必見!食中毒予防対策を考える

更新日:2011年1月11日

食中毒事例から学ぶ

事例2

<探知>

大阪府内の保健所に、管内の学校の保護者から電話が入りました。その内容は、週末に腹痛・下痢を起こし現在入院中である。また、同級生にも同様の症状を示し本日休んでいる児童が多いという。その一報を受けて、保健所は児童の通う学校へ連絡を行い、現状の把握を行いました。

<保健所の調査>

保健所は、ウイルス等による感染症の発生や細菌性の食中毒等様々な要因を想定しながら調査を行いました。1学年での発症と、発症前の校外活動の行事の存在などから、火曜日に実施した1学年のみの校外活動に注目した。対象者は、生徒198名、引率教員10名でした。引率教員3名を含む110名が何らかの症状を示していました。

<校外活動の昼食メニュー>

この学校では、近くの野外活動場を利用し、学年オリエンテーションの目的で、校外活動を実施していました。昼食は施設内の野外バーベキュー場で施設の用意した食材を利用しバーベキューを行いました。
メニューは、牛肉・鶏肉・豚肉・ウインナー・キャベツ・タマネギ

<野外活動場の状況>

屋外バーベキュー場は、屋根があり炭を使う常設炉やテーブルなどが設置されており、事前に注文すれば食材も調理器具等もすべて用意してくれるというところでした。

<調理工程>

鶏肉・キャベツ・タマネギは、用意された包丁とまな板(一組)を用いて各自でカットを行い、加工済みの食材と一緒に各グループ毎に焼いて食べました。

<患者の症状>

腹痛81%、下痢50%、頭痛50%の順に発症率が高く、下痢の回数は、平均4.6回。発熱の平均は38.9℃でした。

<潜伏期間>

昼食(バーベキュー)を起点とした場合、平均潜伏時間は、60.8時間でした。さらに喫食してから3日以上たっても、まだ発症していました。

質問:今までの情報を分析した結果、原因物質として疑われる食中毒菌は何でしょうか?テキストの4Pを見て食中毒菌の特徴と比較してみましょう。

会場:カンピロバクターだと思います。

<検査結果>

それでは、検査結果を見てみましょう。
患者の検便 20検体中9検体からカンピロバクター・ジェジュニが検出されました。
また、保存食材の鶏肉からも同じカンピロバクター・ジェジュニが検出されました。
今回の事例では、患者便および原材料からカンピロバクターが検出されたことから、昼食であるバーベキューを原因とする食中毒と断定されました。
皆さんの予想が当たっておりましたね。       

<汚染率>

さて、今回の事例では、鶏肉からカンピロバクターが検出されましたが、ふだん私たちが購入する鶏肉は、カンピロバクター菌に汚染されているのでしょうか?

質問:汚染率はどれくらいと思いますか?

会場:よくわかりませんが、20%ぐらいでしょうか?
会場:60%ぐらいではないでしょうか?


厚生労働省のまとめによりますと、市販の鶏肉からは平均65.8%と高い頻度で検出されているのが分かります。
また、平成19年度に大阪府が実施した検査でも、平均67.9%の汚染率であり、全国の調査と同様の結果でした。みなさんの予想を超える汚染率です。

<食中毒発生件数>

大阪府における過去10年間のカンピロバクター食中毒の発生件数を示しております。
10年前に比べ、平成18年以降少し増えているのがわかります。
これは全国レベルでも同様の状況です。
次に平成21年の食中毒発生状況のうちカンピロバクター食中毒が占める割合を見てみましょう。10月末日の速報値ですが、
食中毒の発生件数が64件、うちカンピロバクターを原因物質とする食中毒事例は22件と
全体の34%を占めており、食中毒の発生要因の第1位になっております。
最近の食中毒の予防には、カンピロバクター対策が大変重要となっております。
全国の食中毒統計を基にした厚生労働省のまとめを見てみましょう。

<鶏肉・生食>

平成13年から18年の過去5年間で発生したカンピロバクター食中毒事件について、厚生労働省のまとめによりますと原因食品が判明した事例のうち、鶏肉料理を含む割合は約4割を占めております。
さらに、それらの食事の約半数に、鶏刺し、鶏レバ刺しなどの鶏肉の生食又は加熱不十分と考えられる料理が含まれていました。
以上のことから、カンピロバクター食中毒事例において、鶏肉料理、中でも生食との関連が深いことが分かります。
それでは大阪府の事例ではどうでしょうか、カンピロバクター食中毒と生食の関係について見てみましょう。

<リスクの認識>

平成21年10月末までに大阪府で調査したカンピロバクター食中毒事例のうち、生食又は加熱不十分と考えられる料理が含まれていた事例は11件で全体の約7割を占めております。先ほどの過去5年間の平均をはるかに超えていることがわかります。
その内訳としては、鶏刺しやたたきなどの鶏肉料理が10件、牛レバ刺しの牛肉が1件となっています。
ここで、牛レバ刺しを含む食事がありましたが、実はカンピロバクター菌は、ニワトリ等の家きんの他にウシなどの家畜をはじめ、ペット、野鳥、野生動物などあらゆる動物が保菌しています。厚生労働省の研究結果では、牛レバーのカンピロバクター汚染率が11.4%というデータがあり、牛レバ刺しも注意が必要な食材です。
また、牛レバ刺しは、腸管出血性大腸菌O157による感染リスクの高い食材でもあります。
したがって、肉類を生で食べることは食中毒のリスクが非常に高い行為であることを覚えておいてください。

<啓発>

そこで、大阪府では、食中毒の発生防止のために、「肉の生食をしない・させない」ことを重点的に啓発しております。
ここで、大阪府の淡野課長から、肉の生食の防止に関する大阪府の取り組みについてお伺いします。

(淡野課長コメント)
生肉、生レバーは非常に危険であり、重症化すると特に子どものリスクが高いものです。大人の責任として、少なくとも子どもに生食をさせることのないようにお願いしたい。
大阪府が食育フェスタに来場された約1000名を対象に実施した食の安全安心アンケートでは、肉の生食が危険であることを約90%の方が認識されているにもかかわらず、そのうちの30%の方が、肉の生食をしていると答えられました。
生食によるリスクを知っていただき、特に子どもに食べさせることがないように、お肉は十分加熱して食べるようお願いします。大阪府では、カンピロバクター食中毒の発生防止のために、「肉の生食をしない・させない」ことを重点的に啓発しております。

<食品安全委員会のリスク評価>

 食品安全委員会では食中毒原因微生物に関する食品健康影響評価を実施するにあたり、平成19年10月から「鶏肉中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリの食品健康影響評価」を優先して行うこととしました。
平成21年3月に行われた会合では、リスク評価の結果からカンピロバクター食中毒の発生を低下させる対策について示されました。
 カンピロバクター菌は、ニワトリの腸管内に生息していることから、食鳥処理段階で腸内容物による鶏肉への汚染を防止するための衛生管理について、有効な対策として2点示されています。
 一つは、農場から食鳥処理段階において、カンピロバクターに汚染している鶏と汚染していない鶏を区分することにより汚染を広げないこと、
 もう一つは、解体処理された直後の食鳥と体は、冷却水槽につけて冷却し微生物をコントロールしますが、その際に使用する冷却水の塩素濃度を適正に管理することが汚染防止に重要であるとしています。
 しかし、他の食肉にくらべ処理羽数が膨大であることから、個体単位での交差汚染を完全に防止することは困難な状況にあります。
 そこで、食品健康影響評価では、生食の頻度が現状のリスクに対して突出して高い影響を与えているという結果から、カンピロバクター食中毒を防ぐための最も効果の高い方法は、消費段階で生食をしないことであるとしています。

<「肉の生食をしない・させない」ために>

厚生労働省では、カンピロバクター食中毒予防についてのQ&Aを作成し、啓発を行っております。
大阪府では、リーフレットやホームページにおいて、肉の生食をしない・させないということをお願いしております。
さらに平成21年4月よりスタートしました食の安全安心メールマガジンでも、食中毒に対する注意喚起情報を配信しています。
カンピロバクター食中毒が発生した際は、消費者には「生で食べることは控え、十分加熱しておいしく食べましょう。」と、飲食店の営業者には「生肉の提供は控えてください。」というように、「肉の生食をしない・させない」ということを重点的に啓発しています。

・ここで大阪府食の安全安心メールマガジンにご登録されている方はどれくらいおられますのでしょうか?まだの方は、ぜひ登録してください。

さて、鶏肉特に生食と食中毒の関係について話をしましたが、食中毒というのは実際は様々な要因が重なって発生します。
今回の事例では、どのような要因があったのでしょうか。

<発生要因>

まずは、今回の事例を整理しますと大きく3つ要因がありました。
1.食材の鶏肉より、カンピロバクターが検出された
2.野外調理場のため、器具・設備等が十分に整備されていなかった
3.調理方法や加熱方法に対する指示が不十分であった
というように、原材料、調理器具・設備、知識の問題が複雑に重なって食中毒が発生したと考えられました

ここで菊池先生にお伺いしたいと思います。
今回の事例では、グループ毎に調理し、加熱して食べています。
なぜ、今回110名という大規模な食中毒になったと考えられますか。

(菊地先生コメント)
 汚染した鶏肉が、調理器具等を汚染して感染が拡大した可能性が高いと思われます。
 しかし、過去にはカンピロバクターによる大規模な食中毒が発生した時は、水が原因であったこともありますので、野外活動では食材以外に水にも注意が必要です。
 黄色ブドウ球菌は毒素型の食中毒、カンピロバクターは感染型の食中毒です。感染型の食中毒菌は、菌量が少なくても発症するのが特徴です。
 一般的に毒素型の食中毒細菌は10万個程度で感染するとされていますが、感染型の食中毒であるカンピロバクター菌やO157、サルモネラ菌などは差はありますが、100個程度で感染するといわれており、このような食材は、慎重に取り扱うことが必要であると思います。
 また、最近は、生で食べることが食通と勘違いされていることがあり、慎むべきことと考えます。人が長い時代を経て、食品の安全性を高めるために加熱をするという技術を開発してきたことは、生に対する警戒の現れであって、十分加熱するということは食中毒を予防する大切なことと考えます。


カンピロバクターによる食中毒には、身近で誰でも感染する食中毒の一つであるということで、皆さんも十分気をつけていただきますようお願いします。

このページの作成所属
健康医療部 生活衛生室食の安全推進課 食品安全グループ

ここまで本文です。