2008シンポジウム特別講演会

更新日:2009年8月5日

(4)特別講演会

【テーマ】 「大阪で食を考える」
【講 師】 林繁和さん(食文化はやらし隊・パティシエ)

林繁和さん特別講演の写真 

わたしは、まだ食への関心が非常に低い時代に、食中毒になりました。幼稚園に行く前に大腸炎を患い、腸の内壁を全部はがしてしまい、母親は苦労したと思います。
その当時ですから、便利なものも少なく、ごはんを炊いたものをおかゆにして、その汁だけ飲んで育ってきました。
 ビタミン不足のときは、フルーツを絞って飲みましたが、今みたいにすぐジュースになるような便利な道具も無く、ガーゼに漉して、それを飲んで育ってきたんです。
 そのためか、小さいころから非常に食に対する欲がきつかったですね。

  実は、元々わたしは寿司屋さんになりたかったんですが、一度おなかをこわすと、怖がりになってしまうんですね。
 生ものの調理は非常に厳しい。大病を患ってるにも関わらず性格的には明るいこともあり、それなら西洋料理みたいな明るい感じのものがいいかなぁと思ったんです。その道の延長線上でお菓子の勉強をしたくなって、だんだんと甘い香りのケーキの方が自分には合ってるのかな、と思いまして、西洋料理からお菓子に転向したわけなんです。

  もう何十年も前からお話をさせてもらってるんですが、プロは美味しくする方法、この技術にものすごく没頭しているんですね。だから、プロの料理にしすぎると体をこわします。美味しそうに見えている料理は、いろいろな材料を足して足して作ります。特にフランス料理は、バターやその他のものをふんだんに使って、それで「美味しく」作っています。材料も煮込んで煮込んで、ソースが命、みたいなね。

  日本人の特に女性は、食への興味が強くて、色んな国のものを食べますよね。男性は、今日は肉食べたい、今日はあっさり魚が食べたいというのはあっても、何々料理が食べたいとかって普段無いと思うんです。女性はどこそこの何が美味しいとかよく知ってますよね。
 でも、そんな情報もいい加減なこともあります。美味しいかどうかは食べた人それぞれですからね。タレントさんが、わざわざぶわからって口あけて、「美味しい!」あれ嘘っぽいです。
 食、味覚は、記憶です。日頃、食べているもので、味というものがわかるわけです。例えば、お米を変えると「あれ、今日はちょっと違うな」「美味しく炊けてるなぁ」とか、そういうのはわかるけれど、初めて食べてたものを「美味い」っていうのは、それは嘘だと思うんです。

  今、わたしが別の分野でお仕事をさせてもらおうかなと思ってるのが、アトピーについてなんです。わたしなんかはテレビに出て、「こうやったら美味しいんやから」とかやってます。ケーキでも美味しそうに作ります。美味しいんですけどね。
 でも、その片方でアトピーの人は、その美味しいものを見せるだけ見せつけられて、食べれない。そんなとき親が泣くんです。食べたくても食べれない。影に隠れてこそっと食べたら、症状が出てしまうんです。
 それを思ったら、罪作ってるなぁと思います。そんなにガンガン食べ物放送しなくてもいいのに、と。

 また片方では、家庭料理の大事な部分が、「少々ええやん」となりつつありませんか?忙しいし邪魔くさいからって、全部フライパン料理とか。それもなぜか皆さん、強火を使うんですよね。なんでなんでしょう?
 強火でジュウーって音がしないと安心しないとか。

 料理は段取りで決まってくるんで、下準備が大事なんです。けれど、ジューっていってから次の炒める材料を切ったり、切った食材をベチャベチャのままフライパンに入れたり。水気があるからジューという音はするけど、美味しくはできませんよね。「野菜炒めがベチャベチャや!」って、それは当たり前ですよね。

  言われていることはわかってはいるけど、いざ自分の生活に当てはめてみると自分の思うように動いてしまう。どこか意識がないと変えられない。面倒やからとか考えるのがしんどいからと、楽なように同じことを繰り返しているのに、片方では、テレビからの情報だけで「誰々の責任や」とか責任者ばっかり追求していて、それで納得してるわけです。それでは、何の勉強にもなっていないと思うんです。

  食べ物というのは日々のことだから、日本ほど豊かな国はないでしょう。しかし本当に、裕福かどうか。
日本の材料、食材で全部まかなおうとしたら、10人のうち6人くらい食べていけないようになります。半分も生き残れない。

  さきほど申し上げたアトピーの子も、ものすごく増えています。今、アレルギー学会の先生と診断書を書いてもらってアトピーの子のためのお菓子作ろうとしています。
 お母さんは「アトピーやから、卵ダメなんよ」というような、浅い知識しか教えてもらってない。何を食べると、どんな反応するのかをちゃんとカルテに書いてほしい。卵アレルギーでも、生卵はあかんけど、火を通したらいける場合もあるんですよ。それぞれ個人差もあり、卵アレルギーだからといって、全部が全部スポンジケーキを食べられないということもないわけです。
 卵がダメだから、卵の入っていないケーキを作って、という発想ですが、実際は卵を入れなかったらケーキはうまくできません。そしたら、合成の膨張剤みたいなん使わないとあかんでしょ。それを何とか技術で美味しくしろと言われてもそれは無理。

  味っていうのは、色んな材料を組み合わせて成り立ってるわけです。どの料理も。
 だから人それぞれによって、カルテをいただいたら、こういうものができるって技術者は選定できるんです。でないと、今の菓子屋さんにいきなり子供連れてこられて「いくらでできますか?」って言われても、今使っている道具から全部ストップしないとあかんわけです。そうなれば、商売やって行けないでしょ?みんな従業員抱えて、食べれる人のために作ってるもので、食べれない人のために作ってきたわけではないですよね。そこの狭間にいるわけです。

  そのアレルギーの根源は何かというと、まったく食べたことのないものには反応しないらしいんです。
 ということは、日々食べてるものによって反応する、反応がきつくなる、ストレスがたまるということです。色々なものが入ってきて、食の欲にまかせて食べている中で。

 大阪は、食の美味しいところの代表とか、料理の中心みたいになっていますよね。そこに培ってきた技術力とか、舌とか、感覚とか、鋭く研がれているのが大阪の人。これは昔からの歴史ですね。
 東京は人口多いし、みんな商売しようと思ったら、東京に行ってしまいます。大阪の腕のいい料理人もみんな行ってる。何故かというと商売につながるから。人口多いから。でも、これでいいのか。

  大阪はケチやってよう言われますね。大阪人ケチなん大好き。節約し、無駄をなくし、より安くして、しかもより美味しくして、それでもって時間も短く。そういうのが大阪の料理人の考え方や、お客さんのニーズなんです。
 しゃぶしゃぶだって、タイにもありますけど、タイ風しゃぶしゃぶ。あれ実は大阪が発祥の地なんですよ。肉をことこと炊くんじゃなくて、さーっと煮て、豪華そうに見えるけど、ほとんど紙みたいなぺらっぺらの肉を技術で切って。しゃぶっとしたらぺろっと食べられる。これって大阪人やから考えられる料理法やと思いませんか?
 バッテラ寿司でもね、酢でしめて安全な食べ物にしてるんですけど、昆布の一番ええとこ削り取ってね、芯のとこ捨ててしまうんです。あの芯のとこ、ほんまはあんまり美味いことないんですよ。

  こないだ料理の先生見てたら、大阪人でない人ですけど、昆布のダシを早くとるためにハサミで細く切ってするみたい。僕から言うたら、何してんねんと思います。料理を良く知らない一般の人に、そうするのかと思わすようなことをテレビで流すべきではない。

  昆布の出汁は表面から出てくるものであって、だから表面積が多いほど、洗ったらだめなんです。旨味が流れるから、拭くぐらいにしとくべきだと。それを、できるだけ大きな一枚でどんって入れて。中の芯の部分からはイヤな味が出てくる。だから昆布は早く引き上げてっていうでしょ。その意味合いがわかって、使っていかないとね。

  それをうだうだ炊いてしまったら、美味しい料理ができないのに決まってるでしょ。細切りにしてどんどん入れて。産地が北海道で、美味しい昆布でも、それが美味しいわけがない。
 それをよくわかって、テレビもやってほしいなと思います。どこそこのもんが欲しいから、大阪の人が北海道の蟹食うてとか、沖縄から取り寄せて、とか。大阪人が食べ慣れてもいない苦瓜(にがうり)を食うて美味しいんか?ほんまはあんまり美味しいとは思わないはず。ああいう気候風土の中で育ったもんを日々食べていくから慣れていくわけで、いきなり苦瓜がテレビで出ていたから食べてみたいなぁて。それは欲だけであって、ほんまに自分が美味しいと思うものではないはずなんです。大阪人の気候風土に合ってないんです。

  春は芽吹きのもの食べて、夏は葉物など、さんさんと太陽を浴びた食材を食べて。秋は実りのもの食べる。冬は地の熱をもらうため大根とか、根っこにあるようなもの食べていく。そうすると人間元気なんですよ。これが自然の法則。

  「高いものが美味い」かというと、そんなことはありえない。「高かったら、安心安全の材料使とる」かどうか、わかりません。美味しそうに豪華そうに見せるために、料理の腕を使っているかもわかりません。
料理は、欲望の食べ物。あまりにも日本人は、雑食の民族になりすぎていて、そら欲がありますもの。お金ちょっと儲けたら、「うまいもん食いたいなぁ」と思う。わかりますよ、それこそ商売人の楽しみやから。でも、体を守る食べ物でもあるんですよ。
食べ物というのは両方兼ね備えないと、欲だけで走ったらあかん。「体を守る」いうたって、またテレビでは「栄養のために」って、あほなことをやってます。

 ブロッコリーは、ゆがいたら栄養が逃げていく。だから電子レンジでチン。しかもそのままやったら熱いから、チンしたらそのまま置いといて3分ほど冷めるまで。そんなことありえない、何言うとんねんと思います。食べ物には、栄養になるもんもあれば毒になるもんもある。

 人間なんかみな雑菌だらけ。これを自分が、潔癖症やからってきれいに拭いて・・・といっても、自分が菌っていうことを忘れたらあかん。その中で対応しながら、体を守りながら、食べ物を選んでいかないと。
 食べ物に気をつけて。ビタミンを取って。命より大事な健康なのか?なんやかんや情報が出れば、流行のものを飲み、栄養補給という。
 ブロッコリーなんか、あんな色ですよ。だから栄養もあれば、そのかわり毒素もきつい。体はすぐ、生で反応しようとする。それをレンジで加熱すると、悪いとこも閉じ込めてしまう。栄養は逃げないかわりに悪いとこも逃げない。
 昔から、塩ふったりするでしょ。塩入れたらいいのとは違います。塩をまぶして、毒素ができるだけ出やすいようにして、しかもお湯でゆがく時は塩と一緒にゆがくことによって沸点がぐっと上がるんです。お湯の中に塩入れてみてください。ブワーッと沸きます。その沸点を変えることによって、できるだけ栄養素が逃げるための時間を短くして、早くゆがくように考えてやっているのが技術なんです。それを、栄養のことばっかり考えて、そんな方法論を「ふんふんそうか」いうて、みなさんが真似たら悲しい。

  体にええもんばっかりが、ええわけない。料理にはやっぱり見た目と、湯気が立ってるなんかほっとする気持のもんもあれば、色んなもんがあると思うんですよ。
 体のことを考えて酢を飲んで、自分が菌やていうこと忘れてる。酢は酢でしめて、長持ちするようにする。酢はものを殺菌する薬の役目もあれば、毒を流す利点もある。だから、体内の毒を流してくれるのに、毒を使うことがあるでしょ。

  酢は、あまり人間に害がないように発酵して、腐ったもんです。腐敗と発酵、腐敗のほうは、人間のからだに合わない。同じように発酵も、同じ過程を踏んでるんですけど、そんなに害はなくて、逆に言ったら、毒をもって毒を制する、逆になるだけで。これをがばがば飲んだら、胃が悪くなります。

  最近皆さんは、横文字の入っている海外の水を好んで飲んでますか?漢字書いてあるのよりは、横文字書いてあるほうが飲みやすいとか。
 大阪はめちゃめちゃ水が美味しいんですよ。それをわざわざ、ヨーロッパの水とか買いますけど、本場の水なんて飲んだことないでしょ?自分の体に合ったものを取り入れないとだめですよ。それで五感を鋭く磨いていかないと。
 日本人って、すぐかっこいいものや周囲の情報に過剰に反応してふりまわされている気がするんです。
 美味しいと感じて食べていても実は知らないことがたくさんある。でもやっぱりわかって食べましょうよ。それに自分たちで用心しましょうよ。
 美味しければいいではなく、食に対してもっと知識を増やしていくべきだと思います。

 最近ではメタボ、体脂肪、という言葉にも敏感に反応して、ウーロン茶飲んだら体脂肪が抜けていって、スマートになれる。こんなこと学会でも発表されてないですよ。本当にウーロン茶で体脂肪抜けるんだったら、ずっと飲んだらよろしいけど。こういった情報なんかも、みんな乗せられてる。私はそう思います。

 今日は、今までに皆さんが知らなかったことたくさんお話したと思います。でもこれが現実なんです。
 これからもみなさん、もっと食に関する知識を高めていっていただきたいと思います。
 本日はどうも、ありがとうございました。
林繁和さん特別講演の写真

このページの作成所属
健康医療部 生活衛生室食の安全推進課 食品安全グループ

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