大阪府人権保育基本方針

更新日:2022年3月31日

大阪府人権保育基本方針(平成14年2月制定 令和4年3月改訂) 

1.子どもの人権をめぐる状況

(1) 国内外の子どもを取り巻く人権尊重の潮流

 子どもを保護の対象としてだけでなく、権利の主体として尊重し、子どもの最善の利益や意見表明権の保障などの内容を中心とする「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が平成2年(1990年)に発効し、わが国は平成6年(1994年)に批准した。また、同年の第49回国連総会は、あらゆる人権問題の解決に向けて教育や啓発を推進し、人権という普遍的文化の創造を目指す「人権教育のための国連10年」を決議し、これを受けてわが国では、平成9年(1997年)7月に「『人権教育のための国連10年』に関する国内行動計画」が策定された。さらに、平成12年(2000年)12月には、国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにすることなどを目的とした「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が施行されたところである。
 その後20年の間に、人権をめぐる状況は変化し、平成28年(2016年)には、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、「部落差別の解消の推進に関する法律」、いわゆる人権3法及び「大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例」が施行され、また、令和元年(2019年)には、「大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例」、「大阪府人種又は民族を理由とする不当な差別的言動の解消の推進に関する条例」が施行された。
 保育の分野に目を向ければ、平成2年(1990年)の保育所保育指針の改訂において、人間尊重の精神を涵養する趣旨として、「人権を大切にする心を育てる保育」が保育の目標に掲げられ、また、平成9年(1997年)4月にはこれをさらに推進するための5項目の留意点が厚生省通知により示された。
 さらに、平成12年(2000年)4月に施行された改訂「保育所保育指針」では、総則の冒頭に「乳幼児の最善の利益を考慮」することが加えられるとともに、それを具体化するために保育の方法として、「子どもの人権に十分配慮するとともに、文化の違いを認め、互いに尊重する心を育てるようにすること」などが加えられた。 
 その後、平成20年(2008年)、平成29年(2017年)の改訂を経て、人権尊重に立脚した保育の質の向上へとつながる取組が着実に進められてきた。  

(2) 大阪府における保育分野のこれまでの取り組み

 大阪府においては、「人権教育のための国連10年大阪府行動計画」を平成9年(1997年)3月に策定するとともに、平成10年(1998年)11月には、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」を施行し、すべての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を図ることとしている。
 平成13年(2001年)3月には同条例に基づき人権施策を総合的に推進するために必要な事項を定めた「大阪府人権施策推進基本方針」を策定するとともに、「人権教育のための国連10年」のより一層の普及・浸透と、最終年(平成16年:2004年)までの目標である「人権という普遍的文化の確立」に向けて「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」を策定したところである。
 令和3年(2021年)には、人権をめぐる状況の変化を踏まえ、「大阪府人権施策推進基本方針」が改正され、新しい基本指針に基づき、人権施策の推進に取り組んでいくこととしている。 
 また、「すべての子どもたちの成長を支え、権利を尊重する社会づくり」等をめざし、平成7年(1995年)9月に「大阪府子ども総合ビジョン」を策定し、子ども施策を推進してきた。
 その後累次に渡る子どもに関する総合計画を策定し、令和2年(2020年)3月に策定した「大阪府子ども総合計画」のもと、次代を担う子ども、青少年がひとりの人間として尊重され、創造性に富み、豊かな夢をはぐくむことができる大阪をめざし取組を進めている。
 保育の分野においては、四半世紀以上にわたって実践が行われてきた同和保育が、乳幼児期から違いを認め共に生きる障がい児保育・多文化共生保育への広がりと、人権を尊重する保育としての確かな足跡を残してきたところであるが、子どもをめぐる新たな情勢の変化や同和地区の乳幼児と家庭の現状を踏まえ、人権尊重を基本とした同和行政における保育施策の基本理念と推進方向を定めた「大阪府同和行政保育推進プラン」を平成9年(1997年)3月に策定した。
 また、平成10年(1998年)2月には「大阪府保育推進計画」を策定し、「一人ひとりの子どもの個性が尊重され、豊かな人間性が育まれ、自己実現できる保育の実践が求められており、今後はすべての保育所で人権保育を積極的に推進すること」をうたうとともに、平成11年(1999年)3月、府内保育所・幼稚園で行われている人権を大切にする心を育てる保育・教育の実践例を紹介した冊子「就学前における人権保育・教育事例集」を作成し、活用を図っている。
 さらに、平成11年(1999年)6月、幼児期からの心の教育と人権を大切にする心を育てる保育の推進及び家庭や地域の子育て機能の低下を踏まえた子育て支援の充実を図る観点から、大阪府、大阪市、堺市が中心となって「大阪保育子育て人権情報研究センター」を設立し、研修、研究、情報発信等の充実を図ってきた。「大阪保育子育て人権情報研究センター」が、平成21年(2009年)4月よりNPO法人化され、引き続き大阪府及び市町村と連携しながら、保育所等の保育関係機関に関わる者の資質向上のための研修や調査研究を行っている。
  

(3) 人権保育の必要性

 子どもは、みな生まれた時には限りない可能性を有している。ところが成長時の環境が大きな要因となり、より大きな可能性を広げていくようになったり、逆に伸びる芽が摘まれてしまったりする。差別・偏見など個人の責任ではない社会がつくり出した状況によって夢を奪われている子どもたちの姿も数多くみられる。
 また、いじめ、虐待や体罰、不登校や中退、非行の低年齢化さらには小学校の低学年からのいわゆる「小1プロブレム(学級未形成)」と呼ばれる現象やヤングケアラーなど、子どもたちをめぐる社会問題がクローズアップされている。
 これらの現象の背景には、少子化の進行や都市化の進展による家庭・地域の子育て機能の低下など、様々な要因があるといわれており、また、子どもの生活自体についても、少子化の進行等により子ども同士で遊ぶ機会が減少し、遊びの中で育まれていた社会性、想像力、創造力、感性などが育ちにくくなっているなど、「子育て・子育ち」の現状は深刻な状況に立ち至っている。
 乳幼児期は、乳幼児が生涯にわたる人間形成の基礎を培う極めて大切な時期である。この時期に一人ひとりの人格や個性が尊重され、豊かな人間性が育まれることはその後の成長にとって極めて重要であり、子どもが1日の生活時間の大半を過ごす保育所等において人権尊重の意識と行動の基礎を培う人権保育のなお一層の充実が求められている。
 本基本方針は、こうした認識に立って、大阪府のすべての保育所等において人権保育を推進するための基本的な考え方を示すものである。    

2.人権保育の基本理念

  「大阪府人権施策推進基本方針」は、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」のめざす人権尊重の社会を実現するため、『一人ひとりがかけがえのない存在として尊重される差別のない社会の実現』、『誰もが個性や能力をいかして自己実現を図ることのできる豊かな人権文化の創造』を基本理念として掲げ、府のすべての行政分野においてこの基本理念を踏まえ、総合的な施策の推進に努めることとしている。
 また、「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」においては、『あらゆる人々が、あらゆる機会・場において実施される人権教育を通じて、人権尊重の精神を当然のこととして身につけ、日常生活において実践し、人権という普遍的文化の創造をめざすこと』を基本理念として掲げられている。
 これらの理念を保育の分野で具体化するため、人権保育の基本理念をここに掲げる。

(1) 一人ひとりがかけがえのない存在としてお互いの人権を尊重し合うことができる子どもを育てる。

 人はみな限りない可能性を持って生まれ、その能力や個性は一人ひとりの人格が尊重される関係の中でこそ伸びやかに発揮される。したがって、一人ひとりがお互いを尊重する気持ちを持てるような、いじめや差別を生まない、いじめや差別を許さない人間関係づくりに努めることが重要である。
 また、幼少期から生命の尊さや人間として基本的に守らなければならないルールに気づかせることにより、豊かな情操や思いやりを育み、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざすとともに、一人ひとりが自分の権利のみならず、他人の権利についても深く理解し、権利の行使に伴う責任を自覚することができる人間の育成をめざすことが重要である。
 子どもは、大人に愛され、信頼されることによって、自尊感情を持ち、ひいては人を愛し信頼していく心の根幹を育んでいくとともに、保育者の適切な援助によって、遊びや生活の経験を通して関係をさらに広げ、自主性、自立性、社会性などの芽生えを身につけていく。こうした「人権を大切にする心を育てる」保育の実践を積み重ねていくことが重要であり、ひいては、豊かな人権感覚を持った人権文化創造の担い手を育て、人権が尊重される社会の実現につながる。  

(2) 子どものエンパワメントを支援し、自らの個性や能力をみがき自己実現できる子どもを育てる。

   子どもたちが未来への夢や目標を抱き、創造的で活力に満ちた豊かな社会づくりの担い手として育っていくよう、子どもたちの「生きる力」(自分で課題を見つけ、自ら学び自ら考える力、正義感や倫理観等の豊かな人間性、健康や体力)を育むことが必要である。     
 特に、乳幼児期においては、「保育所保育指針」で掲げられている「生きる喜び」やその基底となる「困難な状況への対処する力」、例えば、困難なことに出会ったときに負けないで行動できる力や自分の持つ能力を積極的に伸ばしていこうという気持ちを育むことが重要である。
 子どもは人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、自主性、協調性など人間関係の基礎を形成していき、成長する過程において、大人に受入れられ、認め、励まされることを通して自信を持ち、意欲を持てるようになってくる。保育者は、子どもの自主的な行動を受容、促進しつつ、人と協調しながら活動することの喜びと満足感を味あわせることにより、子どもが自らの個性や能力をみがき、自己実現を図れるようそのエンパワメントを支援していくことが重要である。

 ※エンパワメント:内面化された抑圧を乗り越え、内なる力を発揮し、自分らしさを表現できるようになる過程。変革の主体となる力をつけること。 

3.人権保育推進のための基本方向

(1) 基本的視点

 前述した基本理念を踏まえ、保育所等において人権保育を推進していくために保育者が立つべき視点を以下に示す。

 (一) 子どもの最善の利益を考慮し、子どもが権利の主体として尊重される保育

 保育においては、子どもを自己の権利を行使する価値ある人格主体として理解し、一人ひとりについて、人としての尊厳(生命・人格の尊重)を重んじて関わることが重要である。そのため、保護者の生活、価値観、地域の状況など生活環境を十分理解し、尊重した上で保育を進めることが大切であり、子ども一人ひとりの状況に応じた保育を行うことが必要である。
 また、すべての子どもたちが性別、国籍、障がいの有無、生まれた環境にかかわらず、個人の能力を十分に発揮できる環境の中で保育されることに配慮するとともに、ノーマライゼーションの理念に基づき、支援を要する子どもが自分らしく主体的に生きる力を高めることができるよう必要な地域のサービスに結びつけるという視点を持つことが必要である。
 さらに、保育者の態度や感性が、子どもの成長に大きく影響することを十分認識し、子どもの心身に有害な影響を与える行為は禁止されることは当然のこととして、保育者としての誇りを持ち、保育者自身の持てる力をより一層発揮することが必要であり、そのため、保育者の人権意識と保育技術の一層の向上を図ることが必要である。

(二) 保護者に対する子育て支援、地域における子育て支援

 保育は、保護者の協力のもとに実施されることが基本であるが、社会環境が変化する中で、子育てに関する不安感・負担感や子育ての孤立化などから、虐待や放任等不適切な養育が行われている事例や一人で問題をかかえ込み、悩みを抱えて援助を必要としている保護者がみられる。保育所等には入所児童の保護者とともに歩もうとする姿勢が求められ、保護者のエンパワメントを支援するという視点が重要である。
 また、保育所等は、子育ての知識、経験、技術を蓄積している地域社会と極めて密接な関係を有する施設である。入所児童の保護者だけでなく、地域の子育て家庭の保護者に対しても保育所等は子育てのパートナーとして積極的に相談・助言等の活動を行い、保護者が子育てについて自ら気づき、行動できるよう支援することが大切である。
 地域の子育て力が低下している中で子どもたちが、健康、安全で情緒の安定した生活ができる環境を整え、その健やかな発達を図るため、保育所等は、地域社会の関係機関と連携しながら、地域の子育て家庭を支援する拠点としての役割を積極的に担っていくという視点から人権保育の推進を図っていくことが求められる。  

(2) 基本方向

 人権保育を推進するための、大阪府の取組の基本方向は、以下のとおりである。その実施にあたっては、保育の実施主体である市町村や就学前教育・保育に関わる関係諸機関とそれぞれの役割を分担しつつ一層の連携の強化を図るとともに、大阪府や市町村をはじめ、就学前教育・保育に関わるNPO法人など関係諸機関の研修・研究機能等を適切に活用していく。

(一) 人権保育推進のための研究の充実

 子どものおかれている実態を踏まえ、市町村や就学前教育・保育に関わるNPO法人など関係諸機関と連携し、専門家の協力などにより、人権保育カリキュラムや教材の開発を進める。

(二) 人権保育にかかる情報収集・提供機能の充実

 保育所等、市町村、保護者等人権保育に関わる情報を必要とするものに対し、人権保育についての知識・手法や講師・教材、あるいは活動事例等についての情報が適切に提供できるよう、人権保育に関する情報の収集・提供機能の充実を図る。

(三) 保育所職員等に対する研修・保護者等に対する啓発の充実と人権保育推進のための指導者の養成

 保育所職員等を対象とした研修を計画的に推進し、保育内容や保育所等の子育て相談機能の充実を図るとともに、保護者の人権意識の高揚を図り、また、人権保育を指導していくための様々なレベルの指導者の養成を図る。

(四) 地域における保育所等、家庭、幼稚園、学校、NPO法人等の連携の強化・充実

 保育所等と家庭、幼稚園、学校等地域の関係機関との連携を深めるとともに、NPO法人や子育てサークル、ボランティア組織等による地域の子育て支援活動を積極的に評価して取り組みを進める。

このページの作成所属
福祉部 子ども家庭局子育て支援課 認定こども園・保育グループ

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