8.N事件(令和4年(不)第25号、同年(不)第27号及び同年(不)第31号併合事件)命令要旨

更新日:2024年2月29日

1 事件の概要

 本件は、(1)組合が学校法人に対し、学校法人の職員が組合に加入し分会を結成した旨を通知するとともに、団体交渉の申入れを行ったところ、学校法人は、組合分会長に対し自宅待機を命じたこと、(2)組合が学校法人に対し、賃金の支払や同分会長の懲戒解雇の撤回等に関する団交の申入れを行ったところ、学校法人は、団交の日程調整に一切応じず、事実上、団交を拒否していること、(3)組合が学校法人の本部に出向き、速やかに団交に応じること等を求める申入れを行ったところ、学校法人は、組合の行為について威力業務妨害事件として捜査機関への申告を検討する旨等記載した警告書を、組合に対して送付したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)組合が、本件申立てに関する申立人適格を有するかについて

ア 学校法人の副校長であった組合の分会長が、労働組合法第2条第1号に規定する者に該当するか否かは、労働組合の自主性を確保するという同条の趣旨に照らし、同人が実際に担っていた職務内容や有していた権限等をみて、判断すべきである。

イ そこで、分会長の職務内容や権限等についてみる。

(ア)分会長が行っていた業務は、いわゆる管理監督者ではない者も行い得る業務であり、分会長がこれらの業務を行っていたとしても、人事に係る重要事項について最終的な決定権限を持っていた、あるいは、これらの業務が人事上の機密に関するものであったとまではいえず、同人が組合員であることで、組合の自主性を阻害するとまではいえない。また、校長不在の際の分会長の職務内容をみても、同人が組合員であることで、組合の自主性を阻害するとまではいえない。

(イ)次に、分会長が参加した会議をみても、教職員の雇入解雇、査定、昇進又は異動、賃金その他労働条件に関するものであったとまではいえないのであるから、かかる会議に参加したことをもって、分会長が労働組合法第2条第1号に規定する者に該当するとはいえない。

(ウ)さらに、分会長が教員3名に対して始末書や顛末書の提出等を求めたことについてみても、就業規則上の懲戒処分とみることはできず、教員3名の監督者の立場として行った事実上の行為であったとみるのが相当である。
 そうすると、分会長が人事に係る重要事項についての最終的な決定権限を有していたとはいえず、同人が組合員であることで、組合の自主性を阻害するとまではいえないのであるから、同人が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるとはいえない。

ウ 以上のとおり、分会長が実際に担っていた職務内容や有していた権限等からは、同人が、労働組合法第2条第1号に規定する者に当たるとはいえない。
 したがって、組合は、本件申立てに関して申立人適格を有しているといえる。

(2)分会長に対し自宅待機を命じたことについて

ア 本件自宅待機命令によって、分会長は精神的な不利益を被ったといえる。

イ 学校法人が本件自宅待機命令を発したことと、分会長が組合に加入したこととの関連性についてみる。
 学校法人は、組合から、分会長は調査に回答する意思を有しているが、期間が短く準備が間に合わない旨通知されていたにもかかわらず、その3日後に本件自宅待機命令を発しており、このような学校法人の対応は、組合の要請を押し切った強引かつ性急なものであるといえ、分会長の組合加入通知、分会結成通知及び団交申入れと本件自宅待機命令は関連性があるといわざるを得ない。

ウ 次に、本件自宅待機命令の理由についてみる。
 本件自宅待機命令通知書には、分会長のいかなる行為が理由で自宅待機命令が発せられたのかについて具体的な記載がない。
 また、学校法人は、組合の要請を押し切って強引かつ性急に本件自宅待機命令を発したものといえる。
 さらに、学校法人は、分会長を就業させた状態で、調査又は処分決定を行うとの手段も採り得たところ、なぜ、自宅待機との手段を選択したかについて、学校法人からの主張も事実の疎明もない。
 以上のことからすると、学校法人が、自宅待機まで命じる必要があったかについては、疑問が残る。

エ 以上のことを総合すると、本件自宅待機命令は、分会長が組合員であるが故に発せられた不利益取扱いに当たるとみるのが相当である。
 そして、分会長に自宅待機を命じたことにより、組合活動に影響を及ぼしたといえる。したがって、本件自宅待機命令は、組合に対する支配介入にも当たる。

オ 以上のとおりであるから、学校法人が分会長に対し自宅待機を命じたことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(3)団交申入れに対する学校法人の対応について

ア 団交申入れに係る団交が開催されていないことについて、当事者間で争いはない。

イ 組合の要求事項には、緊急性が高く、かつ、事業承継にかかわらず対応すべき事項が含まれている一方で、学校法人は、組合が申し入れた協議事項について、個別に、緊急性や事業承継への影響の有無を検討することなく、一律に、事業承継前の団交開催を拒んでいるとみざるを得ず、かかる対応は、団交における説明責任を逃れ、団交開催を引き延ばすものといわざるを得ず、団交に応じなかったことにつき、正当な理由があったとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、団交申入れに対する学校法人の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(4)学校法人が組合に対し警告書を送付したことについて

ア 学校法人が警告書を発した経緯についてみる。
 組合は、授業中に、校門から、教室のある方向に向かって、拡声器を用いて呼びかけを行ったのであるから、組合の行動が組合活動として限度を超えていたか否かはともかく、学校法人が、組合の行動により授業の実施が妨げられたと判断したことには、相応の理由があるといえる。
 そうすると、学校法人が、組合の行動に対し、警告書を組合に送付したことは不当であったとはいえない。

イ 次に、組合活動に対する影響についてみる。
 警告書で問題としているのは、組合活動全般ではなく、本件での組合の行動やこれと同様の行動であるのだから、組合活動への影響は限定的なものとみるのが相当である。

ウ 以上のことを総合して判断すると、学校法人が組合に対し、警告書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるとまではいえず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

3 命令内容

(1)誓約文の交付

(2)その他の申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、学校法人は中央労働委員会に再審査を申し立てたが、中央労働委員会において、本件命令は労働組合法第27条の14第3項により失効した。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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