社との間では、実質的に労働者供給契約が成立し、恒常化した労働者供給の実態があったといえ、合理的理由なく一方的に組合との間の労働者供給契約を破棄し得るとまではいえない。
        • (ウ)以上のとおりであるから、労供組合員の供給を依頼しなかった会社の対応は、合理的理由なく、組合の運営である労働者供給事業に影響を与え、組合を弱体化させるものといえ、労働組合法第7条第3号に該当する支配介入行為である。
    • (3)団交申入れに対する会社の対応について
      組合が、労供組合員の供給依頼停止の解除等を要求事項として団交申入れを行ったのに対し、会社は応じていない。
      この点につき、会社は、会社に使用者性が認められない以上、会社に組合からの団交申入れに応じる義務はない旨主張するが、会社が、労供組合員らの使用者であると認められることは、前記判断のとおりであり、会社の主張は採用できない。
      また、上記のほかに、団交を拒否する正当な理由に係る主張はない。
      以上のとおりであるから、かかる会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
  3. 命令内容
    • (1)誓約文の交付
    • (2)その他の申立ての棄却
      ※なお、本件命令に対し、組合及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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