4.N事件(令和4年(不)第1号及び同年(不)第26号併合事件)命令要旨

更新日:2023年12月27日

1 事件の概要

 本件は、会社が、(1)組合からの団体交渉申入れに対して、これを拒否したこと、(2)組合が、会社従業員2名の組合への加入を通知したところ、同人らに対して自宅待機を命じたこと、(3)前記組合員2名との面談において、組合を誹謗中傷する発言を行ったこと、(4)組合に対して、組合の活動を非難する文書を送付したこと、(5)前記組合員2名に対して組合脱退勧奨を行ったこと、(6)会社と同一グループである申立外会社の記念パーティーに、従業員らの中で前記組合員2名のみ招待しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)組合の団交申入れに対する会社の対応について

ア 会社が、本件団交申入書による団交に応じていないことについて、当事者間に争いはない。
 また、本件団交申入書は団体的労使関係の運営に関する事項や組合員の労働条件に関する事項を含んでいるといえ、義務的団交事項に当たる。

イ 会社は、団交を行っても、従前どおり、会社を威圧する有無を言わさぬ団交になることが想定されたため、団交申入れを拒否したことには、正当な理由がある旨主張するが、「会社を威圧する有無を言わさぬ団交になることが想定される」だけでは、あまりにも漠然として具体性を欠く主張であるため正当理由としては認めがたい。
 したがって、本件団交申入書に対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといわざるを得ない。

ウ また、会社の当該対応は、組合の存在を否定し、組合の団結権を否認するものとして、組合員の組合に対する信頼を失墜させるものといえるため、組合に対する支配介入にも当たる。

エ 以上のとおりであるから、本件団交申入書に対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(2)組合員2名に対して自宅待機を命じたことについて

ア 組合員2名は、長期間、いつまで続くかわからない自宅待機を日々命じられており、身分上不安定な状態にあったことは否めず、同人らが不安を抱き、精神的苦痛を感じていたことは想像に難くない。したがって、同人らは精神的な不利益を被ったといえる。

イ 会社は、自宅待機命令は、組合員2名を行かせる現場がないという業務上の理由に基づくものである旨を主張するが、組合員2名を拒否したという取引先らの意思決定とは、主に同一グループ企業の代表者としての立場で、会社の社長が行ったものといえる。

ウ 会社が組合員2名に対して自宅待機命令を発した当時の労使関係についてみるに、組合と会社の間は、別の組合員らの懲戒解雇等を巡り、緊張関係にあったとみるのが相当である。

エ 以上のことを総合すると、会社が組合員2名に命じた自宅待機命令には、不利益性があるといえ、その理由もやむを得ないものとは認められず、組合と会社の労使関係が緊張関係にある中で行われたものであることからすると、同人らが組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとみるのが相当である。
 そして、組合員2名に自宅待機命令を命じたことによって、会社で業務に従事する組合の組合員は存在しない状態になり、組合は、会社における組合活動を行うことができない状態であったといえ、また、他の従業員の組合加入を抑止する効果の可能性も否定できないことからすると、組合員2名に自宅待機を命じたことは、組合に対する支配介入にも当たる。

オ 以上のとおりであるから、会社が、当該組合員2名に対し、自宅待機命令を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(3)面談における会社代表者の発言について

ア 組合員2名との面談において、社長が述べたことは組合を非難し、否定し、また同人らが組合に入ったことを非難するニュアンスを含む発言であったといえる。
 仮に社長の言動が、組合に対する正当な反論であったとしても、反論であるのならば、それは組合に対して行うべきであり、組合員を個別に呼び出して述べるべき内容ではない。
 このように、組合員2名に対する発言は、組合の意義を否定し、同人らの組合脱退に繋がった可能性も否定できず、組合活動に与える影響があったとみるのが相当であり、明確に組合脱退勧奨行為に当たるとまでは認定できないまでも、組合に対する支配介入であるといわざるを得ない。

イ 以上のとおりであるから、面談における社長の発言は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(4)会社が組合に対して文書を送付したことについて

ア 当該文書は、組合あての文書であり、広く一般の組合員や従業員に向けて発表されたものではなく、その文書の中で、会社が組合の執行部メンバーに関して言及したり、組合を非難したりしたとしても、そのことで組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、及ぼす可能性があるものであったとまでみることはできない。また、表現の自由の観点からも、会社が自己の見解を表明することは、一定許容されるべきということができる。

イ 以上のとおりであるから、会社が、組合に対し、当該文書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(5)組合員への組合脱退勧奨について

ア 組合員2名との面談における社長発言の全体をみても、組合脱退を勧める発言それ自体は見当たらず、当該面談において、具体的な組合脱退勧奨が行われたとまで認めることはできない。また、その後、組合員2名が実際に組合を脱退したという事実を併せ考えたとしても、会社が同人らに対して、実際に脱退勧奨を行った事実があるとまで認めることは困難である。その他、会社が組合員2名に対し、組合脱退勧奨を行ったと認めるに足る具体的な事実の疎明はない。

イ 以上のとおりであるから、会社は、組合員2名に対して、組合脱退勧奨を行ったとはいえず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(6)記念パーティーに招待しなかったことについて

ア 当該記念パーティーは、会社の施設内において公然と案内が行われた上で会社の従業員全員に一律に提供された催しであり、かつ、そこにおいては料理やエンターテインメントが提供されていたものといえ、そのことからすれば、たとえ主催者が会社ではなくグループ企業であったとしても、当該記念パーティーは、会社の従業員に対してサービスを提供する催しとしての側面を持つものであったとみることができる。
 そうだとすれば、組合員2名は、職場の全員の参加が予定され、参加者がサービスを享受できるイベントから自分達だけが排除されたことになり、不利益があったといえる。

イ 組合が組合員2名を通じて記念パーティーを妨害することが予想された旨の会社の主張については、同人らがどのような役割を果たし、どのような組合の妨害が行われることが予想されたのかが不明確であり、当該会社の主張する妨害の恐れは具体的な根拠のないものであったといえる。
 これらのことからすれば、会社が組合員2名を記念パーティーに招待しなかったことについて、合理的な理由があったとまではいえない。

ウ 以上のとおりであるから、会社が、当該記念パーティーに、組合員2名を招待しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるといえ、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)誓約文の交付

(2)その他の申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、組合及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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