2.S事件(令和3年(不)第69事件)命令要旨

更新日:2023年5月19日

1 事件の概要

 本件は、組合が、組合員に対する会社からの契約解除通知を協議事項とする団体交渉後、再度の団交を申し入れたところ、会社がこれを無視したことが不当労働行為であるとして、申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)労働組合法上の労働者性について

ア 会社は、A組合員が労働組合法上の労働者に当たるか否かについては主張も立証もしていないが、労働基準法上の労働者に当たらない旨主張するので、念のため、A組合員が会社との関係で労働組合法上の労働者に当たるかについて、労働組合法上の労働者性の基本的判断要素である(ア)事業組織への組入れ、(イ)契約内容の一方的・定型的決定、(ウ)報酬の労務対価性に即して検討する。

イ 事業組織への組入れについて
 A組合員は、業務の実施に不可欠な医師免許保有者として、会社の事業組織に組み入れられていたということができる。

ウ 契約内容の一方的・定型的決定について
 A組合員と会社との間で締結された契約は、会社が、不特定多数の医師との間で、その内容を一方的・定型的に決定していたものというべきである。

エ 報酬の労務対価性について

(ア)A組合員は、特段の経費を負担することなく業務に従事し、これに対する報酬は、勤務した時間に応じて算出されていたということができる。

(イ)A組合員は、勤務すべき日時及び場所に関する会社の指示に従い、会社の指揮監督の下、業務に従事していたということができる。

(ウ)以上のことからすると、A組合員は、会社による時間的場所的拘束及び指揮監督の下で業務に従事し、仕事の完成又は質若しくは量にかかわらず、労務を提供した時間の対価としての報酬を得ていたものというべきである。

オ 会社が、以前の団交について、A組合員の労働組合法上の労働者性については特段の疑義を呈することなく応じていることに、本件団交申入れに特段の対応をしていない会社の態度を併せ考えると、本件団交申入れの時点において、会社に、A組合員の労働組合法上の労働者性を争う意思があったとみることはできない。

カ 以上のことを考え合わせると、A組合員は、労働組合法上の労働者に当たるとみるのが相当である。

(2)義務的団交事項について

 実質的な協議事項は、契約の解除の撤回及び解決金の支払であると解するのが相当であり、本件団交申入れの協議事項は、A組合員の労働条件に関するものといえ、義務的団交事項に当たる。

(3)団交拒否の正当理由について

 会社は、本件団交申入れに応じなかった正当理由として、(ア)以前の団交及びその後のやり取りにおいて、組合が雇用契約であると考える根拠を示さなかったことによって、議論の余地がなくなったこと、(イ)以前の団交において、組合が威圧的な言動や解決金の要求に終始したため、話合いができなかったこと、を挙げるので、この点についてみる。

ア まず、前記(ア)の理由についてみる。
 以前の団交におけるやり取りについては、当事者から何ら立証がなく、本件団交申入れの協議事項について、議論の余地がなくなっていたと認めるに足りる事実の疎明はない。むしろ、以前の団交が終了した時点において、本件団交申入れの協議事項について、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状態に至っていたとはいえない。
 したがって、前記(ア)の理由が団交に応じない正当な理由であるとはいえない。

イ 次に、前記(イ)の理由についてみると、以前の団交において組合が威圧的な言動や解決金の要求に終始したことについて、会社の側からの立証はなく、団交における組合の態度が交渉を進める上で支障となったと認めるに足る事実の疎明はないのであるから、同理由が団交に応じない正当な理由であるとはいえない。

(4)不当労働行為の成否について

 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

3 命令内容

(1)団交応諾

(2)誓約文の交付

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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