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更新日:2022年3月30日

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中国経済の現状について元商社マンのコメントを掲載しています!

岐路に立つ中国経済【その1】(平成23年1月17日掲載)

数年前まで、経済交流促進課に相談に来られる企業の方の80%以上は、中国のビジネスと事業に関するものであった。しかしここ1,2年で情況に大きな変化が現れた。一言でいえば、中国の影が薄くなったということである。特にこの夏以降は、事業を撤退したいが当局が受け付けてくれない、海外送金が出来ず人民元が溜まるが如何すべき、事務所を閉鎖させてくれない、など後ろ向きの事柄が多い。新規のビジネス・事業に関しては、アセアンを中心とするアジアへの興味が高まりを見せている。

中国が1978年末に改革開放路線を打ち出して30年余り、平均で9%の高度成長を続けている。成長の頂点は2007年上半期で、実に12.6%に達した。中国政府は経済過熱を懸念し、成長を8%に抑制しようとしたが、その後に行われた北京オリンピック、上海万博、世界金融危機の景気対策(4兆元)によって、依然として10%の水準で成長を続けている。
成長そのものは悪ではないが、中国の場合、成長の陰に種々の問題を置き去りにしてきたという実態がある。環境汚染、格差の拡大、三農問題(非効率な農業、貧しい農民、前近代的農村)、不均衡な人口構成と老齢化など、社会的な大問題が年々深刻さを増大させている。
この春に広東省の日系自動車部品工場で起こったストライキは、これらの問題の集大成ともいえるが、更に、ストライキを担っている80後(80年代以降に出生した人)と携帯電話が新要素として加わった。従来の単純な賃上げストライキと違って不気味で、異質な感じを受けた人が多かったようだ。

中国政府は、産業構造の優良化、外需から内需への転換、自主創造力により新しい経済成長モデルを模索している。これらの新成長モデルによれば、労賃を始め製造業コストの上昇は避けられない。中国でのものづくり、特に労働集約的な製造業への投資・事業・委託加工などは一巡した感がある。
今後の日中の協調分野は新サービス業(金融、保険、証券、広告、イベント)、研究開発、環境と省エネ、ハイテク分野(電子、バイオ、ナノ)などに移行していくだろう。また、中国の60歳以上(国際的には65歳以上が老齢基準)の人口は現在1.5億人で、2020年には2億人に達する。高齢者用施設と用品、介護技術と設備、老人教育(老人大学)などシルバーサービス分野でも、日本企業が関与できる可能性は存在している。

あるアジアの国の投資誘致関係者が「日本企業に投資環境を説明すると、必ず撤退・閉鎖・清算はできるのかと質問があります。何故でしょうねぇ」と尋ねてきた。「うからん」と小生が無言で唸ると、悪戯っぽく笑って「うちは、そんなことありません、と答えますが、皆さんなかなか信じてくれません。よほど懲りているようですね。」と言った。彼は“うち”の対極にある“相手が”どこかを良く知っているのだ。

アジア各国はFdi(海外直接投資)の取り込みで激烈な競争を演じている。かつて中国はダントツのトップランナーだったが、いまや二番手、三番手が背後に忍び寄っている。追われる立場の者は、往々にして背後の相手が見えない。
中国の貿易の60%は外資が担っており、製造業の60%は加工貿易であり、自主ブランドは少ない。これはいつでも他国に移転することが可能で、中国経済の地盤が脆いことを意味している。新成長モデルが定着するまで、中国にとってまだ暫くの間は外資、海外市場がきわめて重要で、外国企業に真摯に対応する必要があると考える。

一方、追う立場にある者は、先行者の得失を具に見て敵(相手)から学ぶ。製造分野における海外投資では、海面下の潮流はすでに変化を見せている。“己を知り、敵を知らば、百戦殆(あやう)からず”といったのは孫武(孫氏)である。戦に負けないためには、彼我の能力、情況を知ることである(情報収集能力を高める)。“驕兵必敗(きょうへいひっぱい)”は班固が著した漢書の言葉。驕り高ぶった軍は必ず敗れる。逆に言えば、情報収集・分析と謙虚さが成功に導くという事で、これが中国四千年の智恵である。

商工労働部 商工振興室 経済交流促進課
中国統括本部長

岐路に立つ中国経済【その2】(平成23年2月17日掲載)

中国リスク、パクリと開発区

海外ビジネスのリスクは国内に比べて格段に高い。しかもアジアでは発展途上国や国家体制の異なる国もあり、欧米と比べるとリスクの種類も多い。主要なリスクは法律リスク、市場リスク、為替リスク、社会リスクなどだが、更に商習慣や価値観の違い、あるいは宗教によるトラブルもある。特に、中国では一部の法律の解釈権が特定の機関に委ねられており(商務委員会、外資管理総局、税関総局など)、法律の専門家といえども対処が難しい。

海外進出に際して、国境という垣根は以前より低くなっており、奈良や和歌山などの隣県に行くような気安い感覚で実行できるようになっており、以前のような高揚感あるいは悲壮感は少なくなったようだ。

競争相手の海外進出を傍観していては、いずれ競争に敗れるという危惧はある。労働集約的な製造業では海外進出が比較的盛んで、中にはより安い労働市場を探し、世界中を転々としている会社もある。しかし、海外進出によるコスト低減メリット、あるいは競争力のアップはすべての業種・会社に共通するものではない。

台湾企業は1990年代に大挙して中国に進出した。中には生存をかけての、文字通りのベンチャーを展開したが、失敗して消滅した企業も少なくない。一方、台湾に残った企業は大きな発展チャンスには恵まれなかったが、その中には技術や製造技巧を高めることで安定を保っている企業も多いという。この10年余りをみると、中国に進出した企業よりも、台湾残留企業のほうが生存率は高かったそうだ。
一般的には汎用性の高い製品を海外に、技術コンテンツが高い特殊な製品を本国に残すのが基本戦略のようである。特に中国では知財権の侵害が深刻な問題で、技術移転や最新設備の持ち込みを躊躇する企業が多い。

あるベアリング製造会社では、従業員が密かに設備の図面をコピーし、模倣設備を造った。彼らは製造上のノウハウを学んだ上で会社を辞め、安価な競合製品を出して一時的に市場を撹乱した。しかし販路とブランド力を持たず(彼らはこれを軽視していた)、一定以上の脅威にはならなかった。

ある自動車部品会社の話では、日本製の自動車パーツは“純正部品”と称される。中国南部での売り上げが急に落ちたので調べてみると、価格が1/3の“純粋部品”が出回っていることを発見した。包装と色彩が同じで区別がつかない。辛うじて、パッケージ上の“純正”と“純粋”で見分ける事ができる(中国語では“純粋”の方が通りやすい)。日本側が販売店に文句を言うと、「寿命が1/3だから、ちょうどつりあっている。品質か価格か、どちらを選ぶかは客の勝手だよ」といった対応であった由。日本側の担当者は「偽物が現れたのは、わが社の製品が一流と認められたこと。有名税とでも考えるしかない」と諦め顔で締めくくった。

中国で山寨(サンサイ)という言葉が流行っている。山寨の本来の意味は山の砦、あるいは転化して山賊の住処だが、最近何故かパクリという意味で使われている。人知れず山奥(実際は地下工場)で悪事を働いているという雰囲気が漂って、語感もしっくりしている。水滸伝は山寨(梁山泊)を根拠地にして、政府に反抗するアウトローを主人公とした物語で、いまだに人々の喝采をうけている。山寨(パクリの意味も含め)は中国の伝統文化だと主張し、パクリを正当化するネットユーザーも多い。ちなみに、山寨という用法は中国独自の考案である。従って山寨という言葉自体は山寨(パクリ)では無く、中国のオリジナリティである。

中国投資に関して、中国の投資場所である各地の経済開発区について若干言及させていただく。
まず、中国の土地はすべて国有(全人民所有制)で、企業や個人は使用権を有するだけである。例外は、国家が無償で農民に割り当てた集団所有(農地)と国有企業に行政分与という形で与えた土地で、これらの土地は譲渡が認められていない。外国企業が使用できるのは、国家が有償で払い下げた土地で、使用目的が限定されている。何故このようなことを申し上げるかと言うと、この原則に違反した開発区で工場を建設したが、中央政府の命令で現状復帰(工場を取り壊して更地に戻す)させられた外国企業が2002年前後に多数あったからである。

中国の経済開発区は国家級、省級、准省級(省都レベルの市)、市級(県レベルの市)・県級、郷鎮級がある。2000年代の初め、全国には7,000から8,000の開発区があったが、その多くが土地の使用方法が上記の規定に反した違法開発であり、実に七割が国の命令で閉鎖させられた。

各級の開発区は規模と施設に大きな差異があり、また電気や水は国家級、省級の順に優先的に供給される。投資をお勧めできるのはせいぜい准省級までであり、市・県はもちろんのこと、さらに下の郷鎮(村レベル)の開発区への投資は避けたほうが無難である。

辺鄙な開発区は違法の可能性があり、そのような開発区にかぎって好条件を提示してくる。曰く、土地代と税金は数年間無料、行政サービスは迅速、周囲にはゴルフ場と娯楽施設の建設が予定されている・・云々。工場が完成したら、電気や水が来ない、各種の優遇措置は雲散霧消など、トラブル続出。政策や規定が急に変わった、などと言い訳するのはまだしも、“雲隠れにし夜半の月かな”ということが多い。こうなると撤退も困難を極める。最近、「またぞろ地方の開発区」なるものが増えており、2002年の事態再現を危惧している。中国への投資、ことに工場建設、投資先は慎重にチェックする必要がある。

ひと昔前になるが、電柱に張られた“気をつけよう、甘い言葉と暗い道”という標識を覚えている人も多いだろう。人間というものは、金銭的な好条件に出くわすと、つい脇が甘くなってしまう。甘言(好条件)には必ず裏があると考え、先ずは眉に唾をつけてかかったほうが賢明である。

中国では違法のものを黒という漢字で表すことが多い。黒社会(暗黒街)、黒銭(賄賂)、黒客(ハッカー)、黒市(闇市)、黒工廠(闇工場、地下工場)といった具合で、黒=闇、違法である。中国の地方に行くと中央の威令が行き渡らず、地場の基層幹部(県レベル以下の行政単位の幹部)は違法を承知で、甘言を以って人を釣る連中がいることを認識すべきである。彼らは土皇帝(土地のボス)と呼ばれているが、上記の黒(闇)を使った単語と切り離せない存在である。

中国でビジネス・事業を行う際には、特に地方に行くほど、是非この標識を思い出して欲しい。そうすれば、甘言に騙されて、暗い道(違法、撤退、閉鎖)を歩まずに済むだろう。

商工労働部 商工振興室 経済交流促進課
中国統括本部長

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