人権学習シリーズ ありのままのわたし 大切なあなた 子育てしやすい社会って?!

更新日:平成28年2月15日

資料1−2

男の涙

 「げー、きたない」と大声で怒鳴った。「なんで、こんなする」と言いながら強くたたいた。初めて強くたたいた。一歳半になったばかりの子が大声で泣いた。
 足にまとわりつく子どもをうっとうしく思いながら、台所で食器を洗っていたそのとき、当の子どもは「うんち」のついた自分のオシメを手にし、中身をこぼしていたのだ。
 僕自身意外だった。あんなに激しく怒ってしまうとは。いままで思ってもみなかった。ブレーキが効かない。以前本で読んだ「母親の育児ノイローゼ」が僕にも起こったのだ。
 妻が出張で四日間家を空けることになった。僕は大した問題もなく、この四日間をやりすごせると思っていた。だから、親の助けも求めずに頑張るつもりだった。その妻のいない二日目の出来事だった。「家事も育児も完璧に」なんて、できるはずもないのに、どこかで気負っていたようだ。
 牛乳をこぼし、トイレの前でおしっこをもらした。お母さんがいないことで子どもなりに不安もあったはず。でも僕としても家事をしながら、こんなことが続くと大変だった。そしてあんなふうに怒ってしまったのだ。
 泣き叫ぶ子どもに「ごめんね、痛かったね」と言って腕をさすってあげた。しばらく泣くと子どもはいつものように元気に遊び出した。僕には罪悪感が残った。
 やるせない。この気持ちを誰かに伝えたい。ワープロに向かい必死になって、今の気持ちをつづった。一方的でいい、相手から「こういうときはこうしたほうがいい」なんてアドバイスはいらないから。キーボードを打ちながら、涙がポロポロと流れた。
 不思議だった。文章を書き終えたころには、涙も止まり気分もスッキリしていた。
 「泣くな、我慢しろ」という社会のメッセージが、つらさを蓄積させる。「泣くこと」が、つらいときの特効薬になるというのに。
 翌日はくしくも母の日。日曜日にこのまま家にいてもつらくなるので、友人の家に子連れで押しかけた。
 男は感情表現が苦手だが、それは幼児期からそうなるように育てられるから。そう言えば自殺率って男の方が高いけど、弱音が吐けないせい? 人は親身になって話を聞いてもらえるだけで、心安らぐものである。
 僕は冗談や強がりじゃなく、自分の感じていることを話した。お陰で自分を取り戻すことができた。
 明日、妻が帰ってくる。もう少しの辛抱だ。(新)


出典:『窓をあければ〜暮らしの中のジェンダー話』糸数貴子、新垣 栄、他2人 著 ボーダーインク 1999年


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府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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