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森林が持つさまざまな働き
森林が持つさまざまな働き
大阪府では11月第2土曜日を「山の日」に制定しています
知っていますか? 森や田畑は、木材や野菜を作るだけでなく、人々の生活や命を守るためのさまざまな働きを持っています。
日本の面積は37万平方キロメートルです。そのうち、森林面積は25万平方キロメートルで、日本の面積に占める割合は67%になります。また、農地面積は5万平方キロメートルで、日本の面積に占める割合は13%になります。森林と農地をあわせて30万平方キロメートル、なんと日本の面積の8割が、緑におおわれた自然豊かな大地なのです(平成10年国土庁調べ)。それは、日本の国土が豊かな水と土に恵まれているためです。
その水や土に育まれた森や農地が、私たちの生活や命を守ってくれています。森や農地には、木材にするための木を育てたり、野菜や果物などを栽培したりする働きのほかにも、人々の生活や命を守るための色々な公益的(こうえきてき)な働きがあります。
私たち日本人は、大昔から林業や農業を行いながら、森や農地とともに暮らし、森や農地を大切に守ってきました。森や農地を守ることによって、森や農地の持っているさまざまな働きが保たれてきました。
それでは、公益的機能といわれるものには、どのようなものがあるのでしょうか。森林の持つ公益的機能のうちの主なものを紹介しましょう。
- 水を貯める
- 土が急激に流れ出るのを防ぐ
- 山が崩れるのを防ぐ
- 心を安らげる
- 生き物が生きる場所を提供する
- 空気を安全に守る
- 水をきれいにする
- 貨幣に換算すると
水を貯める働き
森の中の土には、ミミズやアリ、モグラなどの生きものがたくさんいます。土は、それらの生き物が作る小さい穴や大きな穴でスポンジのようになっています。森に降った雨は、木の葉や枝、幹を伝って地面にとどき、この穴に貯えられます。
水が小さな穴にいっぱいになると、水はさらに大きな穴に移り、徐々に地面の下のほうに移動して、地面の中に川を作り、最後には、大きな川から海に流れ出します。
森林は、大雨が降っても、いっきに流れ出さずに、徐々に時間をかけて、川や海へ流れ出るよう、また、雨が降らないときにも、貯えていた水を川に流すような働きをしているのです。何も植わっていない土地が1時間に79mmしか雨を貯えることができないのにたいし、森林は1時間に258mm、何も植わってない土地の約3.3倍の雨を貯えることができるという研究があります。
このように森林は、タンクのように水を貯める働きをしており、「緑のダム」とも呼ばれています。
この働きを「水源涵養機能(すいげんかんようきのう)」といいます。
土が急激に流れ出るのを防ぐ働き
森に降った雨は、木々の葉や枝、幹にあたり、地面に降った雨も地面に生えている草や地面に積もった落ち葉にあたり、直接土をたたくことがありません。また、地表に降った雨は、スポンジのようになった地面にしみ込み、地表を流れません。
豪雨のために水が地表を川のように流れても、木や草や落ち葉にぶつかって水の流れがゆるやかになります。さらに、木や草の根が張り巡らされてしっかりと土をつかんで、土が流れ出るのを防いでいます。
山の木が生えていない荒れた土地では、1ha(ヘクタール=10,000平方メートル)について年間307t(学校の25m×15mプールの容積の約8割)の土砂が流れ出るのにたいし、良好な森林では、1haについて年間わずか2t(同じプールの200分の1)の土砂しか流れ出ないという報告があります。
この働きを「土砂流出防止機能(どしゃりゅうしゅつぼうしきのう)」といいます
山が崩れるのを防ぐ働き
森の中には多くの木や草が生えています。その木や草の根が地面の中で四方八方に伸ばして絡み合い、土や岩をしっかりと抱いています。そのため、山の表面の土の層がすべる「地すべり」や山の急な斜面が崩れ落ちる「がけ崩れ」が起こりにくくなります。地すべりやがけ崩れが起きると、土砂や岩が道路や線路の上に覆いかぶさって車や電車を止めたり、町に流れて家を押し流したりするなどの被害が発生します。こういった被害を防ぐ働きを「土砂崩壊防止機能(どしゃほうかいぼうしきのう)」といいます。
人々の心を安らげる働き
森は、木だけでなく川や湖、鳥などの生物などと組み合わさって、四季折々に美しい姿を見せてくれます。美しい景色をみて顔をしかめる人はいないでしょう。美しい景色を見ると、人は自然に心が和やかになり、ホッとします。
このような美しい景色を作る働きを「景観形成機能(けいかんけいせいきのう)」といいます。
森の中に入るとさわやかな空気でいっぱいです。これは、木々が炭酸ガスを吸って酸素を出しているためですが、それ以上に「森の香り」に秘密があります。それは、木々の中にフィットンチッドと呼ばれる物質を出しているものがあるからです。この物資は、植物が自分自身を守るために作り出すもので、悪臭を消したり空気をきれいにする効果やカビやダニなどを殺す効果がありますが、人の自律神経(じりつしんけい)を安定させたり、快適に眠れるリフレッシュ効果も持っています。森の中を歩くと気持ちがよくなるのは、その効果があるのと、森林自体が人を引き付ける美しい景色を持っているためです。森の中を歩いてきれいな空気に浸ることを森林浴といいます。森林は、ハイキングやバードウォッチングなどをして、仕事や勉強の疲れを癒し、あしたからの活動への力となるための休養と娯楽の場(レクリエーションの場)ともなっています。
この働きを「保健休養機能(ほけんきゅうようきのう)」といいます。
大阪府には9つの「大阪府民の森」があります。森林浴の場としてぜひ利用してください。
鳥や虫などの生き物が生きる場所を提供する働き
森の中には多くの種類のたくさんの動物が生きています。チョウやガの幼虫、ミミズ、アリ、カブトムシ、クモ、ウサギ、タヌキ、シカ、ウグイス、ヘビ・・・。皆さんはどんな生きものを想像しますか。日本学術会議によると、日本の森林には、鳥は約200種、昆虫は約2万種が生息しているといわれています。
森は、小さな木や大きな木、草などで成り立っています。これらが強い日光をさえぎったり、雨や風を防いだり、木の実や葉を提供して、生きものが生きることのできる環境を提供しているのです。
この働きを「野生鳥獣保護機能(やせいちょうじゅうほごきのう)」といいます。
空気を安全に守る働き
木などの植物は光合成を行い、二酸化炭素を吸収して幹や葉に炭素として貯え、そのかわりに酸素を出して、空気を安全に守る働きをしています。
この働きを「大気保全機能(たいきほぜんきのう)」といいます。日本の森林は、年間約7千万トンの酸素を吐き出し、年間約1億トンの二酸化炭素を吸収するというデータがあります。年間の二酸化炭素の吸収量は、日本の国民が2年間にわたって呼吸する量に相当します。
二酸化炭素は地球から出て行く熱を逃がさない性質を持っているため、空気中の二酸化炭素が増えすぎると、地球全体が温室のようになって温度が上がります。これを地球温暖化といいます。木は二酸化炭素を吸収し、枯れて分解されるか燃えるまで二酸化炭素を木の内部に固定します。だから、木が枯れる前に木材にして家などに使用し、木を刈った跡に新たに木を植えると、二酸化炭素の減少につながり、地球温暖化の防止になるのです。
また、葉は蒸発散作用ということを行い、葉から水分が蒸発しています。水分が蒸発するときに周囲から熱を吸収し、周りの空気を冷やします。これは、液体が気体になるときに一定の熱量(気化熱)を必要とし、その気化熱がまわりの熱を奪うためにまわりの温度が低くなるのです。大阪府が平成14年7月から9月にかけて行った調査によると、都市の中心部の公園では、住宅地や商業地、幹線道路沿いに比べて、約3度から5度も気温が低いという結果がでました。これは、公園に木が多いということも原因の一つといえるでしょう。都市に緑を増やすことは、人間が活動することによって気温が上がる都市のヒートアイランド現象を防止し、地球温暖化の防止に貢献することになります。
この働きを「気候緩和機能(きこうかんわきのう)」といいます。
水をきれいにする働き
森の中の土には、たくさんの小さなすき間があいています。このすき間にはカビやバクテリアなどの微生物がたくさんすんでいて、雨水に含まれるほこりやゴミなどを分解します。
また、土の中にあるイオンが窒素(ちっそ)やアンモニア、リンなどのイオンと結びついてこれらの物質を取り除きます。そのため、森の中の土を通った水はろ過され、きれいになって流れていきます。森は「自然の浄水器」の役目を果たしているのです。
この働きを「水質浄化機能(すいしつじょうかきのう)」といいます。
森林の有する公益的機能の貨幣評価
森林の有する公益的機能をお金に置き換えるとどれくらいになるのでしょうか。
林野庁が発行している平成13年度の林業白書によると次のようになっています。
項目(機能) | 評価額(年間) |
---|---|
二酸化炭素吸収 | 1兆2,391億円 |
化石燃料代替 | 2,261億円 |
表面侵食防止 | 28兆2,565億円 |
表面崩壊防止 | 8兆4,421億円 |
洪水緩和 | 6兆4,686億円 |
水資源貯留 | 8兆7,407億円 |
水質浄化 | 14兆6,361億円 |
保健・レクリエーション | 2兆2,546億円 |
- この数字は、日本全体の1年間の数字です。
- 項目によって評価する方法が異なっていることと、評価されている機能が公益的機能の一部であることから、合計額が記載されていません。
- この数字は一応の目安と考えてください。