人権教育の指導の改善・充実という課題に直接的・具体的に関わるのが、人権教育の指導内容及び指導方法の問題である。本節では、指導内容の構成、学習教材の選定・開発、指導方法の在り方について順次述べることとする。その際に、特に人権感覚の育成、児童生徒の自主性・主体性の尊重、発達段階や実態への着目、体験的な学習の活用等の視点に焦点を合わせることにしたい。
学校において人権教育を進めていく際には、人権教育が目指す諸能力を総体的・構造的にとらえた上で、その指導内容を構成することが必要である。人権教育が育成を目指す資質・能力は、知識的側面、価値的・態度的側面及び技能的側面の3つの側面として捉えることができるが、学校全体における系統的な指導内容として、これらの側面の育成を総合的に位置付けることが望ましい。
一方、学校教育における各教科等やその分野・領域にはそれぞれ独自の目標やねらいがあり、指導に当たっては、この目標やねらいを達成させることが、第一義的に求められることは言うまでもない。このような中にあって、人権教育をいかにして総合的に位置付け、実践するかについては、なお、様々な工夫や検討が求められるところである。
現代社会における人権尊重の理念の徹底の重要性にかんがみれば、児童生徒に対しては、人権に関わる資質・能力をトータルに身に付けさせる必要があり、人権教育の指導内容についても、総合的な内容構成が目指されることになるが、同時に、育成すべき資質・能力の特定の側面に焦点を当て、個別的、具体的な指導内容を構成してこれを実施していくことも、必要かつ有効な方法となる。
そこで、各教科等の指導で即座に実践できると思われるいくつかの指導内容の構成の事例を参考として提示しておきたい。
まず知識的側面の育成についてであるが、各教科等をはじめ、あらゆる教育活動の場において、あらゆる機会をとらえて積極的に取り組むことが求められる。
これまで、人権教育の知識的側面は、社会科等を中心とした教科の学習において扱われる場合が多かった。他方、様々な人権意識に関する調査等の結果からは、人権に関する客観的・科学的知識をある程度まで習得している人についても、その知識が社会や個人の生活の変容に資する生きた知識として内面化され、主体化されていないといった傾向がうかがえる。こうしたことからも、人権教育をより一層充実させる観点から、知的理解に関わる内容の指導を特に取り立てた形で行うことが必要となってくる。この側面の指導に当たっては、単なる知識伝達に止まらず、その知識内容を自らのものとして肯定的に受けとめ、情緒的にもそれに共感できるようになるための主体的な学習を可能にする教授法を活用する努力が求められる。その指導は必ずしも教材を読んだり、講話を聴いたりする方式である必要はなく、むしろ、児童生徒の自己活動的、主体的関与を促すような学習や、主体的な関与と取組を基礎とする体験的な学習の機会を提供できるよう、工夫が求められる。同時に、個別的・個人的な学習形態よりも、グループ活動も含む協同的・協力的な形態の学習を、より多く取り入れていくことが望まれる。
なお、知識的側面の指導内容の構成に当たっては、特に人権擁護に実際に役立つような実践的知識を積極的に組み込むことも必要である。
人権意識等を育み、人権課題の解決に向けた実践力へとつなげていくためには、人権に関する知的理解に加え、人権感覚を養うことが特に重要となる。人権感覚を育成するには、「価値的・態度的側面」や「技能的側面」に属する諸要素としての価値や態度、諸技能を身に付けさせることが必要である。しかし、いきなり整合的な全体計画の中でこれらを一挙に育成することは容易ではない。そこで、人権教育を通じて育てたい資質・能力の全体構造を意識しつつも、その諸要素の中からいくつかを個別的に順次取り上げて、様々な場面や機会を活かして促進を図る取組が必要となる。
その際に、特に、共感的に理解する力やコミュニケーション能力、自他の人間関係を調整する能力など、第1章2(2)に挙げた諸技能について取り上げて、それぞれの育成に取り組むことが重要である。
上記の(1)及び(2)のように、人権教育を通じて育てたい資質・能力の特定の側面に焦点を当て、個別的な内容を取り上げて行う指導と併せ、様々な指導内容を組み合わせた総合的な指導のプログラムを構成して指導することも大切である。
以上のように順次性への着目が求められるが、場合によっては改めて(1)(2)の側面を強調する学習が必要となる。
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教育庁 人権教育企画課 人権教育グループ
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