連載コラム「大阪のだし」  第9回 (平成24年12月27日)

更新日:平成25年3月26日

「道頓堀と うどんの文化を守り続ける」          お話いただいた方 : 今井 徹 さん     

                              

 大阪ミナミの中心に位置する道頓堀は、「食い倒れ」の街として有名だ。しかし、そもそもは、日本のエンターテイメントの中心として栄えてきた街である。江戸時代には、道頓堀五座と呼ばれた劇場が建ち並び、歌舞伎や人形浄瑠璃が盛んに演じられていた。その後は、映画館や寄席も加わった。現在、道頓堀には、「松竹座」と小さな劇場が残るだけになってしまったが、近くには文楽劇場やなんば花月もあり、400年以上にわたって、大阪の人々に、エンターテイメントと「食い道楽」の楽しみを提供し続けている。
 
 この道頓堀で、「大阪のだし文化」の代表的な食べ物である「大阪のうどん」の老舗として知られているのが、「道頓堀今井」だ。そのルーツは、江戸時代の芝居茶屋に始まるという。
 
 「大阪うどんは「だし」が命ですが、そのだしをはじめ、変わらぬ大阪の味を守ることが、今、本当に難しくなってきてます。」と話すのは、社長の今井徹さん。
 
 天然昆布に対しては、特に危機感が強いと言う。
 
 「北海道の天然昆布がなくなったら、うちは、今のだしの味を出せません。」
 
 「道頓堀 今井」では、一年中、かけだし、丼地、ザルだし、吸い物だし、おでんだしと、5種類ものだしを、それぞれの方法で別々にとっている。夏場はさらに、冷やしにうめんだし、冷やしそうめんだしの2種類のだしもとる。
 
 これらのだしをとるのに、昆布は欠かせない。本店では、「かけだし」用のだしだけで、一日5kgの天然真昆布を使うという。
 
 「北海道を飛び回って、天然のええ真昆布を探してます。天然もんと、養殖もんでは、そりゃもう、全くうまみが違うんですわ。養殖もんでは、しっかりしただしがとれず、鰹節と合わせたときに、鰹節に完全に負けてしまって、バランスがとれません。だからといって、倍の量を使っても、やっぱり天然ものと同じ味にはならへんのですわ。」
 
 そんなにもうまみの強い天然もんだが、北海道では、この天然昆布をとる漁師さんがどんどん減ってきているのだという。
 
 「天然昆布の収穫は大変な仕事らしいです。それに最近は、天然もんの昆布にこだわる人が限られてきてて、苦労して天然もん獲って、干して、出荷しても、そんなに高い値ぇがつかへんのですよ。そやったら、岩肌に生える昆布を危ない目して刈り取るより、ロープひきあげたらええだけの養殖もんを育てたほうが楽や、となりますねん。」
 
 「私は別に、『天然』にこだわってるわけやないですよ。美味しかったらええだけなんで、だから、誰か、はよう美味しい養殖もんを作ってくれへんか、思いますわ。」
 
 確保に苦労するのは昆布だけではない。きつねうどんに入れる油あげも、同じ味を守っていくのは大変だ。
 
 「あげは手揚げやないとあきません。外側はパリッとした狐色になってなあかんし、その外の部分と中の白い部分の量的なバランスがほんま微妙なんです。ああでもない、こうでもないとお願いして、イメージどおりのあげにしてもらうのが大変なんですわ。」
 
 以前に取引していた豆腐屋さんが、急な事情でお店を畳んでしまったときに、随分難儀して、今、取引している豆腐屋さんを見つけられたのだそうである。
                                                                                                                                                                                                                                  
 さて、ここで、「道頓堀 今井」で使っている「かけだし」のだしのとり方をお教えいただいたのでご紹介する。
 
 「道頓堀 今井」では、同じ濃さのだしをとるために、少なめの水でだしをとり、最後に水を加えて一定の量にする、というやり方をしている。
例えば、1ℓのだしをとりたい場合、700ccほどの水に昆布を入れる。そのまますぐに、30分くらいかかって沸騰するくらいの弱火で温め、80度あたりで10分ほど煮出してから、昆布を引き上げる。ここに、さば節とウルメ節を1対2の割合で加え、くらくらと煮てから、濾す。そして、最後に水を加え1Lの量に調整する。
 
 「だしのうまさは誰にでもわかりますよ。で、うまいだしを飲むようになると、口のどこかがそれを求めるようになってきますね。ほんま、無性にだしが飲みたくなります。うちのスタッフは、毎日、昼飯はうどんなんですが、だあれも文句言わへん。私も店にいたときはいっつもうどんでした。たまには他のもん食べよかとも思わない。不思議ですよね。」
 
 今井さんは、道頓堀商店会会長として、浪速文化の復興や、観光客のために明るく安心・清潔な街づくりを進めている。
 
 「道頓堀には、おかげさんで、毎日たくさんの観光客が来てくれはりますけど、果たして、来はったお客さんに、感動を与えられてるのやろか、大阪によいイメージを持って帰ってもらえてるのやろか、すごく気になります。道頓堀やミナミに何度もリピートしてもらえるように、まずは街をきれいにしてかなあかん。そして、「どや、これが大阪の味やで!サービスやで!品質やで!」と言えるようなものを提供していかんと。」
 
 歴史ある道頓堀で、伝統ある「大阪の味」を守る老舗うどん屋の心意気である。
 
             
                   
                      
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今井 徹 さんのプロフィール

今井徹社長      
 
今井 徹(いまい とおる) 
  
株式会社 今井 代表取締役
   
歴史ある道頓堀に本店を構える「道頓堀 今井」は、昭和21年創業。「“だし”の今井」として知られる同店は、道頓堀本店のほかに市内のホテル・百貨店に8軒の支店を持つ。ホームページでは各店舗のおすすめメニューのほかに季節ごとの「定番ギフト」なども紹介。
    
道頓堀 今井のホームページ
http://www.d-imai.com/
  
   
今井のきつねうどん
有名な「きつねうどん」。「カツオだし」で甘辛く炊き上げられた「おあげさん」は、油抜きに1時間、炊くのに2時間かかるという。写真提供:道頓堀 今井
   
 
   
真昆布でだしをとる
40分ほどかけて、北海道産の天然真昆布からじっくり、うまみを引き出す。写真提供:道頓堀 今井
  
 
サバ節とうるめぶしでだしをとる
細かめに削ったサバ節、ウルメ節を使う。この量で、30人前のだしを作る。写真提供:道頓堀 今井
  
   
                  文:日下部 貴美子  写真:山田 泰常


  
  
  
  
  
  

  

このページの作成所属
府民文化部 都市魅力創造局魅力づくり推進課 魅力推進・ミュージアムグループ

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