3.S事件(令和3年(不)第70号及び同4年(不)第24号併合事件)命令要旨

更新日:2023年12月27日

1 事件の概要

 本件は、(1)組合の会計に問題がある等とするビラの作成や組合員への配付に会社が関与したこと、(2)会社が組合執行委員長を雇止めにしたこと、(3)会社が雇止め後に組合執行委員長の団体交渉への出席を認めないとしたこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)本件ビラの作成及び配付について

ア 本件ビラは、組合員の立場から、本件執行委員長及び執行部の組合運営には会計面で不審な点があり、私的流用の可能性もあるとして非難し、他の組合員に対し、反執行部である自分たちの意見や活動に賛同するよう呼びかけるものとみるのが相当である。

イ 一般に、労働組合内部で執行部と反執行部の対立がある場合には、使用者は、組合活動の自主性を重んじ、双方に対し平等に対応し、中立的な態度を保持すべきであって、一方の活動を支援し、他方の弱体化をもたらす行為は労働組合に対する支配介入に当たるというべきである。そうすると、仮に、本件ビラの原案を作成したのは反執行部の組合員だとしても、会社が、レイアウトの編集作業や印刷、配付について助力すれば、中立保持義務に違反し、支配介入に該当し得るというべきである。

ウ 本件ビラへの会社の関与についてみると、本件ビラが配付された約2か月前には部長から係長あてに、約1か月前には社長から係長あてに、それぞれ添付文書付きのメールが送信されたことが認められる。
 この部長からのメールに添付された文書の内容が、概ね、社長からのメールに添付された文書に含まれており、さらに、社長からのメールに添付された文書と本件ビラは酷似しているということができる。また、部長からのメールの本文には「名誉毀損等で足元をすくわれる事が無いように確認お願い致します。」と記載されていたことや社長からのメールの本文には第2回以降のビラを新聞形式で作成するよう求める旨記載されていたこと等が認められる。
 さらに、係長が会社の印刷機を使用して本件ビラを印刷し、部長が配付について指示をした上で、会社の本社施設内において、本件ビラが配付されたことが認められる。
 加えて、社長は社会保険労務士に対し、本件ビラを添付の上、メールを送信しており、その本文には、(1)組合の反執行部の組合員の力添えを得て、添付ファイルどおりに本社にてビラを配付した、(2)本件ビラが名誉棄損に当たるのかどうかを確認したい旨記載されており、しかも、このメールは部長と係長にも同報されたこと、がそれぞれ認められる。

エ 以上のことからすると、会社は、組織として社長の指示の下、中立の立場を逸脱して反執行部の活動を支援ないしは誘導し、本件執行委員長を中心とする組合執行部を非難する趣旨の本件ビラの作成や配付に深く関与したというのが相当である。かかる会社の行為は、組合に対して支配介入を行ったもので、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(2)本件執行委員長の雇止めについて

ア 令和2年頃、新型コロナウイルス感染症の流行下での対応に関して、組合と会社との間で対立があったということができる。
 本件ビラの配付後も、反執行部作成の文書が組合員個人あてに郵送されたり、会社施設内に掲示されたりしたところ、これに関連して、社長、部長及び係長の間や、これら3名と反執行部の代表者、社会保険労務士及び税理士との間で電子メールでのやりとりがあったことが認められ、その内容からすると、本件ビラが配付された後も、会社は、組合運営には会計面で不審な点があるとして本件執行委員長を中心とする組合執行部を非難するという反執行部の活動を、専門家の助力を得るなどして支援ないしは誘導していたとみるのが相当である。
 以上のことからすると、会社が、本件執行委員長が執行委員長として組合活動をすることに対し、嫌悪意思を有していたことが推認できる。

イ これに対して、会社は、本件執行委員長が70歳に達したことに加えて、勤務状況・勤務態度が不良であり改善の見込みがないことから、本件雇止めを行ったと主張する。
 会社が本件執行委員長に対し、営業成績に関して注意書等を交付したことが認められるが、会社は本件執行委員長に注意書等を交付する数か月前までは、従業員に対する注意書等の交付を行っておらず、また、会社が、営業成績等がいかなる場合に注意書等の交付対象とするか、客観的な基準を定めていたとする疎明等はない。そうすると、会社は、全従業員の営業成績をもとに客観的な基準をもって交付対象者を決定していたとはいえず、相当恣意的に、本件執行委員長に対し注意書等を交付したというべきである。
 また、会社は、本件執行委員長以外に営業成績を理由に契約を更新しなかった従業員7名を挙げるが、これら従業員が契約更新を希望したにもかかわらず雇止めされたと認めるに足る疎明はなく、このうち6名は、退職の申出をして退職するなどしており、自らの意思で退職したというのが相当である。したがって、会社が本件執行委員長以外に対し、営業成績の低迷を理由に、本人の意向にかかわらず雇止めをするとの取扱いをしてきたとは到底、みることはできない。なお、年齢に関しても、会社は70歳以上の従業員を相当数、雇用しているということができ、会社のホームページの求人情報についての記載からみても、会社は70歳以上の従業員を雇用する姿勢を取っていたということができる。

ウ 以上のとおりであるから、会社は本件執行委員長に対し、他の従業員に対するものとは均衡を欠いた差別的な取扱いをし、営業成績や勤務態度等を持ち出して雇止めにしたというべきで、かかる差別的な取扱いの差は、本件執行委員長が執行委員長として組合活動を行ったことによるものとみるのが相当である。
 したがって、本件雇止めは、組合員であるが故の不利益取扱いであると判断され、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(3)団交への本件執行委員長の出席について

ア 組合は、特段の事情がない限り、組合側の団交出席者の人選を自由に行えるというべきところ、会社は、理由を書面で明示せず、一方的に本件団交に本件執行委員長の出席を認めないことを通知したというべきである。

イ 組合が会社に対し、本件執行委員長を、雇止め以降、任期満了まで、組合専従者とすると決議した旨通知したところ、会社は組合に対し、(1)組合規約には、組合は会社の従業員を以って組織すると規定されているのだから、従業員でなくなった本件執行委員長を専従者とすることは、組合規約に抵触する、(2)本件執行委員長を専従者とすることは別組合との協定書にも違反する旨回答したことが認められ、会社はこの回答書の記載内容を理由として、本件団交に本件執行委員長の出席を認めないとしたと解せるのであるから、これらの点について検討する。

ウ まず、労働組合がどのような範囲の労働者に加入資格を認めるかについては、各労働組合が使用者から独立して自由に決定、変更できることは明らかであって、使用者が労働組合の加入資格に関与したり、意見を述べたりすること自体、労働組合の自主性、自立性を阻害する行為として問題となり得るものである。なお、本件においては、組合は、組合が組織する範囲について、会社の従業員と専従者とする旨の改正を行ったことが認められる。
 また、別組合との協定書については、会社において本来、就労義務のある会社の従業員が組合業務に専従することに関して定められていることは明らかである。そうすると、仮に、組合についても別組合との協定書と同内容での運用がなされていたとしても、会社は本件執行委員長が既に従業員ではないとしている以上、本件執行委員長の処遇はこの協定書の対象外であり、組合は組合専従者の人選を自由に行えるのであって、この協定書をもって、本件執行委員長が専従者になることができないとは解せない。

エ 以上のとおりであるから、会社は正当な理由なく、一方的に、本件執行委員長の団交への出席を認めない旨通知したと判断され、かかる行為は、団交における組合との協議に誠意を欠いた対応をしたものであって、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)組合執行委員長に対する雇止めのなかったものとしての取扱い、原職復帰及びバック・ペイ

(2)団交への組合執行委員長の出席拒否の禁止

(3)誓約文の手交及び掲示

※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てたが、中央労働委員会において、本件命令は労働組合法第27条の14第3項により失効した。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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