大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第243号)

更新日:2015年3月31日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第243号)

〔 宗教法人規則認証申請書類等部分公開決定異議申立事案 〕

(答申日 平成27年3月31日) 


第一 審査会の結論

   大阪府知事(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立てに係る部分公開決定において非公開とした部分の うち、印鑑証明書、役員の印鑑証明書、役員の身分証明書、役員の登記されていないことの証明書及び宗教団体規約(団体名を除いた部分)の文書名は公開すべきである。

     実施機関のその余の判断は妥当である。

 

第二 異議申立ての経過

1 平成26年6月2日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例 (以下「条例」という。)第6条第1項の規定により、「貴庁が受理された宗教法人設立の規則認証申請書および添付書類にして、平成25年12月31日以前から最も認証決定年月日が近いもの 一式」についての情報公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年6月5日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書(以下「本件行政文書」という。) にA宗教法人(以下「当該宗教法人」という。)に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者に意見提出の機会を付与するため、当該宗教法人に対して「意見書の提出依頼書」を送付した。併せて、異議申立人に対して、条例第14条第2項の規定により決定期間延長通知書を送付した。

3 同年6月11日、当該宗教法人から実施機関に対し、次のとおり、本件行政文書の一部について公開に反対する旨の「公開請求に係る意見書」が提出された。

(1)公開に反対する部分

       信者名簿を含む全ての個人名、人物が写っている写真、議事録、預金残高及び教会会計関係

(2)公開に反対する理由

    歴史にあるようにクリスチャンであるという理由から、不利益等を受ける可能性がある等

4 同年6月26日、実施機関は、本件請求に対して、条例第13条第1項の規定により、(1)の本件行政文書を特定の上、対象行政文書のうち下記(2)に掲げる部分を除いた部分を公開することとする部分公開決定(以下「本件決定」という。)をし、下記(3)のとおり公開しない理由を付して、異議申立人に通知した。

 (1)本件行政文書

 宗教法人設立の規則認証申請書および添付書類にして、平成25年12月31日以前から最も認証決定年月日が近いもの 一式(平成25年11月14日付け宗教法人規則認証申請 一式)

 (2)公開しないことと決定した部分

  宗教団体代表者の印影、責任役員氏名、宗教団体創始年月日、創始場所、創始者氏名、変遷、教師数、信者数、宗教団体名、信者代表氏名・印影、境内地明細(但し、すでに公にされている部分を除く)、境内建物明細(但し、すでに公にされている部分を除く)、境内建物間取図、請求書、領収書、境内地境内建物の取得に関する書類(但し、すでに公にされている部分を除く)、印鑑証明書、教師名簿の資格・氏名・住所、教会員名簿の作成年度・整理番号・氏名・住所、活動実績の年度・内容、宗教団体規約、財産目録の日付・区分・種別・数量・金額・備考、決算書の年度・期間・科目・金額・備考、公告証明書の参考公告部分、確認者の住所・氏名・印影、宗教団体代表者の住所、責任役員の住所・印影、役員の印鑑証明書、役員の身分証明書、役員の登記されていないことの証明書、誓約書の責任役員就任予定者の氏名・印影、設立決議録の開催日時・開催場所・議題・議事の経過・署名人氏名・署名人印影・出席者名簿の出席者数・出席者氏名(代表者を除く)、説明書内容、参考資料の参考記載部分、境内建物内部写真、個人の肖像

(3)公開しない理由

ア 条例第8条第1項第1号に該当する。

 本件行政文書(非公開部分)には、宗教法人の財産及び運営の内情に関する情報が記録されており、これらを公開することにより当該宗教法人の活動の自立性を損なうなど、当該 宗教法人の正当な利益を害すると認められる。

イ 条例第9条第1号に該当する。

  本件行政文書(非公開部分)には、宗教法人責任役員及び信者の氏名、住所、生年月日等が記録されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

5 同年7月17日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対して、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

 

三 異議申立ての趣旨

 異議申立に係る処分を取消し、公開するとの決定を求める。

 

第四 異議申立人の主張要旨

 異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

 

1 異議申立書における主張

 実施機関が本件行政文書の一部を公開しないと決定した処分は、条例第8条第1項第1号及び第9条第1号の解釈適用を誤ったものである。

 

2 反論書における主張

(1)弁明の趣旨について

  「実施機関の決定は妥当」ではないと思料するので、争う。

(2)本件経過について

  意見書の提出中、実施機関に対し、平成26年6月11日付で、第三者より公開に反対する旨の「公開請求に係る意見書」が提出されたことについては、不知。

  その余については、事実に相違ないので認める。

(3)弁明の理由について

  ア 導入の宗教法人法及び条例の解説については認める。

  イ 不開示とすべき理由については、争う。

 a 弁明の理由では、「宗教法人から提出された書類に記載された情報のうち、不開示とした情報については、宗教行為に関する情報が含まれており、公にすることにより当該宗教    法人が自由な活動を行う権利を害するおそれがある」ことを理由とするが、憲法が保障する表現の自由の一環とする知る権利を具体化した条例においては、不開示情報に当たらなければ、原則公開しなければならず、そして、公開の可否については、民主主義の理念により、厳格な基準により判断すべきであって、単に可能性があるにすぎない場合や行政の恣意的判断・拡大解釈は、条例の前文及び第1条(目的)の立法趣旨を没却するものである。

  すなわち、開示については、最大限の配慮を要するものであって、たとえ、書類の一部に不開示情報が含まれていたとしても、文書のタイトルや一般名詞、都道府県市区町村までの地名などについては明らかにすべきであって、逆に、書類の全部分の黒塗りが横行したとすれば、行政機関による公開情報の操作が可能となり、極めて不当である。

  本件公開情報については、上記のように、本来開示すべき書類乃至情報についても不開示にされているように思われるため、上記の趣旨に照らし合わせ、できるだけの開示を求めるものである。

 b 宗教法人については、信教の自由に基づき自由な活動が最大限保護されるべきであり、その保護は法人にも及ぶことは認める。

   しかしながら、公開請求者にも憲法が保障する表現の自由および信教の自由があり、公開の程度と範囲は公共の福祉によって調整がされなければならない。

  すなわち、宗教団体はより布教を広げるために法人化して存在を宣伝しているのであって、自然人と比して情報の秘匿性は決して高くなく、そして宗教法人の財務状況や宗教活動の詳細も、自然人にとっては本意とせぬ宗教に足を踏み入れて後悔する事態を回避するための必要不可欠な要素であるため、そもそも宗教法人の公開すべき情報であると思料する。存否情報についても同様である。

  以上のとおり実施機関は、条例第8条第1項第1号及び同条例第9条第1号の解釈適用を誤ったというべきで、不当であり、本件決定は取消しされなければならず、自然人が特定できる情報及び印影等を除いては部分ないし全部公開すべきであると主張する。

 

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 弁明書における主張

(1)宗教法人から提出された書類等の取扱いについて

  宗教法人を設立しようとする場合には、手続きに必要な書類を添えて所轄庁へ申請し、認証を受けなければならない(宗教法人法(以下「法」という。)第12条及び第13条)。

   実施機関は、宗教法人から提出された書類を通じて、当該宗教法人の情報を把握し、手続き終了後は行政文書として管理する。行政文書について情報開示を求められた場合は、条例に基づき、原則、公開すべきものであるが、行政文書に国、地方公共団体及び請求者以外の第三者の情報が記録されている場合は、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者の意見を事前に聴取し勘案したうえで、公開・非公開の判断を行わなければならない。また、条例第8条第1項第1号により、第三者の権利を害すると認められる情報は公開しないことができるものであり、また、個人のプライバシーに関する情報であって、一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報については、条例第9条第1号の規定により公開してはならないとされている。

  これらをふまえ、以下の理由により、行政文書に含まれる宗教法人の情報については、登記事項等の公知の事項を除き、不開示とすべきである。

  宗教法人から提出された書類に記載された情報のうち、不開示とした情報については、宗教行為に関する情報が含まれており、公にすることにより当該宗教法人が自由な活動を行う権利を害するおそれがある。

  宗教法人については、憲法第20条で保障する宗教法人の「信教の自由」に基づき、宗教法人の自由な活動が最大限保護されるべきであり、単に公益法人であるというだけで他の公益法人と同様に扱うべきではない。「信教の自由」の内容には、信仰の自由・宗教上の行為の自由・宗教上の結社の自由が含まれる。本件決定により不開示とした部分には、宗教法人の財務状況、宗教活動の詳細など、宗教法人の活動に密接にかかわる情報が記載されており、これら非公知の部分について一般に公開すると、宗教法人の態様に対する誹謗・中傷、不当な圧力など、自由な宗教活動が阻害され、また、宗教法人の自律的な運営への干渉など、当該宗教法人及び関係者の信教の自由を害されるなどの不利益が生じることが危惧される。

  一方、宗教法人の認証事務は法定受託事務であるため、国からも平成14年7月4日付け各都道府県宗教法人事務担当課宛文化庁文化部宗務課事務連絡「宗教法人に関する行政文書の開示請求について」において、宗教法人から提出された書類について開示請求がなされた場合の取扱いが示されている。認証事務についても、宗教法人から提出された認証申請書、添付書類の取扱いが記載されており、各都道府県も宗教法人から提出された書類の取扱いにあたってはこれを参考としている。

  また、平成16年2月19日15庁文第340号各都道府県知事宛て文化庁次長通知「宗教法人法に係る都道府県の法定受託事務に係る処理基準について」では、法第25条第4項の 規定に基づき宗教法人から所轄庁に提出された、宗教法人事務所備付け書類の写しの取扱いについても、公知の事項を除いて不開示と示されており、宗教法人の財産、財務状況の開示については上記と同様の考え方が示されている。本件行政文書の非公開部分には、宗教法人の財産及び宗教行為等の運営に関する情報が含まれており、これを公にすることは宗教法人の権利その他正当な利益を害するおそれがあることから、当該部分については条例第8条第1項第1号の規定により非公開とする。

  また、特定の個人が識別される情報については、これを公にすることにより、個人の信仰、出身、住所等、個人のプライバシーが明らかにされることになり、信教の自由に基づく自由な宗教活動の妨げとなるおそれがある。もっとも、これらは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であり、前記の事務連絡及び通知にかかわらず、条例第9条第1号の規定により非公開とする。

(2)本件決定について

  以上のとおり、本件請求の対象である行政文書は、条例第8条第1項第1号及び条例第9条第1号の規定により非公開とされる第三者の情報が含まれているため、条例第13条第1項の規定に基づき、本件決定を行ったものであり、適法なものである。

 

2 再弁明書における主張

(1)信教の自由について

  「信教の自由」は、大きく二つに分けて考えられる。

   一つは、「宗教的自由の保障」と呼ばれるもので、これは、具体的には、信仰の自由、宗教実践の自由(信仰告白の自由、宗教的儀式の自由、宗教結社の自由)、布教の自由など、信仰に基づく活動の自由をいう。

  もう一つは、「政教分離」として、行政の宗教活動への干渉・関与を禁じるものである。行政と宗教活動を明確に区分し、特定の宗教に対する財政援助の禁止、国・地方公共団体およびその機関は宗教上の組織ないし団体の行事その他の事項に関与してはならないこと、国有財産を宗教目的のために使用してはならないことをその内容とする。

  また、国会において、憲法第20条が保障する信教の自由の内容として、一般に、「信仰の自由」、「宗教上の行為の自由」、「宗教上の結社の自由」が含まれるとし、「信仰の自由」とは何らかの宗教を信仰し、または信仰しない自由、「宗教上の行為の自由」とは、その信仰に基づいて礼拝、祈祷など何らかの宗教的な行事を行うことや祝典、儀式、行事などの行為に参加する自由、「宗教上の結社の自由」とは信仰を同じくする者が宗教団体を結成し活動することの自由、宗教団体に加入する自由であり、その中には宗教団体としての意思形成の自由も含まれると答弁している(平成7年10月12日衆議院予算委員会・内閣法制局長官)。

 (2)「宗教法人の利益が害される(信教の自由が害される)おそれ」について

    団体の沿革、教義の内容、教勢、宗教教師、儀式行事の内容等の団体の宗教上の事項そのものを説明したもの、団体の組織、根本方針、運営方法等を示すもの、団体の事務所の内部の写真、使用状況、団体の主たる事務所の建物及びその敷地に関する取得理由を示すもの、団体内部の意思形成の過程を示すものに記載された情報は、宗教団体に関する情報であって、いつ、どのような方法で、どの程度公開するかが当該団体の宗教活動及び自律的な運営において重大な意義を有する情報である。また、これらの情報は、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているものではない。

  また、憲法第20条の定める信教の自由には、宗教上の行為の自由及び宗教的結社の自由が含まれると解されるが、宗教団体が公権力その他の第三者による干渉を受けることなく自律的に運営を行い宗教活動する自由は、信教の自由の一内容として最大の尊重が必要とされる。上記の情報が当該団体の自律的判断によることなく第三者に対して公開されることは、それ自体が干渉の一種ということができ、当該団体の信教の自由を害するおそれがあるといえる。

  例えば東京地裁平成16年2月6日判決(控訴期間の経過により確定)において、団体における意思形成の過程について、「事後的にせよ、当該団体の自律的判断によることなく第三者に公開されることは、それ自体が公開する者及び当該第三者による干渉の一種ということができる」とされているが、意思形成の過程に限らず、宗教団体に関する情報であって、いつ、どのような方法で、どの程度公開するかが当該団体の宗教活動及び自律的な運営において重大な意義を有する情報全般についても、当然ながら、これと同様に考えるべきである。

  事務所の内部の写真については、通常関係者以外が目にすることはないと考えられる内部情報であり、これを公にすると、公開すること自体が当該団体の自律的な運営への干渉となることはもちろん、当該団体の防犯体制や書類の管理体制等に支障が生じるおそれもあり、この点からも、当該団体の権利その他正当な利益を害するおそれがあるといえる。

  事務所の建物及びその敷地に関する取得理由を示すものについては、団体の主たる事務所の建物及びその敷地を正当な権限に基づいて使用していることを証するために提出された、所有者と団体が締結した契約の具体的な内容を示す文書であるが、これを公にすると、公開すること自体が当該団体の自律的な運営への干渉となるだけでなく、内容の当否等をめぐっていわれのない批判にさらされたり、団体の経済状況が推測されるおそれもあり、この点からも、当該団体の権利その他正当な利益を害するおそれがあるといえる。

   団体の財産目録については、法第25条第4項により宗教法人から所轄庁に提出される書類(財産目録を含む。)については、国会において、行政機関の保有する情報の公開に関する法律案が審議された際に、「非公知の事実につきましては、これが一般に知られるところとなりますと、当該宗教法人の管理運営に何らかかわりを有しない第三者によりまして、当該宗教法人の宗教活動の態様に対する誹謗中傷でありますとか、あるいは宗教法人の自律的な運営に干渉するための材料と使われるというおそれがございます。したがいまして、この結果、当該宗教法人及びその関係者の信教の自由、特に宗教上の結社の自由が害されるおそれがあると考えております。」と答弁するとともに(平成10年5月15日衆議院内閣委員会・文化庁文化部宗務課長)、各都道府県においても統一的な取扱いがなされるよう、地方自治法第245条の9第1項に基づく処理基準において「登記事項等の公知の事項を除き、原則として不開示の取扱いとすること」と明示しており(平成16年2月19日付け各都道府県知事宛て文化庁次長通知「宗教法人法に係る都道府県の法定受託事務に係る処理基準について(通知)」)、また、広島高裁松江支部平成18年10月11日判決(最高裁平成19年2月22日第一小法廷決定により確定)においては、この通知を根拠として、法第25条第4項により宗教法人から所轄庁に提出された書類(財産目録を含む。)について鳥取県知事の行った開示決定が、不開示とすべきであったとして取り消されている。認証申請書に添付された財産目録についても、これと取扱いを異にする理由はなく、公にすると団体の信教の自由を害するおそれがあり、不開示とすべきものであるといえる。

  そのほか、法第25条第3項においても、宗教法人の書類の閲覧を請求できる対象者として「閲覧することについて正当な権利があり、かつ、その閲覧の請求が不当な目的によるものではない信者その他の利害関係人」としており、文化庁の宗教法人向けの資料でも、「宗教法人と継続的な関係を有し、宗教法人の財産基盤の維持形成に貢献している寺院における檀徒や神社における氏子など」、「宗教法人の管理運営上の一定の地位が規則等で認められている総代など」、「宗教法人と継続的な雇用関係にあり、一定の宗教上の地位が認められている宗教教師」、「債権者」、「保証人」、「包括・被包括関係にある宗教団体など」を具体例として説明している。これは言いかえれば、法人の運営に関わりのない第三者が法人の財産等の内部情報を得て不当な目的に利用することを防ぐためのものであるともいえる。

  また、宗教法人の名称を含む規則は、内部の手続きのみで作成・変更できるものではなく、所轄庁の認証という行為があってはじめて有効となるものである。

  一方、宗教団体が宗教法人になる前の規則及び名称については、認証を伴うものではない。宗教法人の規則は、所轄庁がその責務を果たすため、個人情報等の配慮が必要な情報を除いて外部に示す可能性も想定されるが、一般に、宗教団体として使用していた規約は外部に公にする義務はなく、団体運営に何ら関与しない第三者に公にすることによって運営の態様への批判、誹謗などの干渉を受けるなど、法人の自由な活動を害するおそれがあると考えられる。

  以上のとおり、本件請求の対象である行政文書は、条例第8条第1項第1号及び第9条第1号の規定により非公開とされる第三者の情報が含まれているため、条例第13条第1項の規定により本件決定を行ったものであり、何ら違法又は不当な点はなく適法かつ妥当なものである。

 

第六 審査会の判断

1 条例の基本的な考え方について

  行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

    このように「知る権利」を保障するという理念のもとにあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

    このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

  本件行政文書の非公開部分について、実施機関は条例第8条第1項第1号及び第9条第1号の規定に該当すると主張することから、以下において検討する。

(1)条例第8条第1項第1号について

  事業者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため公開しないことができる。

     本号は、

 ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)、その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、

 イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの

に該当する情報については、公開しないことができる旨定めている。「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業者に対する名誉侵害、社会的風評の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうものである。

(2)条例第8条第1項第1号該当性について

  本件行政文書は、法第12条及び第13条により、当該宗教法人から所轄庁である実施機関に提出されたものであり、当該宗教法人に関する情報が記載されていることから(1)アに該当する。次に(1)イの該当性について検討する。

 ア 非公開とされた情報のうち、宗教団体創始年月日、創始場所、創始者氏名、変遷、教師数、信者数、宗教団体名、境内地明細(但し、すでに公にされている部分を除く)、境内建物明細(但し、すでに公にされている部分を除く)、境内地境内建物の取得に関する書類(但し、すでに公にされている部分を除く)、印鑑証明書、教師名簿の資格、教会員名簿の作成年度・整理番号、活動実績の年度・内容、公告証明書の参考公告部分、説明書内容及び参考資料の参考記載部分は、当該宗教法人の前身の団体の情報である。

 また、宗教団体規約、財産目録の日付・区分・種別・数量・金額・備考、決算書の年度・期間・科目・金額・備考、設立決議録の開催日時・場所・議題・議事の経過及び出席者名簿の出席者数については、法第25条第3項で、宗教法人の事務所に備える書類とされており、この書類の閲覧請求権者を「閲覧することについて正当な権利があり、かつ、その閲覧の請求が不当な目的によるものでない信者その他の利害関係人」と限定している。同条第5項では所轄庁が宗教法人から提出された書類を取り扱う場合は、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならないとされている。

このようにこれらの情報は広く公開することを予定していないものであり、公開することにより、当該宗教法人の宗教活動の態様に対する誹謗中傷、宗教法人の自律的な運営に干渉するための材料に使われるなどのおそれがあり、ひいては憲法第20条で保障されている信教の自由が損なわれるおそれが否定できないため、当該法人の正当な利益を害するとの実施機関の主張は理解することができる。よって、これらの情報は(1)イに該当し、非公開とすることが妥当である。

 イ 境内建物間取図及び建物内部写真は、通常、関係者以外が見ることはないと考えられる当該宗教法人の財産の内容を示す内部情報であり、これらを公にすると当該宗教法人への自律的な運営への干渉となると認められることから、(1)イに該当し、非公開とすることが妥当である。

 ウ 請求書及び領収書は当該宗教法人の取引先の情報が記載されており、これらは当該宗教法人の運営に関する情報であって、公にすることにより、当該宗教法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、(1)イに該当し、非公開とすることが妥当である。

(3)条例第9条第1号について

 条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

 本号はこのような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

 同号は、

 ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

 イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

 ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

  情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨定めている。

(4)条例第9条第1号該当性について

  実施機関が本号に該当するものとして非公開としている情報は、宗教団体代表者の印影、責任役員の氏名、信者代表氏名・印影、教師名簿の氏名・住所、教会員名簿の氏名・住所、確認者の住所・氏名・印影、宗教団体代表者の住所、責任役員の住所・印影、役員の印鑑証明書、役員の身分証明書、役員の登記されていないことの証明書、誓約書の責任役員就任予定者の氏名・印影、署名人氏名・印影、出席者名簿の出席者氏名(代表者を除く)及び個人の肖像である。

    ア このうち、責任役員の氏名、信者代表氏名、教師名簿の氏名・住所、教会員名簿の氏名・住所、確認者の住所・氏名、宗教団体代表者の住所、責任役員の住所、誓約書の責任役員就任予定者の氏名、署名人氏名、出席者名簿の出席者氏名(代表者を除く)及び個人の肖像は、特定の個人の特定の宗教への信仰に関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、(1)イに該当し、非公開とすることが妥当である。

  イ 宗教団体代表者・信者代表者・確認者・責任役員・誓約書の責任役員就任予定者・署名人の印影は、個人が特定される情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であるため、(3)イに該当し、非公開とすることが妥当である。

    ウ 役員の印鑑証明書、役員の身分証明書、役員の登記されていないことの証明書には、個人の氏名・生年月日・住所・登録印影・本籍が記載されており、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であるため、(3)イに該当し、非公開とすることが妥当である。

(5)全部が黒塗りとされた文書の文書名について

 異議申立人は、「開示については、最大限配慮を要するものであって、たとえ、書類の一部に不開示情報が含まれていたとしても、文書のタイトルや一般名詞、都道府県市町村までの地名などについては明らかにすべきである。」と主張している。

 一般に、請求の対象となった文書から非公開部分を除いた部分に有意な情報がない場合、当該文書を非公開決定とすることは不適法とは言えない。

 実施機関に本件決定にかかる公開の実施方法について確認したところ、異議申立人が郵送を希望していたことから、本件行政文書の写しを郵送し、その際、決定通知書に公開しないことと決定した部分を列挙したものの、ページ数をつけておらず、特段の説明もしていないということであった。

 そのため、全部黒塗りとなっている本件行政文書の写しと公開しないことと決定した部分との突合が難しく、本来公開すべき情報についても非公開にされているように思われるという異議申立人の主張は一定の理解はできる。

 よって、本件行政文書において全部非公開としている、印鑑証明書、役員の印鑑証明書、役員の身分証明書、役員の登記されていないことの証明書及び宗教団体規約(団体名を除いた部分)については、文書名を公開すべきである。

 領収書及び請求書は文書名を公開することにより、取引先が明らかになるおそれがあることから全部非公開が妥当である。

 

4 結 論

 以上のとおりであるから、本件異議申立ては、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 (主に調査審議を行った委員の氏名)
   北村和生、小原正敏、尾形健、近藤亜矢子

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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