3.K事件(平成30年(不)第59号事件)命令要旨

更新日:2021年4月30日

1 事件の概要

 本件は、組合員1名を昇格させないことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)3等級と4等級について、給与規程の内容をみれば、4等級の方が賃金面で有利であって、4等級に昇格させないことに不利益性があることは明らかである。

(2)本件の昇格は、会社の経営方針に関与するような地位への昇格ではなく、一般の従業員の昇格の範囲内のものに当たり、会社が裁量を逸脱して、組合員を非組合員と比較して差のある扱いをし、昇格させなかった場合には、不当労働行為に該当し得るというべきである。

(3)そこで、会社の昇格制度について検討するに、会社の等級規程は、(ア)昇格は要件を満たした者の中から経営会議に諮り社長が決定する、(イ)直近2年の人事考課結果がB以上で、上司の推薦と考課責任者の承認を得たものが昇格候補者となると定めていることが認められる。
 そして、当該組合員の当該年度の直近2年の人事考課結果はBであったことが認められるのだから、上司の推薦や考課責任者の承認を経て経営会議に諮り社長が決定するという過程において、4等級に昇格しない旨決定されたというべきところ、上司の推薦や考課責任者の承認において、前回昇格からの経過年数、年齢、職種などの点をどの程度勘案するのかや、推薦や承認の対象とする従業員数の目安、経営会議で社長が昇格を決定する際の基準等について、等級規程には、具体的な定めはない上、実際の運用についての疎明もなく、本件審問を経ても、昇格制度の全貌については、未だ、明らかではない。
 また、各年度の昇格候補者や昇格者の人数についての疎明も乏しく、会社が従業員や組合に対し、昇格者決定後に、その年度の昇格候補者や昇格者の人数を明らかにしているとはいえない。さらに、組合が当該組合員の勤続年数と同等程度の男女社員の等級・号俸の開示を求めたのに対し、会社は、個人が特定される可能性があることから、開示は控える旨回答したこと等が認められる。
 以上によると、会社において、組合や従業員は、事務職の3等級から4等級への昇格に関する基本的な情報でさえ、容易には入手できない状況にあったというのが相当である。さらに、会社は、当該組合員と比較し得る同一属性の従業員について、昇格に関する情報をほとんど開示しておらず、また、昇格において、いかなる点を重視するのかも明らかでないのだから、昇格者の決定過程の一部に人事考課結果を使用しているとはいえ、公平性や客観性を担保した運用にはなっておらず、実際には、恣意的な決定が可能な状態にあったというべきである。

(4)ところで、当該組合員は、近年の人事考課結果等からすると、少なくとも平均的な能力を持った従業員であるというのが相当であるが、過去、約5年間の間に、所属していた営業所の閉鎖を契機に、会社は当該組合員に対し、降格と賃下げを繰り返したところ、この時期の降格はもとより、当該組合員が繰り返し賃下げをされてきた理由についての疎明はない。
 この降格と賃下げの最中に、会社は等級・号俸制度を導入し、当該組合員を3等級に格付ける一方、当該組合員と同程度の経験のある事務職はもとより、当該組合員より経験の短い事務職も4等級以上に格付けたというべきであるところ、このような状況下で、当該組合員を3等級に格付けた理由についての疎明はない。
 また、直近の事務職の基本給相当分の一覧表により、当該組合員の基本給相当額の水準を検討すると、(ア)5名の5等級の事務職と比較すると、当該組合員は上位から4番目になること、(イ)6名の4等級の事務職と比較すると、当該組合員は上位から3番目になること、(ウ)当該組合員の次に基本給相当額の高い3等級の事務職の額を下回る4等級以上の事務職はいないこと等が認められ、当該組合員の基本給相当額の水準は、3等級の中では突出して高いというべきである。
 以上によると、会社は、等級・号俸制度導入時に当該組合員を等級について、他従業員と差別的に扱い、その結果生じた不均衡を是正しないまま、当該年度においても、当該組合員を意図して3等級に留め置くとの判断をしたというのが相当である。

(5)また、会社は、当該組合員の組合加入通知の直後に、等級・号俸制度を導入して、当該組合員を敢えて3等級としたということができるが、それ以降の経緯をみると、組合が同組合員の処遇の改善について、非組合員との比較の上での客観的な説明や協議を求めたのに対し、会社は、組合のあっせん申請後も、組合に対し、その理解が得られるような対応を取ろうとしなかったというのが相当である。なお、本件申立時において、会社従業員で組合に加入していたのは、当該組合員のみである。これらのことからすると、会社は、当該組合員が組合に加入し、組合とともに、処遇上の問題について協議を求めるなどし続けてきたことを嫌悪していたと推認できる。

(6)以上を総合的に判断すると、会社が、当該年度において、当該組合員を4等級に昇格させなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、もって組合を弱体化させるものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)組合員1名の賃金を昇格していたものとして改めて決定すること及びバック・ペイ

(2)誓約文の手交

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

ここまで本文です。


ホーム > 最近の不当労働行為救済申立事件の命令概要 > 3.K事件(平成30年(不)第59号事件)命令要旨