今日は旦さんの56歳の誕生日。昼間から一杯呑めるということで、お酒の相手に喜ぃさんが呼ばれた。
さっそく、ちょっといいお酒を喜ぃさんにすすめると、初めて口にした喜ぃさんは大げさなほどの褒めよう。
そんな喜ぃさんに、旦さんも嬉しそうにありあわせのおつまみをすすめる。
まずはお刺身の鯛。これまた初めての喜ぃさんは、鯛の触感に舌鼓を打ちながらご満悦の様子。
旦さんの奥さんがこしらえた上品な茶碗蒸しの中には、シイタケ、百合根、海老、あなご、ぎんなんなどがぎっしり。
どれもこれもひと口ごとに感動しながら味わう喜ぃさんを見て、旦さんもますます嬉しくなる。
それに引き換え、裏に住む竹という男は、何を振舞っても喜ぃさんのように「旨い、美味しい」と言わない。
そのくせ、しょっちゅうお昼のご飯どきに旦さんの家に来ては、文句を言いながらもてんこ盛り食べて帰る。
珍しい ものでも決して知らないとは言わず知ったかぶりばかりするので、旦さんは竹が憎たらしくてたまらない。
・・・・・そんな話をしていると、台所で何やら騒いでいる。
どうやら、十日ほど前に旦さんが半分食べ残した豆腐を水屋に置き忘れ、腐ってしまったらしい。
黄色く小さくなって、赤青緑のカビが生えた、とてつもなく臭い豆腐。それを見ながら、旦さんがあることを思いつく。
「これを珍味と偽って、竹に食べさせたろやないか!」
するとそこに、いつものように竹がやってきた。
相変わらず、卓に並んだお酒やおつまみにケチをつけながらもたいらげていく竹に、旦さんが腐った豆腐を差し出し、 訊ねる。
「『長崎名産ちりとてちん』、知ってるかえ?」
案の定、知ったかぶりはおろか嘘まで並べ、さも大好物であるかのようなことまで言う始末。
どうやって食べるのか 訊ねられた竹は、あまりの臭いに嗚咽し涙を流しながらも、必死で美味しいふりをしながらなんとか食べて見せた。
そんな竹に、旦さんがどんな味か訊ねると・・・・・
「豆腐の腐ったよぉな味でんねん。オェからからから! 」
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健康医療部 生活衛生室食の安全推進課 食品安全グループ
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