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更新日:2014年4月28日

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人権学習シリーズ ぶつかる力 ひきあう力 さまざまな立場 みんな当事者

さまざまな立場 みんな当事者

ねらい

対立が起こったとき、どのように対処するかが重要です。暴力的手段に訴えるのではなく、平和的手段を活用することが大切です。では、どのようにすれば平和的な解決が図れるでしょうか。対立(問題)が起こったときに突然そういった能力が発揮されるというよりは、日常の中で、恒常的にトレーニングしておく必要がありそうです。

このプログラムでは、対立を普段からどのように扱うべきか、その態度を養成します。そのために、私たち一人ひとりが対立の当事者であるということを理解・実感したいものです。他者の問題に出くわしたときも、「他人ごと」として自分から切り離すのではなく、[「自分の問題」の延長線上のこと]として取り組めるように考えてみましょう。そして、実際に問題をどう整理し、当事者間の意見や思いを生かす形でどう問題解決していくことができるかを学びましょう。

プログラムの流れ

当事者」とは誰をさすのでしょうか

実際の対立を通して、その関係者を一人ひとり見ることによって、対立の当事者とは誰をさすのか理解を深めます。
アクティビティ:私はどんな立場?

創造的な解決方法を考えましょう

問題の表面的解決を図ること、特に今起こっている暴力を防止することは重要です。しかし、もっと深いところにある問題の根っこに対処することがより重要です。
アクティビティ:平和的手段と創造性
〔準備するもの〕
ワークシート「いじめの関係図」(グループ数*A3に拡大する)
のり付きふせん(7~8cm 1グループ100枚程度)
ホワイトボードと専用ペン(黒板も可)

アクティビティの進め方

私はどんな立場?(30~35分)

  1. 学校でいじめが起こったとしましょう。その対立の構造において、どういう関係が成立しているでしょうか。
    ワークシート「いじめの関係図」を配る
    グループ(4~5人)ごとに、次の人たちがどのようにいじめに関与しているのか、していないのか、考えてみましょう。そして、その関係をワークシートに記入しましょう。ふせんを使ってもらってもかまいません。
    *話し合いの様子をみて、下の図 関係性の例を参考にするなどして話し合いを促進させていく
    いじめられている子
    いじめている子1・子2
    クラスの子(1・2・3・・・)
    担任の教員
    いじめられている子の家族
    いじめている子の家族
    校長先生など他の教員
    教育委員会
    その他(マスコミ、など)
    例
    【時間があれば、また対象によっては、以下の内容でやってみましょう】
    家庭内の対立が起こったとしましょう。誰が家事(今晩の料理、あと片づけなど)をするかについて、以下の家族構成での対立について考えてみましょう。
    祖父 祖母 父親 母親
    第1子(男) 第2子(男) 第3子(女)
  2. 10~12分後に問いかける
    それぞれのグループでは、どんな話し合いがもたれましたか。分かち合ってみましょう。
    出てきた意見をもとにして、関係図を板書していく
  3. こういったいじめの構図には、次のような立場の関係性が考えられます。
    ホワイトボードに、以下を書き出す
    <被害者、加害者、傍観者、支援者、同調者、仲裁者>
    さて、関係図のうち、これらの人たちは、どのような立場の人たちでしょうか。皆さん考えてみてください。
    (この場での使い方 支援者:被害者を支援する人 同調者:加害者に同調する人)
  4. どんな立場の関係性か、いくつかのグループから発表してみてください。
    グループから発表してもらう
  5. 5~6分後に問いかけ
    次に、考えてみたいのは、「当事者」とは誰を指すのだろうか、ということです。このいじめの問題(あるいは、家庭内の対立)において、誰が、この問題(対立)の「当事者」だと思いますか。
  6. 今度は、自分自身が暴力の加害者になる可能性、被害者になる可能性について考えてみましょう。また、傍観者、支援者、同調者、仲裁者などの可能性についても考えてみましょう。皆さんが、それぞれの立場になっていると仮定したとき、どんな発言をしているでしょうか。どんな行動を取っているでしょうか。自由に話し合ってみましょう。あとで、それぞれのグループに報告してもらいます。
    *時間が許せば、グループの話し合いを報告してもらう方がよいです

平和的手段と創造性(25~40分)

  1. 先ほどの学校でのいじめ(あるいは、家庭内での対立)についてもう少し考えましょう。それぞれのグループで、この問題への取り組み方法を考えてみましょう。
  2. 解決方法を考えるヒントとして、以下のような観点があります。
    もともと「当事者」として設定されていなかったけれども、ひょっとしたら実際には当事者になる可能性のある人は漏れていませんか。関係者すべてを洗いなおしてみましょう。「その他」にあたる当事者はいませんか。グループで話し合ってください。
    5分程度時間をとる
  3. 次に、当事者一人ひとりの具体的な状況について考えてみましょう。
    実際の各自の置かれた状況を設定してみて、想像してみましょう。そして、この対立の状況を変革するために、各自が少しずつできることについて考えてみましょう。これは、「一歩前進」のアプローチです。グループで話し合ってください。
    10分程度時間をとる
  4. もっと深く解決方法を考えてみましょう。対立を平和的に解決しようとする場合、特に創造性(クリエイティビティ)が必要になります。(今考えた解決方法よりも)もっとクリエイティブな方法を探し出してみましょう。もっと平和的、創造的な解決方法がないでしょうか。つまり、「根本的な解決」アプローチをつくりだしましょう。思い切った突拍子もない案でもかまいません。各自が置かれた具体的状況に、何かヒントは隠されていないでしょうか。例えば、「いじめられている子VSいじめている子1・2」という対立の構図ではなく、構図を広げて考えてみましょう。
    当事者一人ひとりを、問題の中に引き込んで、皆さん自身もその1人になってみましょう。皆さんなら、どのように関わりますか。そのとき、どのような創造的な解決策を求めますか。グループで話し合ってください。
    10分程度時間をとる
  5. さあ、グループで話し合ったことを報告していきましょう。
    必要であれば、ここで、以下の「ファシリテーターのために」を参考に、参加者に問いかけてみる
    *解説資料「トランセンド(超越)法とは」も参考にするとよいでしょう

ファシリテーターのために

このプログラムは、参加者自身が、「対立」が発生したときには、多かれ少なかれその問題に関係するすべての人が「関わっている」ことを認識するためのものです。ただ、そのことを最初に言ってしまうと、「最初に答えありき」になって、参加者にとっては新たな発見につながる可能性が薄まってしまうので、出された意見を尊重しながら、じっくりと熟成するのを待ちましょう。

解決方法を探すとき、まずは、その表面に見えている条件や状況の中で模索することになるでしょう。そして次に、当事者というのはそこに直接的・間接的に関わっている人すべてをさすのだ、ということが分かったとき、その人たち一人ひとりを含めた関係性が見えてきます。より広く見えてきた構図の中で、再度解決方法を考えてみるのはとても大事です。そうすることで、最初に考えもつかなかった解決方法が浮かんできます。どうぞ、気楽に、楽しんでワークを進めてみてください。問題解決の「特効薬」はありません。絶対的な答えはないのです。オモシロイ意見が飛び出したら、「あ、それ、オモシロイね!」と発言者を励まし、「そこにヒントはないかしら?」と問いかけてみてください。「こんなことを言ったら恥ずかしい」と思わせないような雰囲気作りがとても大切です。

思い切ったアイデアを歓迎しましょう。「それ、興味深いですね」とか、「それ、思いつきませんでしたね」とか、議論をさらに活発化させる言葉をかけましょう。ファシリテーターが一方的に意見を押しつけるのは、参加者の議論を不自由にしますから気をつけないといけません。しかし、議論が暴力を肯定するような流れになったときは、踏みとどまって考えてもらうような工夫が必要です。ただし、「その解決策は、暴力的手段を使ってはいませんか」などと、考えをさらに促進させる言葉をかけましょう。また、「いじめられている方にもいじめられる理由がある」という意見が出た場合、「それで、いじめの根本的な問題は解消できますか?」とさらに思考を促進するような言葉をかけましょう。

解説資料

トランセンド(超越法)とは

「平和学」という学問の一分野に、「紛争解決」とか、「紛争マネジメント」、「紛争転換」という分野があります。ここでいう「紛争」とは、英語のコンフリクト(conflict)を指し、状況によって「対立」や「葛藤」、「揉め事」、「諍い」など、いろいろな言葉に翻訳されます。

「紛争」・「対立」を解決するためには、いろいろな方法がありますが、ここではそのうちの1つ、「トランセンド(超越)法」を紹介しましょう。

この手法は、ノルウェー出身のヨハン・ガルトゥング氏が、自らの体験をもとに編み出した理論で、紛争当事者全員の対立の妥協点を調整するのではなく、表面的な事象から飛躍して、新しい創造的な解決法を探し出すというものです。
この理論によれば、「紛争」・「対立」を考えるにあたって、3つの要素があるとされます。すなわち、

  • (1)紛争には、当事者が必ず2者以上いる。そして、紛争の当事者の周囲には、往々にして利害関係を持った関係者が存在する場合が多い。
  • (2)まず、それぞれの当事者が達成しようとしているゴール(目標)を明らかにすることが必要。
  • (3)(それぞれの)当事者のゴールを付き合わせてみると、必ず対立や矛盾が生じている。

ということを指します。
このような対立が個人レベルのみならず、国家レベルで起こった場合、時として暴力による解決(=戦争)にさえ発展します。こうした暴力的方法による紛争解決ではなく、非暴力的・平和的方法による状況の転換を図るうえで、「トランセンド法」は非常に有効な手法なのです。

従来の紛争解決理論では、紛争・対立の当事者は2者に限られていて、対立した状況をちょうど綱引きのように見立て、紅組・白組の両者がお互い自分に有利となるよう引っ張り合っている状態から妥協点を見出そうとしました。

かし、トランセンドやその他の紛争解決法では、そういう見方をとらず、当事者は2者以上だと考え、解決方法(あるいは状況の転換方法といったほうがふさわしいかもしれません)を複数考えるのです。

の図を見てください。複数の方法を考えるにあたって、頭を整理する道具です。まず最初に、複数いる当事者のうち、主な当事者2者(A・B)を取り上げて考えます。便宜上、Aの目標達成度を横軸に、Bのそれを縦軸にあらわし、そして、その両軸からなるグラフの表面に5つの解決法の効果の程度をあらわす位置を図で示しています。

二元軸の図

グラフ上の効果点
1………Aの目標だけが達成されている状態
2………Bの目標だけが達成されている状態
3………対立したまま放置されている、または第三者の手にゆだねた結果、A・Bともに目標がまったく実現できなくなってしまった状態、あるいは冷却するための状態
4………両者の目標が半分ずつ実現され、妥協が図られた状態
5………A・B双方の目標を乗り越えた新たな創造的解決が図られた状態《超越点》

記1~5の解決法を評価してみましょう。
第1または第2の場合、一方の目標だけが達成され、もう一方の目標はまったく達成されていないわけですから、一方は満足しても、もう一方には不満が残り、その結果相手への憎しみが増幅されるだけで、おすすめできません。また、第3の手法では、両者ともに目標が未達成ですから、双方とも不満が高まり、問題解決になりません。(ただし、両者の対立が相当ヒートアップしている状況の際、これをクールダウンさせる時間を確保するというような場合には、重要な役目を果たすこともよくあります。)

第4の手法は、従来、よく見られるもので、両者の目標をそれぞれ半分ずつ実現する、いわゆる妥協とか折衷とよばれる解決法です。対立をまさに綱引きと同じように考えるもので、これも双方に不満が残り、次の紛争の火種が残る場合があります。

そして、第5の解決法を用いた場合の着地点に注目して下さい。この地点をトランセンド法では『超越点』と呼び、(理想的な)解決点(あるいは転換点)であるとします。それは、2者の目標を乗り越えた新たな創造的な解決法となっているからであり、このような解決法を生み出すためには、紛争当事者間だけでは難しい場合もあります。

このようなときには、調停役・仲介者の導入が必要になってきます。超越法による紛争解決では、調停役が、まず対立する当事者一人ひとりと(あるいは1グループごとに)対話を行います。対話は、各当事者と1対1で行われ、いきなり対立者同士を同じテーブルにつかせることはありません。対話では、その当事者がどのような目標をもっているかを聴き出します。その際、相手の気持ちを理解し、心をともにする、すなわち「共感」することが大切です。(ただし、「共感」は、自分も相手と同じ意見になり肩をもつこと、すなわち「同情」ではありません。)また、超越法では、特に周りから非難されている「悪者(加害者)」側の目標や考えを聴き出すことにも重点をおいています。

対話の中では、さきほど述べた5つの地点をいつも頭に浮かべることが大切です。対話をおこなうことにより、双方が納得する解決点を探りあてていくのです。紛争・対立の敵対状況を転換・変形して、徐々に、当事者自身も意識していなかったような目標(「よく考えてみたら、本当は、私の望んでいたのは、○○じゃなくて、△△だった!」というような)を一緒に見つけ、最終的には、当事者同士が一致協力できるような新たな目標に向かうようにするのです。

紛争転換において、次に大切な図式は、ABCの三角形です。

紛争の構図

上記のA(態度)は、偏見や怒り・恐れ・憎しみ等の感情など当事者の心の内面をあらわします。B(行動)は、当事者の行いであり、衝突や脅しなど暴力的な行動と、そうでない行動があります。C(矛盾・対立)は、目標の不一致から生ずる衝突や対立です。目標がぶつかっている状態(C)が、ゆがんだこころのあり方(A)や暴力などの行動(B)を土台として生まれるのです。したがって、一見イデオロギーの対立が本質的に見えるような場合でも、その背後にある、つまり、目標の不一致による対立(C)という原点に立ち返って、その土台である態度(A)と行動(B)をよく吟味して、紛争に対処する必要があります。
紛争転換のための超越法で重視するのは、A(態度)における「共感」、B(行動)における「非暴力」、C(矛盾)における「創造性」の3つです。

紛争転換のためのトレーニングは、仲介者として紛争当事者や当事国と対話することのできる人材を養成するためのものです。事実、国際レベルの紛争調停のために、外交官や国連職員、国際NGOの人々などが、実際に紛争を調停する役割を担うためのトレーニングを受けています。

しかし、調停者の知識と技能は、紛争転換の仲介をするためだけのものではありません。自分自身が紛争に巻き込まれたり、当事者になったりしたときにも役立つ方法なのです。人間は自分自身と対話することができる動物です。また、対立する相手方の目標を理解し、共感することも、訓練によって上達するでしょう。

コラム

ペルーとエクアドル問題

20世紀中、エクアドルとペルーの間に3度の戦争を引き起こした500平方キロの地帯における国境をめぐる紛争(対立)に関して、全く境界線を引かずに、その地域を『「自然公園という2国間ゾーン」に変えることによって解決しよう』という提案は、最初、まったく相手にされませんでした。「創造的すぎる(考えだ)」というのです。「国境線というものは、当然引かねばならないものだ」という考えに固執し、54年間にわたり、数限りない交渉を繰り返しながら、延期と撤退が重ねられ、ついには軍事的手段が試みられました。領土を分割し、新しい国境線を引くことも提案されましたが、結局うまくいきませんでした。

ところが「創造的すぎた」提案がなされた3年後の1998年の秋、突然エクアドルは「自然公園を備えた2国間ゾーン」を提案し、これがエクアドルとペルー間の平和条約の内容となったのでした。たった3年で実現することになった「創造的すぎる提案」。21世紀の今も、その「転換された」空間は地域の人々の交流の場、経済の場として発展し続けています。
参考文献:
手軽に理解できる窓口:

*トランセンド(平和的手段による紛争の転換)研究会ホ-ムページ
http://www.transcendjapan.org/
*『ガルトゥング平和学入門』
ヨハン・ガルトゥング+藤田明史他、法律文化社、2003年(とくに、第2章「トランセンド法入門」)

もう少し深く知りたい人に:
*『あの人と和解する―仲直りの心理学』
井上孝代、集英社、2005年
*『平和を創る発想術:紛争から和解へ』
京都YWCAほ-ぽのぽの会、岩波書店(岩波ブックレットNo.603)
*『ガルトゥングの平和理論-グローバル化と平和創造』
ヨハン・ガルトゥング著、法律文化社、2006年
*『平和的手段による紛争の転換』
ガルトゥング、平和文化(国連紛争解決マニュアル本)
*『トランセンド研究-平和的手段による紛争の転換』
(トランセンド研究会により編集・発刊・発行)

解説資料「トランセンド(超越)法とは」/トランセンド(超越)法とは(PDF:491KB)

ワークシート「いじめの関係図」/いじめの関係図(PDF:450KB)

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