樹木が防災上有効であるためには、その「耐火力」(燃え難さ)により火熱に耐え、焼失することなく、樹木としての形状が維持されること、そしてその結果、樹木が遮蔽物となって「遮熱力」(熱の通り難さ)が発揮されることが必須の要件です。
樹木は熱を受けると葉中の水分を蒸気として放出し(気化熱への変換)、葉の温度上昇を防ぎます。また、重なり合った葉は樹冠への熱の浸透を防ぐとともに、その複雑な形状はラジエータのように熱の放射に役立ちます。
樹木が熱に耐え、焼失することなく、その形状を維持した場合は、樹木が「壁」となって、その背後への熱の浸透を遮断します。ただし、コンクリートや板の壁と違い、葉の密度や枝下部分の空隙などにより、その力は割り引かれます。
<引用文献>公益社団法人日本火災学会(2018):火災便覧第4版 560から569ページ 共立出版株式会社
樹種別の防火力の解明は途上ですが、樹種別の特徴を生かしながら防火力の発揮を期待する公園緑地等の植栽計画イメージは、下図が考えられます。このイメージは熱源からの距離に応じ、4区域を設定して植栽をプランニングするものであり、樹木の密度が高いほど各域の安全性は高まります。
接炎危険域 | 輻射受熱危険域 | 口火危険域 | 樹木安全域 | |
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距離範囲 | ・火炎が到達しうる一定の距離範囲 | ・輻射熱(放射熱)だけで樹葉が発火する距離範囲 | ・飛び火(火の粉)等の口火が輻射熱に加わると発火する危険のある距離範囲 | ・樹木は発火しないと考えられる距離範囲 |
適する樹種の特性 | ・口火引火時間が長い | ・可燃性ガスの発生が少ないか穏やか | ・口火引火時間が長い ・含水率の保持時間が長い | ・形状変化率が低い |
適する樹種の例 | アジサイ、イチイ、キョウチクトウ、クロガネモチ、コウヤマキ、サンゴジュ、ネズミモチ、マサキ、モッコク、ヤツデなど | アオキ、アジサイ、アズマネザサ、イチョウ、サンゴジュ、シラカシ、スダジイ、マダケ、マテバシイ、ヤブツバキなど | アカマツ、アジサイ、アスナロ、イチイ、イヌマキ、エゴノキ、カヤ、クロマツ、サザンカ、センダン、ネズミモチ、ヒイラギ、マサキ、モッコク、ユズリハなど | アキニレ、カナメモチ、キンモクセイ、チャノキ、トウカエデ、マテバシイ、ムクノキほか針葉樹を含めた全樹種 |
<出典>岩崎哲也(2012):都市の樹木433.株式会社文一総合出版
<引用文献>岩崎哲也(2005):樹木の防火力の評価及び防災緑地計画への提案 ランドスケープ研究68-3 229から234ページ 公益社団法人日本造園学会
公益社団法人日本火災学会(2018):火災便覧第4版 560から569ページ 共立出版株式会社
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大阪都市計画局 計画推進室計画調整課 グランドデザイン推進グループ
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