同和対策審議会答申(昭和40年8月) 第3部第3章

更新日:2023年6月21日


 

3.産業・職業に関する対策
(1)基本的方針
 同和地区の産業・職業状態をみると、まさにわが国産業経済の二重構造の最底辺を形成している。同和地区の農漁村は、非近代的なわが国農漁業のうちでもとくに遅れた前近代的な零細経営であり、皮革履物等の伝統的産業は、中小企業以下の生業的な過小零細経営が圧倒的多数を占めている。これら同和地区の産業は、歴史的・社会的制約により日陰の存在としてわが国の経済発展からとり残されているのであるが、それはまた、わが国経済の高度成長を阻害する制約ともなっていることは見逃せない。とくに注目しなければならぬことは、同和地区住民は、不当な差別による就職の機会均等が完全に保障されていないため、近代産業から締出され、いわゆる停滞的過剰人口が同和地区に数多く滞溜していることである。
 それゆえ、住民地区の生活はつねに不安定であり、経済的・文化的水準はきわめて低い。これは差別の結果であるが、同時にまた、それが差別を助長し再生産する原因でもある。かくて、同和問題の根本的解決をはかる政策の中心的課題の一つとしては、同和地区の産業・職業問題を解決し、地区住民の経済的・文化的水準の向上を保障する経済的基礎を確立することが必要である。  以上の見地に立つとき、同和対策としての産業・職業に関する対策の基本的方向と目標は、次のごとくでなければならない。
(1) 同和地区のような経済的基盤の劣弱な後進地区では、社会開発と経済開発を併行的に行なうかあるいは社会開発を経済開発に先行させることが必要である。すなわち、同和地区の非近代的な社会経済構造を改革して近代的な地域社会を建設する目標の下に、経済開発計画と関連させて地区住民の生活、文化、福祉の向上をはかる諸施策を積極的に実施し、地区の経済開発を推進する方向で地区の整備を行なうこと。
(2) 同和地区には多数の停滞的過剰人口が滞溜しているが、さらに経済の高度成長の過程で地区の産業の衰退に伴う失業者、転廃業者の多発が予想される。しかも差別のために就転困難という事情が加わるので問題は一層深刻である。このような地区の停滞的過剰人口を良質の労働力として育成して近代産業部門に就労せしめる人的能力の開発が必要である。とくに新規学卒の若年労働者に重点を置いて積極的に実施すること。
(3) 同和地区の経済開発は、わが国経済のいわゆる二重構造を解消する政策の一環として、地区の特殊事情に即した特別の配慮をもって行なわなければならない。すなわち、地区の農林水産業、各種製造業、各種販売業およびサービス業の実態を把握し、わが国産業経済の成長発展に対応して近代的企業として存立しうる条件を持つもの、あるいはその可能性を有するものに対しては、特別の助成および融資等による保護育成の方針をとり、衰退産業部門に属する過小零細企業で早晩没落の運命を免れえないものに対しては、職業の転換を円滑に推進する等の諸施策を行うこと。

(2)具体的方策
(1) 農林水産対策
一)土地改良、土壌改良、農地の開発造成、農道、水利、排水等の設備、土地の交換分合等の施設事業に対する助成と指導を積極的に行なうこと。
二)動力、機械、科学技術等の導入、作業場、倉庫等共同利用施設の整備拡充などに必要な経費の補助と技術改良の指導を積極的に行なうこと。
三)畜産、養蚕、酪農、果樹、園芸、農産加工など適地適産の多角経営への移行を奨励指導し、それに必要な共同施設の整備に要する経費の補助、低利長期の融資等を積極的に行なうとともに生産経営等に関する技術指導を行なうこと。
四)国有、公有の開墾可能な山林、原野、沼沢等を払下げ、開墾、営農及び住宅建築などに対する助成、低利長期の融資等援助措置を積極的に行なうこと。
五)山林、草地など共有地の入会権、慣行水利権等に絡む差別を撤廃し、その利用と管理の民主化を促進する適切な行政措置を講ずること。
六)離農を希望する農家の転業、転職を円滑ならしめるため、転業資金の融通、職業指導および職業訓練、就職斡旋など所要の援護措置を積極的に講ずるとともに離農者報奨金制度の急速な実現に努めること。
七)漁業、養殖場など漁業生産基盤の整備、動力漁船の建造、漁具の整備、漁港の築造または改修など漁業の施設の整備改善に要する経費の補助と低利長期の融資を積極的に行なうこと。
八)他産業への転業、転職を希望する零細漁民に対しては、職業転換を円滑ならしめるため、転業資金の融通、転業指導、職業訓練および就職斡旋などの援助措置を講ずるとともに漁業から離れるものに対する報償金制度の特別措置を講じ、生活の安定と向上とを図る施策を積極的に行なうこと。
九)農山漁村失業者対策および出稼ぎ対策を樹立し実施すること。

(2) 中小零細企業対策
一)事業協同組合等の組織化を奨励指導するとともに既存組合の拡充、運営改善の指導と援助を行ない、企業集約化等の合理化と雇用関係、労働条件等の近代化を促進する諸施策を積極的に行なうこと。
二)共同組合等の共同施設に対する設備近代化資金貸付制度を活用し、企業の近代化を促進し生産性向上をはかる諸施策を積極的に行なうこと。
三)現行技術改善費補助金、技術指導補助金制度を拡充改善するとともに公設試験研究機関を拡充強化し「部落」中小零細企業の技術革新を促進すること。

(3) 就業状態の改善対策
一)新規学卒者の近代産業への雇用を促進するため職業安定機関と教育機関の連携協力を一層緊密にし、職業指導、就職斡旋、定着指導等の諸施策を拡充強化すること。
二)対象地区関係の就職者が要望する場合は雇用促進事業団において身元保証を行なう こと。
三)職業安定協力員制度を拡充強化、対象地区関係者の就職を円滑に促進するため協力員の人選および配置に特別の措置を講ずること。
四)職業訓練所を増設、拡充し、対象地区出身の中高年令労働者、失業者、不完全就業者、転廃業者等の職業訓練を積極的に行なうとともに訓練手当増額支給の措置を検討し、その実現に努めること。
五)職業訓練所を拡充強化し、対象地区出身の若年労働者に対する職業訓練を積極的に行なうとともに訓練手当増額支給の措置を検討し、その実現に努めること。
六)農漁業および中小零細企業の転廃業者および従業者の雇用を促進するための諸施策を積極的に行なうこと。
七)求人者側の理解を求めるために必要な諸施策を積極的に行なうとともに、雇用の選考基準、採用方針、選考方法などに関する差別待遇を根絶するため、職業安定法に基づき啓発と指導を強力に行なうこと。
八)「部落」出身の中高年者等就職困難な求職者の雇用を促進するため、諸施策を積極的に行なうこと。
九)失業者就労事業における労働者の待遇改善、就職促進、新規失業者登録条件の実情に即した取扱等失業対策を拡充強化すること。
十)社外工・臨時工等不安定な雇用関係の下にある労働者の常用化を促進する措置を講ずること。
十一)中小零細企業における労働法規、社会保険制度などの厳正なる実施適用に関する指導監督を一層強化すること。

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府民文化部 人権局人権擁護課 人権・同和企画グループ

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