指導内容の構成

更新日:2009年8月5日

第2節 人権教育の指導内容と指導方法

 人権教育の指導の改善・充実という課題に直接的・具体的に関わるのが、人権教育の指導内容及び指導方法の問題である。本節では、指導内容の構成、学習教材の選定・開発、指導方法の在り方について順次述べることとする。その際に、特に人権感覚の育成、児童生徒の自主性・主体性の尊重、発達段階や実態への着目、体験的な学習の活用等の視点に焦点を合わせることにしたい。

1.指導内容の構成

 学校において人権教育を進めていく際には、人権教育が目指す諸能力を総体的・構造的にとらえた上で、その指導内容を構成することが必要である。人権教育が育成を目指す資質・能力は、知識的側面、価値的・態度的側面及び技能的側面の3つの側面として捉えることができるが、学校全体における系統的な指導内容として、これらの側面の育成を総合的に位置付けることが望ましい。
 一方、学校教育における各教科等やその分野・領域にはそれぞれ独自の目標やねらいがあり、指導に当たっては、この目標やねらいを達成させることが、第一義的に求められることは言うまでもない。このような中にあって、人権教育をいかにして総合的に位置付け、実践するかについては、なお、様々な工夫や検討が求められるところである。
 現代社会における人権尊重の理念の徹底の重要性にかんがみれば、児童生徒に対しては、人権に関わる資質・能力をトータルに身に付けさせる必要があり、人権教育の指導内容についても、総合的な内容構成が目指されることになるが、同時に、育成すべき資質・能力の特定の側面に焦点を当て、個別的、具体的な指導内容を構成してこれを実施していくことも、必要かつ有効な方法となる。
 そこで、各教科等の指導で即座に実践できると思われるいくつかの指導内容の構成の事例を参考として提示しておきたい。

(1)人権に関する知的理解に関わる指導内容

 まず知識的側面の育成についてであるが、各教科等をはじめ、あらゆる教育活動の場において、あらゆる機会をとらえて積極的に取り組むことが求められる。
 これまで、人権教育の知識的側面は、社会科等を中心とした教科の学習において扱われる場合が多かった。他方、様々な人権意識に関する調査等の結果からは、人権に関する客観的・科学的知識をある程度まで習得している人についても、その知識が社会や個人の生活の変容に資する生きた知識として内面化され、主体化されていないといった傾向がうかがえる。こうしたことからも、人権教育をより一層充実させる観点から、知的理解に関わる内容の指導を特に取り立てた形で行うことが必要となってくる。この側面の指導に当たっては、単なる知識伝達に止まらず、その知識内容を自らのものとして肯定的に受けとめ、情緒的にもそれに共感できるようになるための主体的な学習を可能にする教授法を活用する努力が求められる。その指導は必ずしも教材を読んだり、講話を聴いたりする方式である必要はなく、むしろ、児童生徒の自己活動的、主体的関与を促すような学習や、主体的な関与と取組を基礎とする体験的な学習の機会を提供できるよう、工夫が求められる。同時に、個別的・個人的な学習形態よりも、グループ活動も含む協同的・協力的な形態の学習を、より多く取り入れていくことが望まれる。
 なお、知識的側面の指導内容の構成に当たっては、特に人権擁護に実際に役立つような実践的知識を積極的に組み込むことも必要である。

【参考】知的側面に焦点を当てた指導内容の構成の例

  • (1) 社会科等の授業で、人権に関わる題材を扱う際に、児童生徒が、自分自身に直接関わる問題を提示し、合理的・分析的な思考を行い、人権に関わる知識の内容を知的及び共感的に理解し、内面化することを促すような幅広い内容構成を工夫する。単なる知識の伝達に終わらないように、資料や情報の自主的探求や討議を取り入れた授業の展開を図るなど柔軟で弾力的な指導方法を取り入れることも有効である。
  • (2) 総合的な学習の時間、特別活動(特に学級活動やホームルーム活動)及びその他のあらゆる学習の機会を活用して、法教育の観点からも、世界人権宣言や児童の権利に関する条約等の人権関連の条約等を教材として使用する。条約等の一部分のみの使用であっても差し支えなく、例えば、児童生徒の発達段階やその他の実態に照らして適切なものがあれば、それを適宜取り上げる。まず本文の内容を学習した上で、それをテーマとして話し合ったり、必要な情報を新たに探求したりして、知識の広がりと理解の深化を目指す学習を進める。また、自分や身近な人の権利や自由が侵害された場合に、どこの誰に相談し、あるいはどこに訴えれば救済につながるのか等に関する実践的で具体的な事柄についても、発達段階を踏まえて学習内容に組み入れる。
  • (3) 外国語の時間に、例えば世界人権宣言や児童の権利条約等の日常英語版テキスト等を教材として活用する。語学的な能力の育成と同時に、実際生活で将来必要となるような人権に関する生きた知識の習得や内的価値の促進に結びつける。

(2)人権感覚の育成に関わる指導内容

 人権意識等を育み、人権課題の解決に向けた実践力へとつなげていくためには、人権に関する知的理解に加え、人権感覚を養うことが特に重要となる。人権感覚を育成するには、「価値的・態度的側面」や「技能的側面」に属する諸要素としての価値や態度、諸技能を身に付けさせることが必要である。しかし、いきなり整合的な全体計画の中でこれらを一挙に育成することは容易ではない。そこで、人権教育を通じて育てたい資質・能力の全体構造を意識しつつも、その諸要素の中からいくつかを個別的に順次取り上げて、様々な場面や機会を活かして促進を図る取組が必要となる。
 その際に、特に、共感的に理解する力やコミュニケーション能力、自他の人間関係を調整する能力など、第1章2(2)に挙げた諸技能について取り上げて、それぞれの育成に取り組むことが重要である。

【参考】人権感覚の育成に焦点を当てた指導内容構成の例

  • (1) 国語、社会、外国語等の学習内容と関連付けて、それぞれの授業時間の中に人権の実現に関わる想像力、共感性、感受性、コミュニケーション技能などの育成を図る活動を可能な限り取り入れる。
  • (2) 道徳、特別活動、総合的な学習の時間等あらゆる機会をとらえ、できるだけ直接的な体験を活かすことを通じ、上記(1)に掲げる諸技能を育成する。体験的な学習を進める上で、ロールプレイング、シミュレーション、ディスカッション等の能動的手法を取り入れることも有効である

(3)総合的な指導のためのプログラム

 上記の(1)及び(2)のように、人権教育を通じて育てたい資質・能力の特定の側面に焦点を当て、個別的な内容を取り上げて行う指導と併せ、様々な指導内容を組み合わせた総合的な指導のプログラムを構成して指導することも大切である。

【参考】総合的な指導のためのプログラム例

  1.  次の一連の学習により、児童生徒は自己の価値に関する認識から出発して、様々な人権課題の認識、社会的背景の考察、人権諸課題共通の概念習得を経て、人権実現のための具体的行動力の獲得に到達するまで、自然な流れの中で、諸要素を総合的に身に付けることが期待される。
    • (1)自分が生きている価値の実感(自己についての肯定的態度)
    • (2)お互いの間にある違いの自覚と尊重
    • (3)人権侵害の歴史的・社会的背景と当事者の生き方の学習
    • (4)様々な人権課題の解決に共通して必要な概念や枠組みに関する学習(自尊感情・自己開示・偏見・悪循環・平等観・特権など)
    • (5)具体的な場面での行動力の育成
    • (6)人権が尊重される社会づくりにつながるような行動力の育成
  2.  上記の要素のどれが重視されるかは、児童生徒の発達段階やその他の実態によって異なる。
     例えば、小学校低学年では(1)(2)などが重視され、学年が高くなるにつれて(3)(4)などに重点が移る、小学校高学年や中学校、高等学校ではこれらに加え(5)(6)なども重要な位置を占めるようになる。
  3.  さらに、同一学年内における学習の進行においても、時期によって重点の置き方は異なる。
     例えば、年度当初は(1)(2)などが重視され、その成果を土台に継続的・恒常的学習が継続されつつ、(3)(4)などが児童生徒の状況に応じて組み込まれる。そして(5)(6)などの具体的行動力の学習へと進む、というような構成が望ましい。

 以上のように順次性への着目が求められるが、場合によっては改めて(1)(2)の側面を強調する学習が必要となる。

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教育庁 人権教育企画課 人権教育グループ

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